「無法松の一生」

一条真也です。ブログ「『西日本新聞』シネマ連載開始!」で紹介したように、わたしは、今年8月から「西日本新聞」に映画をテーマにしたエッセーを「佐久間庸和」の本名で連載しました。連載記事については、権利の関係で紙面掲載後1ヵ月間はウェブ公開ができません。その時期がすでに過ぎましたので、晴れてここに公開いたします。最終回となる第11回目は無法松の一生を取り上げましたが、見出しは「映画は人の心に力与える」です。

西日本新聞」2023年12月28日朝刊

 

北九州国際映画祭が2023年12月17日に閉幕しました。「映画の街・北九州」の魅力が国内外に向けて存分に発信され、北九州市民として、そして無類の映画好きとして大変うれしく思います。同年8月から連載させていただきました「シネマの街を世界へ!」も今回で最終回となります。最後に紹介するのは、映画祭のオープニング作品で、1943年公開の映画「無法松の一生」(稲垣浩監督)です。わたしも鑑賞しました。

 

舞台は日露戦争直後の明治末期の九州・小倉。喧嘩っ早く、「無法松」と呼ばれる人力車夫・松五郎(阪東妻三郎)の生き様を、哀切に満ちた心温まるエピソードとともにつづり、理想の女性に対する美しき愛情、男の心情を描く感動作です。日本映画史に輝く名作で、見どころが多いです。まずは義理人情に厚く、おちゃめなところも垣間見える松五郎の人柄です。きっぷがいい男っぷりは、見ていて、すがすがしい気持ちにさせてくれます。

 

伝説の映画カメラマン宮川一夫氏の、カメラワークの素晴らしさもあります。終盤、松五郎が祇園太鼓を披露するシーンでは、躍動感のある画面の切り替えで、祇園太鼓の勇壮さを感じることができます。松五郎が過去を振り返るシーンでは、思い出の映像が何重にもオーバーラップした映像が映し出されます。これは、多重露光という技術が使われており、何とも幻想的でした。

 

本作は、事前検閲で「亡き軍人の妻への恋慕」などが問題視され、一部をカットして上映されました。戦後には2度目の検閲を連合軍総司令部(GHQ)から受け、一部カットされています。それでも上映時は大ヒットし、小倉が舞台の娯楽映画が、暗い時代の国民に元気を与えたのです。映画は人の心に力を与えます。監督・脚本・撮影・演出・衣装・音楽・演技が集合した総合芸術を、ぜひ映画館で堪能されてください。いつか、本コラム読者の皆さんと市内の映画館でお会いできるのを楽しみにしています。

 

2024年2月2日  一条真也