生成ゴーストについて

一条真也です。
ネットを見ていたら、ヤフーニュースで生成AIで死者を“復活”させるビジネスは人を救うのか 指摘される懸念とは?という記事を見つけました。筆者は、国際ジャーナリストでノンフィクション作家の山田敏弘氏です。

ヤフーニュースより

 

記事には、「最近日本で、中国発のこんなニュースが話題になった。TBSの報道によると、「世界では今、インプットされたデータから文章や画像などを自動で作り出す『生成AI』の技術が急速に進化しています。こうした中、中国では『生成AI』を使って、亡くなった人を『復活』させるビジネスが登場し、論争を呼んでいます」という。つまり、生成AIに死んだ人の画像や声などを学習させることで、亡くなった人と対話ができるというものだ。これは中国での話だが、実は世界では米国を中心にすでにこうしたサービスは始まっており、物議になっているケースもある」と書かれています。

ヤフーニュースより

 

元記事は、「TBS  NEWS  DIG」が配信した『パパ、ママ、会いに来たよ』AIで死者を“復活” 中国で新ビジネスが論争に『冒とく』か『心の救済』かです。グリーフケアに関係している内容であることは明らかなので、興味深く読みました。これに関しては、わたしもブログ「AIによる死者の復活」で紹介し、感想を述べました。そこで、生成AIさらにはVRは、今後のグリーフケアにとって大きな力になるような気がするとしながらも、「再会後さらに心を痛めるのではないか」という問題も指摘しました。その点に注意しながら、グリーフケアにおけるVRの可能性は探るべきであると思います。仮想現実の中で今は亡き愛する人に会う。それはもちろん現実ではありませんが、悲しみの淵にある心を慰めることはできるはずです。何よりも、自死の危険を回避するだけでもグリーフケアにおけるVRの活用は検討すべきではないかと思います。

 

 

精神科医小此木啓吾が書いた対象喪失中公新書)という名著があります。最愛の子どもを亡くしたとしたら、その子が愛していたぬいぐるみとか人形を持って、子どもだと思うことも大事だというようなことが書かれています。けれど、一生そう思っていたら頭おかしい人ですね。だから、ぬいぐるみや人形は一時的な心の避難所として使って、それから次第に平常心に戻っていくことが大事であるというのです。まさに「AIによる死者の復活」の問題も、死別の悲嘆者が自死や発狂してしまったら終わりだということではないでしょうか。わたしは、宗教でも芸術でも冠婚葬祭でもなんでも、人間を自死させないとか発狂させないことが最優先の役目だと思っていますので、そのために一時的にAIさらにはVを避難所として使って、また日常のグリーフケアに帰っていくということが必要であると思います。このことは、東京大学名誉教授で宗教学者島薗進先生との対談の際にも意見交換しました。

ブログ「AIによる死者の復活」より

 

わたしのブログ記事を読んだサンレーグリーフケア推進部の市原泰人部長(上級グリーフケア士)からは、以下のようなメッセージがLINEに届きました。
「無(亡)くした大切なものを再び手に入れることができても、もしそれが無(亡)くした大切なそのものではないと感じてしまった時の、喪失感や悲嘆はとても大きなことだと思います。思い出などをAIと語りあったときに自分に記憶との違いを感じるや自分のイメージとは違ってきてしまうことで大切なそのものではないと気づいてしまった時、悲嘆はさらに大きく強くなるのではないでしょうか。また人の気持ちや欲はとても強く、無(亡)くしてしまったものを、また手に入れてしまったときに、もう再び離すことは出来ないと思います。そこにそのままとどまり一時の心の安寧と悲嘆を味わいたくないという思いからの停滞が生じていくのでは、結果的に複雑性悲嘆のような状況になっていくように感じています。そこでカウンセリングやクライアントの意識が必要ですが、人の気持ちや欲はそれに勝ってしまうのではないかと思ってしまいます。グリーフケアは無(亡)くしてしまったもの忘れることでなく、その瞬間からの人生をその悲しみと共に生きていくための手助けだと思います。手助けであるがゆえに悲嘆の対象者(クライアント)がどのように悲しみと寄り添って生きていくかは、クライアントの心のうちのこととなり、これはどのようにと強制できるものではありません」


