唐十郎、死す!

一条真也です。
4日、唐十郎さんが急性硬膜下血腫のため東京都内の病院で亡くなりました。84歳でした。「泥人魚」「ベンガルの虎」などテント劇場で時代を挑発し日本の演劇界をリードした劇作家、演出家、俳優で文化功労者です。わたしにとって、三島由紀夫澁澤龍彦寺山修司と同じ昭和の香りがする文化人でした。心よりお悔やみを申し上げます。


ヤフーニュースより

 

故人は、東京生まれ。下町で育ちました。
明治大文学部で演劇学を専攻。卒業後、劇団「状況劇場」を結成。前衛舞踏家の土方巽の影響を受けて既存の演劇公演に反発し、1967年に東京・新宿の花園神社に初めて紅テントを仮設し、独自のスタイルで公演を始めました。70年、「少女仮面」で岸田國士戯曲賞。都会のノイズを皮膜一枚で隔てた空間に現出させる詩的で猥雑な劇世界は熱狂的な人気を集め、日本の演劇界を変革したアングラ小劇場運動を先導しました。



2003年に長崎県諫早湾干拓問題を題材に「泥人魚」を発表、読売文学賞戯曲・シナリオ賞、鶴屋南北戯曲賞などを受賞。12年に自宅前で転倒し頭部を負傷するまで新作を発表、演出と役者を務めました。小説家としては1983年に「佐川君からの手紙」で芥川賞を受賞。97年から2005年まで横浜国立大教授。06年には読売演劇大賞芸術栄誉賞を贈られました。


わたしは、中学時代に故人の著書である『吸血姫』の角川文庫版を読んだことがあります。その刺激的なタイトルに惹かれ、恐ろしい怪奇小説を期待していたのに中身は戯曲だったので、なんだか肩透かしを喰ったような思い出があります。わたしが唐十郎の名前を心に強く刻んだのは、円谷プロ怪奇大作戦(1968年~69年)に続いて製作した、本格オムニバスホラーの大人向け1時間ドラマの「アンバランス」でした。フジテレビ系列で1973年1月8日から4月2日まで毎週月曜日23:15 ―翌00:10(JST)に放送され、全13話でした。その第4話「仮面の墓場」唐十郎が出演したのです。


ウルトラQ(1966年)の企画時のタイトルだった「アンバランス」を冠したこのドラマシリーズは、円谷プロにとって原点回帰の意味も込められていました。「怪奇大作戦」では科学技術に内包する暗黒とそれを利用する犯罪者の恐怖が描かれましたが、本作品では日常や常識のバランスが崩れた不可解で理不尽な恐怖が題材とされました。「仮面の墓場」は劇団の物語で、公演準備中、劇団員が転落。死亡したと思い込んだ座長の犬尾(唐十郎)は事実をもみ消すため、死体ボイラー室で焼却しようとしますが、点火の瞬間、死体から叫び声が響きます。その日から、彼らは怪事件に巻き込まれて行くのでした。


また、唐十郎といえば、ブログ「夜叉ヶ池」で紹介した日本映画を思い出します。1979年に公開された篠田正浩監督作で、泉鏡花が夜叉ヶ池の竜神伝説を元に書いた戯曲の映画化で、歌舞伎役者の坂東玉三郎が初めて出演した映画でもあります。この映画には金田龍之介が演じる悪い代議士が登場するのですが、彼が雇った侠客を唐十郎が演じています。わたしはこの映画の大ファンですが、権利の問題から今までビデオ化もされず、テレビ放映もほとんど叶わなかった幻の作品です。アメリカの会社が版権を取得したことによって、2022年8月に42年ぶりにブルーレイ化されました。狂喜したわたしは、何度も観ました。


「夜叉ヶ池」で侠客を演じた唐十郎

 

唐十郎状況劇場金田龍之介は青猫座、重要な登場人物を演じた山﨑勉は文学座加藤剛俳優座の出身ですが、とにかく、歌舞伎からアングラ演劇まで、映画「夜叉ヶ池」には日本演劇界の精鋭が総結集している観があります。その中でも、唐十郎の存在感は大きく、背後の手下どもに「たたんじまえ」と言い放つ姿はド迫力でした。状況劇場時代の故人は知りませんが、「仮面の墓場」と「夜叉ヶ池」での演技が今もわたしの脳裏に強烈に残っています。故人の御冥福を心よりお祈りいたします。合掌。



2024年5月5日  一条真也