一条真也です。
最近、YouTubeの人気チャンネルを努めて観るようにしています。副理事長を務めている一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団が儀式文化の振興事業として動画配信を計画しており、そのための勉強です。けっして、わたし自身がYouTuberになろうなどと考えているわけではありませんので、悪しからず。(笑)
多くの人気チャンネルを観ていると、大量の登録者を抱えているYouTuberほど礼儀正しいという事実を発見しました。言葉遣いもきちんとしていますし、ゲストに対しても礼を忘れていません。まさにブログ『結局うまくいくのは、礼儀正しい人である』という本に書かれてある内容通りですが、特に、外見のイメージと違って礼儀正しい人は、意外性も加わって大きなイメージアップとなっているようです。例えば、若い頃はヤンチャだった格闘家の朝倉未来がそうですし、芸人YouTuberとしては最高の成功を収めている江頭2:50がその代表格だと言えます。
江頭2:50といえば、数々のトラブルを巻き起こしたNG芸人として知られていますが、YouTuberとなってからは高い人気を誇り、「エガちゃんねる EGA-CHANNEL」のチャンネル登録者数は、なんと264万人です。その中に「初めてシリーズ」という企画があり、江頭2:50がマクドナルド、モスバーガー、サイゼリヤ、蒙古タンメン中本などの外食チェーンで飲食したり、アマゾンを利用したり、ダイソーやルイ・ヴィトンで買い物したりしています。その企画でマクドナルドの商品を初めて味わって酷評した後、モスバーガーの商品、特にモスシェークコーヒーを大絶賛します。感激のあまり、江頭はモスバーガーの本社のお客様相談室に電話するのでした。すると、しばらくして彼に1通の手紙が届きます。
手紙はなんと直筆で便箋3枚にもわたる長文でした。内容は、江頭からの電話についてモスバーガー職員一同が大変嬉しく、感激したというものであり、そのお礼の手紙でした。お客様相談室といえばモスバーガーに限らず、好意的な問い合わせよりは、クレームが圧倒的に多いものです。その担当職員としては、心苦しい問い合わせの方が多いと言えます。そんな中、江頭2:50がわざわざ電話をかけて、正直でストレートなモスバーガー愛を伝えたわけです。電話を取った担当者は大変驚き、嬉しかった様子がよく伝わってきます。特に江頭が120点と大絶賛し、その旨を伝えたモスシェイクコーヒーについては担当スタッフも非常に感動したとのこと。こうした自社商品についての嬉しい感想をダイレクトに伝えてくれるというのはスタッフにとってどれほど嬉しいことでしょうか! わたしはこの動画を観て、泣くほど感動しました。
「エガちゃんねる EGA-CHANNEL」より
4万件を超える動画のレビューの中には「電話する→モスさん喜ぶ→感謝のお手紙と10杯券もらう→エガちゃん喜ぶ→一連の流れを見て視聴者も喜ぶ。なんかもう、こういう幸せループ大好き! 褒めたり、ありがとうって伝えられる人大好き!」「こういう事が社内の一部部署だけで『エガちゃんから電話きたんだー、へーすごいね』で終わらずちゃんと全社内にそれが伝達されるのは情報共有、意思疎通が成されている優良企業の証拠。褒めてもらった喜びは全社員で共有する姿勢がすばらしい」というものがありました。また、「この動画をみて、ほんとに泣けてきました。お客様相談室なんて言っても、相談なんてなくていつも怒声や罵声を浴びていた自分。モスではないけど、こんな感謝の声を電話を通じて、少しでも聞けたならこころを壊すこともなかっただろうなって思いました。ひとのこころを壊すのがヒトなら、ひとのこころを癒してくれるのも人なんだなぁ」というものもありました。
「エガちゃんねる EGA-CHANNEL」より
まさに、企業と顧客が互いにケアし合っています。わたしは、この動画から「ケアの時代」の到来を感じました。その旨を記して何人かにメールで動画を紹介したところ、サンレー沖縄の佐久間康弘社長からは「感情労働の代名詞にもなっているお客様窓口やサービス業では、ハラスメントが起きやすい環境にあるので、こういう動画のようなケアし合っているやり取りが多くなるといいなと思います。相手を助けることで自分自身を助けている関係が広がり、更に恩送りのネットワークで支え合いが循環する社会まで発展していけば、まさにケア時代が到来するのだろうと考えます」との返信が来ました。サンレーグループ冠婚本部の山下格副本部長からは「鼻の奥がツンとなりました。事務所で不覚にも涙がこぼれそうになりました。感謝の手紙を、丁寧に噛みしめるように読む姿勢にも感動しました。本当にありがとうございます」との返信が届きました。
「エガちゃんねる EGA-CHANNEL」より