また、 サンレー北陸の金沢紫雲閣の総支配人である大谷賢博部長(上級グリーフケア士)からは、「VRは進化したケアの1つの形であり、その可能性は探るべきだと私も思いました。その反面もちろん危惧されるべき事はありますが、それは『人』によってしっかりとケアのサポートを行っていくことが重要であると。映画『ナイトメア・アリー』を連想しました。まさに心霊ショーは参加者にとってケアでありましたが、大金を稼げる詐術という側面もある警鐘でもありました。それを考えたらいつの時代にもケアとその危険な側面は隣り合わせなのかもしれないと思います」とのメッセージが届きました。 ブログ「ナイトメア・アリ―」で紹介した映画の名前が出ていますが、これは2021年のギレルモ・デル・トロ監督の作品です。ウィリアム・リンゼイ・グレシャムの『ナイトメア・アリー 悪夢小路』を原作に描く心理サスペンス映画です。ショービジネスの世界で成功した野心家の青年の運命が、ある心理学者との出会いによって狂い始める物語ですが、グリーフケアの視点から見ても非常に興味深い作品でした。


他にも多くのブログ読者の方々からのメッセージが届いたのですが、皇産霊神社禰宜でもあるサンレーの瀬津隆彦式典長から「AIを用いたグリーフケアには大きな可能性を感じますが、同時に、グリーフケアがいわば故人を忘れるための作業でもあることを鑑みますと、個人的にはやはりAIを用いた故人の再現に関しましては、あまり肯定的に受け取ることができかねます。殊にAI美空ひばりや記事にもあった人格の再現に関しましては、(歴史上の人物など『キャラクター』化した方は例外として)死という現象の意味や死と人間の距離、あるいは故人の魂のあり方を捻じ曲げる可能性すらあり、危惧に近い感情を抱いております。元記事へのコメントでも『仮面ライダーゼロワン』にて、亡くなった娘を作中のアンドロイド、そして、AIスピーカーとして復活させたエピソードが触れられていましたが、明確な生命の区切りが存在しなくなったことへ感じる悍ましさは実現させてはいけないものなのではないかと強く感じました」とのメッセージが寄せられました。それにしても、わが社には賢人が多く、心強い限りです!


米国ではこうしたAIによる死者復活サービスが、心理学の研究対象にもなっているといいます。コロラド大学のジェッド・R・ブルーベイカー教授らの研究では、こうしたサービスが死者の存命中に生成したコンテンツを反復するのではなく、新規コンテンツを生成する能力があることから、このようなサービスに使われるAIを「生成ゴースト」と呼んでいます。山田氏は、「生成ゴーストと対話を続けると、現実社会との関係に混乱が起きる可能性もあるとこの論文は警鐘を鳴らす。論文を引用すると、『例えば、生成ゴーストの広範な採用は、労働市場、対人関係、宗教組織など、現代社会の基礎を根本的に変える可能性があります』という」と書いています。


さらに山田氏は、「故人の情報を学ばせて生成する場合は、倫理的な課題もある。プライバシーの問題もあるし、亡くなった人が死後に自分が復活することを望むかどうかという問題もある。こうした議論は今後さらに活発になるだろう。生成AIを使えば、ディープフェイク画像を簡単に作れるので、中国などでは画像を不正に使って有名人を復活させるケースも出ている。著作権や肖像権を侵害するこうした行為が批判を浴びているのは言うまでもない。新しいテクノロジーの登場は、ビジネスチャンスであるのと同時に、考慮すべき課題ももれなく付いてくる。今回の新しいサービスは、人の死が関わっているだけに慎重な議論とともに展開されていく必要があるだろう」と述べます。


ロマンティック・デス』(国書刊行会

 

Whatever社が2020年に行った調査によると、「死後、AIやCGを活用して自分を復活させたいか」という問いに対しては、63.2%の人がNOと答えたそうです。さらに「死後、AIやCGを活用して亡くなっている人を復活させたいか」という問いに対しては、76.7%の人がNOと答えるなど、AIで故人を復活されることに否定的な意見は多いようです。それにしても「生成ゴースト」という言葉にはインパクトがありますね。わたしは、33年前の1991年に上梓した拙著ロマンティック・デス〜月と死のセレモニー国書刊行会)で、わたしは「生成ゴースト」ならぬ「幽霊づくり」という考え方を提示しました。そこで、21世紀の葬儀は故人の生前の面影をホログラフィーで再生すべきと提唱しましたが、これは現在ではすでに実現されています。

ロマンティック・デス』と『リメンバー・フェス

 

そして、このたび、『ロマンティック・デス〜月と死のセレモニー』がロマンティック・デス~死をおそれないオリーブの木)として2回目の再生を遂げました。同時刊行のリメンバー・フェス~死者を忘れないオリーブの木)とともに「R&R」本として死生観のアップデートを目指します。新時代の葬儀や供養について書いています。AIによる死者の復活を考える上でのヒントも満載ですので、興味がある方はぜひ、ご一読下さい!

 

 

2024年4月28日  一条真也