「縁」と「シンクロニシティ」

一条真也です。
23日の夕方、東京から北九州へ戻りました。
羽田空港のラウンジで読んだネットニュースで、映画タイタニック(1997年)のジェームズ・キャメロン監督が米ABCニュースに、タイタニック号とタイタンの類似点について語ったことを知りました。

ヤフーニュースより

 

ブログ「深海から別の秘境へ」に書いたように、米沿岸警備隊は22日、1912年に沈没した英豪華客船タイタニック号の残骸を探索する観光ツアー中に行方不明になった潜水艇タイタンの破片を海底で発見したと発表しました。乗船していた5人の生存は絶望的だとしています。キャメロン監督は15年以上、33回にわたって潜水艇タイタニック号を訪れ、調査してきたベテランですが、「タイタニック号とタイタンの事故の類似性に衝撃を受けました。タイタニック号の船長は船の前方で氷について繰り返し警告を受けていたにもかかわらず、月のない夜に全速力で氷原に突っ込み、その結果多くの人が亡くなったのです。世界中で潜水艇が行われている中で、警告が無視された同じ場所で、非常によく似た悲劇が起きたことは驚くべきことだと思います」と語っています。


タイタンにはオーシャンゲート・エクスペディションズストックトン・ラッシュCEO(61=最高経営責任者)、英国人富豪ハミッシュ・ハーディング氏(58)、フランス人探検家ポール・ヘンリー・ナルジオレット氏(77)、パキスタン財閥のシャザダ・ダーウッド氏(48)と息子スライマン氏(19)の5人が乗船していました。キャメロン監督は「伝説的な潜水パイロットであり、25年来の友人だったナルジオレット氏の死は現実的ではない。彼がこのような形で悲劇的に亡くなったことは、私にとってはほとんど受け止めることができません」と話しています。非常に重い発言だと思います。

東スポWEBより

 

また、潜水艇タイタンを運営するオーシャンゲート・エクスペディションズのCEO(最高経営責任者)の妻は沈没したタイタニック号で亡くなったファーストクラス夫婦の玄孫だったというニュースには仰天しました。ニューヨーク・タイムズが21日報じたものです。今回、オーシャンゲート社のストックトン・ラッシュCEOが乗船し、操縦もこなしていました。ニューヨーク・タイムズによると、ラッシュ氏の妻ウェンディ・ラッシュさんはタイタニック号沈没で亡くなったイジドー・ストラウス氏とアイダ・ストラウスさんの玄孫だというのです。


ウェンディさんはラッシュさんと1986年に結婚。オーシャンゲート社の取締役に就任。タイタニック号の残骸を探索する観光ツアーに3回参加しているといいます。ストラウス氏はドイツ出身の米国実業家で、百貨店メイシーズを買収し、世界的な百貨店に育て上げた人物です。1912年にタイタニック号のファーストクラスに乗っていましたが、夫婦ともに亡くなりました。著名人であったことから、映画「タイタニック」でも2人のシーンが描かれています。このニュースを知った映画コラムニストのアキさんは、ラッシュ氏について「その奥様と結婚したことで、さらにタイタニックに興味が湧いて、潜水艦に乗ったのかもしれませんね」と述べています。まったく、その通りですね。わたしも、アキさんの推理に同意します。

 

本当に人の出会いは運命を大きく変えるものですが、その不思議な働きを「縁」と呼ぶのでしょう。わたしは、ブログ「ライフ・イットセルフ」で紹介した2019年公開の映画を思い出しました。この映画では、すべての出来事が必然的につながっており、仏教における「」を連想させます。「無縁社会」などという言葉がありますが、仏教の考えでは、この世はもともと「有縁社会」なのです。すべての物事や現象は、みなそれぞれ孤立したり、単独であるものは1つもありません。他と無関係では何も存在できないのです。すべてはバラバラであるのではなく、緻密な関わり合いをしているのです。この緻密な関わり合いを「縁」と言うのです。

 