さらに、サンレーグループのグリーフケア推進課の市原泰人課長からは「こころが温まる動画を送っていただきありがとうございます。動画を見た後コメントを少し見てみましたがモスバーガーで働いている方からのコメントが多く、この動画にケアされたことが良くわかりました。葬祭でもお褒めの言葉をいただくことがあり、それらを印刷したものを各紫雲閣に配布しています。クレームやご意見をいただくこともありますが『よかった』や『安心できた』という言葉が多く、スタッフもそれを閲覧できるようにしています。おそらくそれはお客様がスタッフより癒され、スタッフもお客様から頂いた言葉で癒されていることだと思います。また、そういった言葉の中には『○○さんでよかった』と名指しで言葉をいただくことがあります。それらはお客様とスタッフと互いに1人の人間として信頼関係がより深く構築できていると思っています。そのようなお客様には法事やお盆でお会いすることも多く、また何年後かにはリピーターとしてご依頼いただき繋がりを保っていくことが出来ます。その連鎖がケアの社会・時代を作っていくものだと考え、より一層精進していきたいと思います」という熱いメッセージが届きました。
『ハートフル・ソサエティ』(三五館)
「ケア」という概念は「ホスピタリティ」に似ています。いや、2つの言葉は同義語と言ってもいいと思います。拙著『ハートフル・ソサエティ』(三五館)の中の一章である「ホスピタリティが世界を動かす」で、ラテン語のservus(奴隷)という言葉を語源とする「サービス」serviceにおいては、顧客が主人であって、サービスの提供者は従者という構造を指摘しました。ここでは上下関係がはっきりしており、従者は主人に服従し、主人のみが充足感を得ることになります。サービスの提供者は下男のように扱われるため、ほとんど満足を得ることはありません。サービスにおいては、奉仕する者と奉仕される者が常に上下関係、つまり「タテの関係」の中に存在します。
『ホスピタリティ・カンパニー』(三五館)
これに対して、「ホスピタリティ」hospitalityの語源は、ラテン語のhospes(客人の保護者)に由来します。本来の意味は、巡礼者や旅人を寺院に泊めて手厚くもてなすという意味である。ここから派生して、長い年月をかけて英語のhospital(病院)、hospice(ホスピス)、hotel(ホテル)、host(ホスト)、hostess(ホステス)などが次々に生まれていった。こういった言葉からもわかるように、それらの施設や人を提供する側は、利用者に喜びを与え、それを自らの喜びとしています。両者の立場は常に平等であり、その関係は「ヨコの関係」です。ゲストとホストは、ともに相互信頼、共存共栄、あるいは共生のなかに存在しているのです。詳しくは、『ホスピタリティ・カンパニー』(三五館)をお読み下さい。
『ミッショナリー・カンパニー』(三五館)
その意味で真の奉仕とは、サービスではなく、ホスピタリティのなかから生まれてくるものだと言えます。ここでいう奉仕とは、自分自身を大切にし、その上で他人のことも大切にしてあげたくなるといったものです。自分が愛や幸福感にあふれていたら、自然にそれを他人にも注ぎかけたくなります。「情けは人の為ならず」と日本でも言いますが、他人のためになることが自分のためにもなっているというのは、世界最大の公然の秘密の1つです。アメリカの思想家エマーソンによれば「心から他人を助けようとすれば、自分自身を助けることにもなっているというのは、この人生における見事な補償作用である」というわけです。ここには、「ミッション」(使命)というものも大きく関わってくると思います。詳しくは、『ミッショナリー・カンパニー』(三五館)をお読み下さい。
『アンビショナリー・カンパニー』(現代書林)
与えるのが嬉しくて他人を助ける人にとって、その真の報酬とは喜びにほかなりません。他人に何かを与えて、自分が損をしたような気がする人は、まず自分自身に愛を与えていない人でしょう。常に自分に与えて、なおあり余るものを他人に与える。そして無条件に自分に与えていれば、いつだってそれはあり余るものなのです。さらに、その愛は「志」へと昇華します。「自分が幸せになりたい」というのは夢であり、「世の多くの人々を幸せにしたい」というのが志です。夢は私、志は公に通じているのです。自分ではなく世の多くの人々、「幸せになりたい」ではなく「幸せにしたい」、この違いが重要なのです。真の志は、あくまでも世のため人のために立てるものであり、「志」に通じている「夢」ほど多くの人々が応援してくれるために叶いやすいのです。ゆえに、わたしは、大志を掲げた会社ほど成長できると確信しています。詳しくは、『アンビショナリー・カンパニー』(現代書林)をお読み下さい。
『心ゆたかな社会』(現代書林)
わたしは、無縁社会を克服して、有縁社会を再生するという志を立て、そのために「礼」という人間尊重思想を広める「天下布礼」に取り組んでいます。そして、人間尊重とは「ケア」の別名でもあります。真のケアとは、助ける人、助けられる人が1つになるという。どちらも対等です。相手に助けさせてあげることで、自分も助けている。相手を助けることで、自分自身を助けることになっている。まさにこれは、与えること、受けることの最も理想的な円環構造と言えます。その輪のなかで、どちらが与え、どちらが受け取っているのかわからなくなる。それはもう、1つの流れなのであり、それが実現する社会こそ拙著『心ゆたかな社会』(現代書林で示したビジョンそのものです。そのことを「エガちゃんねる EGA-CHANNEL」で再確認しました。「ケアの時代」を先取りした江頭2:50。THE BLUE HEARTSの「人にやさしく」をカメラの前で初めて歌う動画も最高ですし、「人にやさしく」を「ケアの時代」のテーマソングにしたくなりましたね。新年早々、わたしは彼の大ファンになりました!
エガちゃん、あなたは素晴らしいよ!!
2022年1月2日 一条真也拝