深海から別の秘境へ

一条真也です。
東京に来ています。これから羽田空港に向かい、スターフライヤーで北九州に帰ります。ブログ「タイタニックと死者の尊厳」で紹介したように、北大西洋に沈没した豪華客船「タイタニック」の残骸を探索する潜水艇タイタン」が消息不明となりました。4日後、ツアーの運営会社は「5人全員が亡くなったとみられる」とする声明を発表しました。犠牲者の方々には心より哀悼の意を表します。

ヤフーニュースより

 

アメリカの沿岸警備隊は、北大西洋に沈没した豪華客船「タイタニック号」の残骸からおよそ500メートル離れた地点で、今月18日から消息不明になっていた潜水艇「タイタン」の一部を発見したと発表。現場海域で捜索を行っていた無人探査機が発見したそうです。「タイタン」にはイギリスの富豪やフランスの探検家ら5人が乗っていましたが、つい先ほど、ツアーの運営会社は、「5人全員が亡くなったとみられる」とする声明を発表しました。


ヤフーニュースのコメント欄で、海洋問題研究者/東海大学海洋学部海洋理工学科教授の山田吉彦氏は「極めて残念なことである」として、「3800メートルの深海挺では、380気圧がかかる。強い水圧下で事故があきると大惨事となりかねない。以前から指摘されていた覗き窓の部分など強度の足りないおそれのある部分が破損した可能性がある。また、航行を続けた三年間の間に金属疲労を起こしていたことも考えられる。引火しやすいリチウム電池の使われ方など確認が必要だ。まず、船体を回収し原因を追及することになる。深海挺タイタンは、深海に一般人を潜らせる前例の無い船で、安全の概念が決めきれていなかった。本来船の安全を示す船級も取得しない実験船の位置付けであり、世界的な安全の基準も定かではなく、深海挺建造の難しさが示された事故である」と書かれています。


潜水艇タイタンを運航させたのは、民間のツアー会社である「オーシャンゲート社」です。これまで危険性が指摘されてきたにもかかわらず、杜撰な安全管理しかしてこなかった同社には非難が集中しています。ツアー参加費用は1人約3500万円だったそうですが、戦争の犠牲者やボートの上で命を落とす「ボート・ピープル」と呼ばれる難民のことを考えると、なんとも複雑な気分になります。なにより、このツアーが観光目的であったことに違和感をおぼえます。タイタニック号沈没事故は1514人もの犠牲者を出した死亡事故であり、沈没したタイタニック号そのものは海の墓場だからです。それを供養のために訪れるならまだしも、興味本位の見学などすべきではないでしょう。

高速半潜水艇与那国島海底遺跡を見学

 

ただ、わたしも筋金入りのロマンティストなので、探検という営みそのものには大きなロマンを感じます。ブログ「月旅行に応募しました!」に書いたように、月面をはじめとした宇宙にも行ってみたいし、まだ見ぬ深海にも行ってみたいです。 また、ブログ「沖縄海底遺跡」で紹介したように、高速半潜水艇与那国島の海底ツアーに参加し、海底に眠る遺跡のような地形を見たときは最高にワクワクしました。自然地形説も強いようですが、わたしはムー大陸伝説のロマンを連想しました。わたしはつねづね、交通網と情報網が高度に発達した現代において、人類のとって真の秘境とは3つだけであると考えています。宇宙と深海と霊界です。そして、その3つの秘境では、人類にとっての普遍的な意識が目覚めるように思えます。


今回、オーシャンゲート社がツアーを組んだタイタニック号の沈没場所に興味がないかといえば嘘になります。「本当は俺も行ってみたかった!」というのが本音です。3500万円ぐらいならポケットマネーで何とかなるので行きたかったですが、わたしが沈没船を訪れるなら単なる観光目的ではなく、数珠を持って慰霊と鎮魂のために訪れたことでしょう。現地では「般若心経」を唱えたと思います。わたしは、もともとタイタニック号の沈没事件に大きな関心を抱いている人間であり、関連する書籍や映像作品もすべて目を通しています。明日、フジテレビでなんと映画タイタニックが放映されるそうです。2週連続放映だそうですが、今回の事故はなんとも悲しい前宣伝になりましたね。一条真也の映画館「タイタニック3D」で紹介したように、2012年4月15日、タイタニック号沈没からちょうど100年目の日、わたしはシネプレックス小倉で特別上映されたタイタニック3D」を鑑賞しました。

わたしが落札したタイタニック号のボトル・オープナー

 

映画「タイタニック」は前半はラブストーリー大作、後半はパニック大作といった趣ですが、194分という長時間をまったく飽きさせない脚本はさすがですね。何度観ても、やはり抜群に面白い。久々に観直して、改めて「完璧な脚本だな」と感じました。以前はあまり気にとめなかった「碧洋のハート」と呼ばれる幻のダイヤが、ストーリー全体における見事なスパイスとなっています。また、ローズとジャックの逃避行を利用して、船内をくまなく案内するなど、何度も「うーん、うまいなあ」と唸りました。タイタニック号といえば、わたしは関連のアンティ―クをコレクションしています。これまでに当時の船の模型をはじめ、乗船チケット、船上のメニュー表、ポスターなどを収集してきましたが、先日、当時の船上で実際に使われたボトルオープナー(1912年製)をヤフーオークションで落札しました。非常に珍しい物なので大事にします。


今回のタイタン死亡事故に戻ります。「生存は絶望的」とニュースなどで報道されていましたが、改めて全員死亡という結末に接すると残念でなりません。悲しいことではありますが、全員が亡くなっているのであれば、ご遺体が引き揚げられて、きちんとお別れができることを願っています。現実は変えられませんが、遺族の方々にとっての未来は変わってくると思います。ヤフーニュースをはじめ、今回の結末を知った多くの人々が「ご冥福をお祈りします」と書かれています。「ご冥福」とは仏教の言葉です。イギリス人やフランス人といった今回の犠牲者はおそらくはキリスト教徒でしょうから違和感を覚える方もいるかもしれません。でも、そんなことはどうでもいいのです。大切なのは死者への哀悼の誠であり、日本人の場合、それを口にすると「ご冥福をお祈りします」となるのです。

供養には意味がある』(産経新聞出版

 

作家の青木新門氏がお亡くなりになられたとき、わたしは追悼ブログの最後に「ご冥福をお祈りいたします」と書きました。すると、ある浄土真宗の僧侶から「ご冥福とは、冥途で幸福になるということ。冥途とは煩悩が残る迷える場所のこと。親鸞聖人の教えに帰依されていた青木さんは冥途にはいないと思いますよ」と間違いを指摘するメールが届いたことがありました。わたしは「このお坊さんはわかっていないな」と思い、無視しました。こんな些事にこだわって「何が本当に大事なのか」ということを考えていないから、今の日本仏教はダメになり、「葬式は、要らない」とか「葬式消滅」などと言われるのだなとも思いました。「宇宙・深海・霊界」が人類にとって最後の秘境であると述べましたが、深海で命を落とされた5人の方々も、本当の秘境である霊界(天国・極楽)へと旅立たれ、その魂が安からんことを願っています。最後に、犠牲者の方々の御冥福を心よりお祈りいたします。合掌。

心より御冥福をお祈りいたします

 

2023年6月23日 一条真也