 

「縁」の不思議さ、大切さを誰よりも説いたのが、かのブッダです。ブッダは生涯にわたって「苦」について考えました。そして行き着いたのが、「縁起の法」です。縁起とは「すべてのものは依存しあっている。しかもその関係はうつろいゆく」というものです。 モノでも現象でも、単独で存在しているものはないと、ブッダは位置づけました。この考えは、主に華厳経に代表される華厳思想で説かれています。拙著『図解でわかる!ブッダの考え方』(中経の文庫)でも紹介しましたが、「帝釈(たいしゃく)の網」という、華厳の縁起思想を巧みに表現した比喩があります。帝釈とは「帝釈天」のこと。もともとは「インドラ」というヒンドゥー教の神ですが、仏教に取り入れられ、仏法および仏教徒の守り神になりました。 その帝釈天が地球上に大きな網をかけたというのです。

 

『華厳経』『楞伽経』 (現代語訳大乗仏典)

『華厳経』『楞伽経』 (現代語訳大乗仏典)

 

 

地球をすっぽり覆うほどの巨大な網が下りてきたわけで、当然わたしたちの上に網はかかりました。1つ1つの網目が、わたしたち1人1人です。網目にはシャンデリアのミラーボールのようにキラキラ光る「宝珠」がぶら下がっています。つまり、人間はすべて網目の1つでミラーボールのような存在としたのです。この比喩には、きわめて重要な2つのメッセージがあります。1つは、「すべての存在は関わり合っている」ということ。もう1つは、個と全体の関係です。全体があるから個があるわけですが、それぞれの個が単に集合しただけでは全体になりません。個々の存在が互いに関わり合っている、その「関わり合いの総体」が全体であると仏教では考えるのです。網目の1つが欠けたら、それは網にはなりません。

ヤフーニュースより

 

不思議な縁というか、巡り合わせといえば、フジテレビが24日と7月1日、同局午後9時からの「土曜プレミアム」枠で映画「タイタニック」を放送する事実は驚くしかありません。フジテレビでは事故以前から映画「タイタニック」の放送が決まっていたそうです。23日現在、番組表には予定通り放送となっています。「1997年に公開されたアカデミー賞11部門を受賞! 世界中を感動の渦に巻き込んだ映画史に残る不朽の名作をデジタルリマスター版で前・後編にて2週連続放送」と記されています。ネット上では、「気にしなくていい所だと思う」「タイミングが悪かっただけ」「タイムリー杉」「問題なし」「普通このタイミングでする?」「不謹慎だよ」「放送が不謹慎っていうなら、実在の事故を題材にした映画の制作自体が不謹慎」など、さまざまな意見が上がっているようです。

 

 

東京から北九州に戻るスターフライヤーの機内で、わたしはシンクロニシティ 科学と非科学の間に』ポール・ハルパーン著、権田敦司訳(あさ出版)という本を読み始めました。アメリカの物理学者である著者が「意味のある偶然」を数々の科学者と共に振り返る科学の歴史書です。ギリシア哲学から最新の量子力学まで、科学の歴史を振り返り、アリストテレスの物理学から量子テレポーテーションまで、何千年もの間、科学者たちが頭を悩ませてきた「シンクロニシティ(意味のある偶然)」を、科学、哲学、物理などから究明した1冊です。

 

 

今回のオーシャンゲート社CEOの妻がタイタニック号犠牲者夫婦の玄孫だったこと、タイタン乗船者全員の死亡が確認された翌日にフジテレビが映画「タイタニック」を放映すること、いずれも明らかなシンクロニシティだと思います。ブログ『死は存在しない』で紹介した本のように、この宇宙のすべてを記憶する「ゼロ・ポイント・フィールド」という視点でシンクロニシティを説明する流れもあるようですが、この世の中にはまだまだ不思議なことが多いですね。今回のタイタン事故は、何か大きなメッセージをわたしたちに残したのかもしれません。



2023年6月23日  一条真也