タイタニックと死者の尊厳

一条真也です。
豪華客船タイタニック号の残骸探索ツアー用潜水艇タイタン号」が連絡を絶ち、世界的ニュースになっています。


ヤフーニュースより

 

18日にカナダ南東部沖で連絡を絶ったのですが、21日には捜索海域の海中で複数の音を感知。おそらくSOSの信号であると考えたわたしは「もうすぐ見つかるだろう」と期待していたのですが、まだ見つかっていません。捜索はカナダ南東部沖周辺を中心に行われているそうです。


海中からのノイズですが、当局者によるとその音は潜水艇から出たものではない可能性があるとか。時間と酸素がなくなりつつある中で、大西洋で5人を乗せたまま消息を絶った潜水艇の捜索活動が続いています。民間のツアー会社である「オーシャンゲート社」が運航するこの潜水艇は、100年以上前にカナダ沖に沈んだタイタニック号を見に行くツアーの客を乗せて、18日に出航しました。ツアー参加費用は1人約3500万円だといいます。

 

1912年4月10日、イギリスの豪華客船タイタニック号はニューヨークに向けて処女航海に出発。出発から4日目の深夜、タイタニック号は巨大な氷河に激突、数時間後に沈没するのでした。史上最大の海難事故とされましたが、1997年に製作されたジェームズ・キャメロン監督の超大作タイタニックで見事に再現されました。出港直前に乗船券を手にした画家志望の青年ジャック(レオナルド・ディカプリオ)は、新天地アメリカを夢見てタイタニック号に乗船、そこで上流階級の令嬢ローズ(ケイト・ウィンスレット)と出会います。2人は身分違いの恋に落ち、強い絆で結ばれていくのでした。

 

主人公ジャックとローズが織りなす美しくも切ないラブストーリーが話題を呼んだ同作は、アカデミー賞で作品賞を含む史上最多タイの11部門を受賞。2012年にも3D版が公開され、さらに2023年には製作25周年を記念して新たに映像を一新、3Dリマスター版として公開。日本でも大ヒットしたことは記憶に新しいところです。ジェームズ・キャメロン監督がアカデミー賞受賞のスピーチ冒頭で、「まず、タイタニック号沈没事故で亡くなられた犠牲者たちのために祈りを捧げたい」と語ったことが強く印象に残っています。死者たちへの敬意と鎮魂を忘れないキャメロン監督の人間性に触れ、非常に感動しました。

 

わたしはタイタン号が発見されて5人が無事に救出されることを願っていますが、興味本位で沈没船を見学するツアーなどは基本的に反対です。なぜなら、タイタニック号沈没事故は1514人もの犠牲者を出した死亡事故であり、沈没したタイタニック号そのものは海の墓場だからです。それを供養のために訪れるならまだしも、興味本位の見学など言語道断! 今回の事故を「呪い」とか「祟り」などといったオカルトじみたことは言いませんが、くれぐれも観光よりも死者の尊厳を守ることを忘れてはなりません。


もしタイタン号が見つかったとしても、引き上げに数時間かかるらしく、酸素量的にも搭乗者の生存は正直厳しい状況です。しかし、捜査を継続して船体と遺体を見つけてられるか否かで、残された方のグリーフの深さが格段に違うと思います。そのことは、東日本大震災津波の犠牲者の葬儀で痛感しました。亡骸を前にして哀悼の意を表すことができる。永遠のお別れができる。それは人間としての自然な感情です。大津波によって多くの方が行方不明になっている三陸の海。タイタン号のが行方不明になっているカナダ南東部沖。すべての海がつながっているならば、悲しみも流す涙もつながっているはずです。「曖昧な喪失」に苦しむ方がこれ以上、増えないことを願います。タイタン号が発見されることを心より祈っています。

唯葬論

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2023年6月22日 一条真也