ハートフル・ソサエティ

 

一条真也です。
わたしは、これまで多くの言葉を世に送り出してきました。この際もう一度おさらいして、その意味を定義したいと思います。今回は、「ハートフル・ソサエティ」というキーワードを取り上げます。


ハートフル・ソサエティ』(三五館)

 

これからの社会は、人間の心に向かっている、いわば「心の社会」である。そのように、わたしは考えています。「心の社会」はさらに「心ゆたかな社会」としてのハートフル・ソサエティを目指します。ハートフル・ソサエティとは、あらゆる人々が幸福になろうとし、思いやり、感謝、感動、癒し、そして共感といったものが何よりも価値を持つ社会と定義したいと思います。残念ながら現代日本は、心を失った「ハートレス・ソサエティ」になっているように思えます。「ハートレス」を「ハートフル」に進路変更する必要があります。

 

 

無縁社会」といわれて久しいです。度重なる自然災害で「絆」は語られますが、「縁」はほとんど触れられることがありません。「家族」は語られますが、「血縁」は疎まれます。「ボランティア」は称賛されますが、「地縁」は足かせのように語られることが多いです。葬式はしない、結婚式はあげないどころか結婚もしない。ひきこもり、独居老人、老々介護、さらには孤独死、子殺し、親殺しなど、「絆」はどこへいったと言いたくなるのは、わたしだけでしょうか。


毎日新聞」2020年7月6日朝刊

 

わたしは冠婚葬祭業を営みながら、「縁」がなくなる、あるいは薄れていく現代日本を日々見てきました。「無縁」が進めば、社会さえなくなっていく――日本人はそのことに気が付かなければなりません。無縁社会を終わらせなければ、日本に未来はないとさえ思います。処方箋があるとすれば、「絆」「家族」「助け合い」を称賛できる、日本人がまだ失っていない「心」にこそあると感じています。これからの社会は、人間の心に向かっている。いわば「心の社会」です。

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人類はこれまでに、農業化、工業化、情報化という三度の大きな社会変革を経験してきました。それらの変革はそれぞれ、農業革命、産業革命、情報革命と呼ばれます。第三の情報革命とは、情報処理と情報通信の分野での科学技術の飛躍が引き金となったもので、変革のスピードはインターネットの登場によってさらに加速する一方です。わたしたちの直接の祖先をクロマニョン人など後期石器時代に狩猟中心の生活をしていた人類とすれば、狩猟採集社会は数万年という単位で農業社会に移行したことになります。そして、農業社会は数千年という単位で工業社会に転換し、さらに工業社会は数百年という単位で20世紀の中頃に情報社会へ転進したわけです。


西日本新聞」2020年6月18日朝刊

 

それぞれの社会革命ごとに持続する期間が1桁ずつ短縮しているわけで、すでに数十年を経過した情報社会が第四の社会革命を迎えようとしていると考えることは、きわめて自然です。わたしは、その第四の社会とは、人間の心というものが最大の価値を持つ「心の社会」であると考え、そのことを2005年に上梓したハートフル・ソサエティ(三五館)で述べました。2016年1月、内閣府は「Society 5.0」というものを発表しました。第5期科学技術基本計画のなかに盛り込まれた科学技術政策のひとつで、Society 5.0 とは、未来を見据えた戦略です。

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過去の社会(Society)は以下の通りです。

Society 1.0:狩猟社会
Society 2.0:農耕社会
Society 3.0:工業社会
Society 4.0:情報社会

 

Society 5.0 は「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」と位置付けている。人間中心の社会(Society)が新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されたのである。このSociety 5.0 は、情報社会の次なる社会というわけで、わたしの唱える「心の社会」に通じています。

f:id:shins2m:20200515162848j:plainネクスト・ソサエティ』(ダイヤモンド社

 

