シバターの八百長疑惑について思ったこと

一条真也です。
昨年12月31日の大晦日に行われた総合格闘技イベント「RIZIN.33」で、プロレスラーで人気YouTuberのシバター(36)が元K―1ウェルター級王者の久保優太(34)から奇跡の勝利を挙げました。プロレスファンのわたしは自宅でTV観戦していましたが、「おおっ、シバターやったな!」と歓喜しました。

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勝利後、てんちむと抱き合うシバター

 

この試合、久保は歩いてシバターに向かいローキック。シバターは走ってロープワークを見せ、リック・フレアーのようにリングに両膝をついて命乞いのポーズまで見せます。しかし、久保は意に介さずローを見舞います。さらにミドル、ローと蹴りを連続しますが、シバターは右フックで久保をダウンさせ、久保が首相撲に来るとシバターは飛びつき腕十字。シバターはこれを綺麗に極め、久保のセコンドからバトンが入ってシバターの勝利となりました。


しかし、その後、シバターと久保の試合前のLINEのスクショがネット上に流出しており、内容を抜粋するとシバターが「明日は台本なしでやりましょう。ただ、これだけお願いなのですが、多分いつでも私を仕留められると思うので視聴率やてんちむさんにラウンドガールお願いしてたりするので1ラウンド目はめちゃくちゃ私ふざけるので1ラウンド目うまく時間潰して2ラウンド目で本気で倒しにきてください」とお願いしたところ、久保が「明日は台本なしで正々堂々承知致しました! いつでも倒せるだなんてとんでもないです! 僕の良いのが当たれば倒れる、シバターさんの良い技が極まれば極まる。というどっちもあり得る展開だと思います」と返しています。


このLINEのスクショが世間に流れ始めると、すかさずシバターは1月1日に自身のユーチューブチャンネル「プロレスリングシバター」で「RIZIN大晦日大会での疑惑について」のタイトルで動画を配信。シバターは「ぼくの試合の件で、ちょっと巷に疑惑が浮上しておりますので、当人の口から説明しないと騒動が収まらないと思い、動画を撮っております」と切り出した。シバターは「当人なんではっきり言いますね。私、シバターは昨日の久保さんとの試合において一切の八百長はしておりません」と、きっぱりと否定。出回ってるスクショについても「これは全く身に覚えがありません。あれ捏造なんじゃないですか」とこちらも否定しました。


続けて、シバターは「ただ、もしあれが本物だったらとしたら。シバターから久保さんに送られていたのだとしたらね。久保さんって元K―1のチャンピオンでしょ? プロ格闘家でしょ? 絶対に飲んじゃダメでしょ。飲んだふりしても、1ラウンドでマジで仕留めにいかなきゃダメでしょ」と指摘し、さらに「もし仮にそういうのがあったとしても、そこは勝たなきゃダメでしょ。負けたら何も言うパワーはねぇよ。勝ったやつが正しいんだから、この世界って僕は思いますけどね」と持論を展開しました。わたしは、「これはシバターの方が正論だな」と思いました。もっともLINEのスクショは捏造ではなく、本物だと思います。もともと、この試合のかなり前から両者はYouTuber同士としてLINEを交換していたようですね。


一連のやり取りから思い出すのは、かつてのシバターと朝倉未来八百長エピソードです。2019年11月24日に愛媛プロレス朝倉未来と対戦したさいに、シバターは試合前に朝倉の控室で土下座し「ゴング鳴ったら飛びつき十字でガーッといくんで、レフェリーが極まってないのにゴング鳴らしちゃうみたいな」と交渉し、負けてくれれば3000万を払うと約束しました。朝倉も負けることを了承しましたが、試合になると朝倉は飛びつき腕十字を切り返してパウンドを連打、立ち上がったシバターにさらにパンチを連打、そして右フックでKO勝利しました。そのまま倒れたシバターを無視し「真剣勝負はこういうもんなんで。大晦日RIZIN出場するので」とファンにアピールしたという出来事があったのです。この交渉自体がシバターのYouTuberとしての芸であり、格闘家としての戦略となっているわけで、それに乗らなかった朝倉未来は賢く、久保優太は愚かだったと言えるでしょう。そして、試合後の八百長疑惑による炎上まで想定内だったとしたら、シバターは天才ですね!


もともとシバターは格闘家ではなく、プロレスラーです。プロレスの世界では台本通りの展開に試合を行わないことを「ブック破り」といいますが、日本プロレス史上最大のブック破りは、昭和29年12月22日に蔵前国技館で行われた力道山vs木村政彦戦でしょう。「昭和巌流島の闘い」と呼ばれたこの世紀の一戦は、大相撲元関脇の力道山が、不世出の柔道王であった木村を頸動脈への空手チョップでKOしました。試合後、木村は「試合は引き分けの約束だったのに、力道山が裏切った」と訴えました。世間は木村の「引き分けの約束」発言から、プロレスが真剣勝負でないことを知り、この後、熱狂的だったプロレス人気は急速に冷めていきます。

 

 

しかしながら、ルー・テーズアントニオ猪木といった超一流のプロレスラーたちは常に相手がブック破りを仕掛けてくることを想定しながら試合をしていたといいます。そして、彼らは仕掛けられたら必ず相手を制裁していました。それが出来ずに相手の約束を鵜呑みにしてKOされてしまった木村は真のプロレスラーではなかったと言えるでしょう。今回のシバターvs久保優太戦のいきさつを力道山vs木村政彦戦を連想した人は他にもいるようで、今朝からブログ『力道山対木村政彦戦はなぜ喧嘩試合になったのか』のアクセス数が増えております。

 

 

本といえば、ブログ『昭和プロレス  禁断の闘い』で紹介した福留祟広氏の著書の内容も思い出しました。同書で、著者はアントニオ猪木に「力道山木村政彦」の感想を尋ねるのですが、猪木は「この試合は、当時、見てはいなくて、後からビデオで力道山が蹴りを入れている場面を見たけど、いろんなことが言われていて、オレも正直、本当のところ何があったか分からないけど、力道山にしてみれば、やったら弱かったっていうことじゃないのかな。付き合ってられねぇよってバンバンッて倒したってことだと思いますよ。木村さんも柔道で強かったけど、打撃への対応はできなかったんでしょう」と発言しています。これはあまりにも単純な見方のようで、意外と当たっているかもしれません。著者は、「プロレスに対して一貫して『強さ』の追求という姿勢を打ち出す猪木は、力道山と木村の試合も、両者の実力の差が結果に表れたという立場を崩さなかった。何よりも猪木は力道山の強さに憧れてプロレスラーを志した」と述べています。

 

力道山の弟子を代表するプロレスラーがアントニオ猪木なら、猪木の弟子を代表するプロレスラーは前田日明です。1日、前田は自身のユーチューブチャンネルを更新。「RIZIN.33」の注目の試合に独自の見解を語りました。当日まで欠場をにおわせ続けたシバターが元K―1ウエルター級王者の久保にまさかの勝利をした試合については、前田は「久保君は油断しましたね」とした上で「シバターは心理戦もやっているしね。10何キロ、20キロ下の選手をつかまえて。同体重だったら(シバターの)あんなパンチ効かないですよ。(久保は)こういう試合を受けない方がいいですよね」と解説しました。シバターと久保の間には12キロの、そして力道山木村政彦の間にはなんと32キロの体重差がありました。真剣勝負の格闘技において、ウエイトの違いがどんなに重要なものかを改めて思い知りました。そして、「RIZIN.33」のテレビ中継にずっと大手冠婚葬祭互助会「アルファクラブ」の広告が映り続けていたことに驚愕。なんと、シバターvs久保戦はアルファクラブ武蔵野スペシャルマッチで、試合前に和田浩明専務が両選手に花束を渡しているではありませんか! 一体いくら使ったんだよ、アルファさん!



2022年1月2日 一条真也