インターネットによってグローバルに結びつけられた世界で、Society 5.0 の名のもとに「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が高度に融合していく」・・・・・・その流れの中で、「心の社会」は、ハートフル・ソサエティにもハートレス・ソサエティにもなりえます。社会生態学者としてのドラッカーは21世紀の始まりとともにネクスト・ソサエティを発表しました。ドラッカーの遺作にして最高傑作です。長年のコンサルタントとしての経験から、きわめて現実的であり、かつ実際的である一方、未来社会に対する展望が見事に描かれています。20世紀における「知の巨人」であったドラッカーが、最後にわれわれに21世紀の見取り図を示してくれたと言えるでしょう。


「財界九州」2020年7・8月合併号

 

ドラッカーは同書の冒頭で日本の読者に対し、「日本では誰もが経済の話をする。だが、日本にとっての最大の問題は社会のほうである」と呼びかけています。90年代の半ばから、ドラッカーは、急激に変化しつつあるのは、経済ではなく社会のほうであることに気づいていました。IT革命はその要因のひとつにすぎず、人口構造の変化、特に出生率の低下とそれにともなう若年人口の減少が大きな要因でした。IT革命は、世紀を越えて続いてきた流れの1つの頂点にすぎませんでしたが、若年人口の減少は、それまでの長い流れの逆転であり、前例のないものでした。ドラッカーが言わんとすることは、ひとつひとつの組織、1人ひとりの成功と失敗にとって、経済よりも社会の変化のほうが重大な意味を持つということ。急激な変化と乱気流の時代にあっては、単なる対応のうまさでは成功は望みえません。企業、NPO、政府機関のいずれであれ、その大小を問わず、大きな流れを知り、基本に従わなければならない個々の変化に振り回されてはならず、大きな流れそのものを機会としなければならないのです。その大きな流れこそ、ネクスト・ソサエティの到来なのです。


週刊読書人」2020年10月2日号

 

フランスの文化相も務めた作家のアンドレ・マルローは「21世紀は精神性(スピリチュアリティ)の時代である」と述べましたが、これまで多くの人々が未来社会について予測してきました。ジョン・ガルブレイスは「ゆたかな社会」を、ダニエル・ベルは「脱工業化社会」の到来を予告しました。アルヴィン・トフラーは、起こりつつある変化を「第三の波」と呼び、社会の根本的変化の近いことを予告しました。マリリン・ファーガソンは、あらゆる分野に起こりつつある変化が結合して、社会規範を変化させる「アクエリアン革命」になろうとしていることを指摘した。日本の堺屋太一は、知恵の値打ちが経済の成長と資本の蓄積の主要な源泉となる「知価社会」をつくり出す技術、資源環境および人口の変化と、それによって生じる人々の倫理観と美意識の急激な変化全体がもたらす「知価革命」を主張しました。


ネクスト・ソサエティ』→『ハートフル・ソサエティ

 

そして15年前、わたしは、『ネクスト・ソサエティ』のアンサーブックとして『ハートフル・ソサエティ』(三五館)を書き上げ、新しい社会像である「ハートフル・ソサエティ」を提唱したのです。いま、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」という未来像が描かれるに至っています。15年間で変わったものと変わらないものの両方があります。特に、SNSやスマホの存在は人間の精神への影響はもちろん、人間の存在さえも変革しているかもしれません。わたしは時代の変化を踏まえて、心の社会は「ハートレス」の方向へ進んでいる気がしてなりません。「ハートフル」の方向に心の社会を転換するために、『ハートフル・ソサエティ』の改稿を決意しました。それが心ゆたかな社会(現代書林)で、サブタイトルは「『ハートフル・ソサエティ』とは何か」です。

f:id:shins2m:20200518111519j:plain15年ぶりにアップデート!

心ゆたかな社会』の「まえがき」の最後に「『心の社会』から『心ゆたかな社会』へ。令和という新しい時代を、『心ゆたかな社会』の夜明けにしたい。まだ間に合ううちに」と書いたのでした。新型コロナウイルスが終息したアフターコロナの社会、そしてポスト・パンデミックの世界を描いた、この100冊目の「一条本」を、わたしは深い祈りとともに世に問いました。

WCで「心ゆたかな社会」の実現を!

 

その後、わたしは「心ゆたかな社会」の実践編というべき著書ウェルビーイング?コンパッション!のツインブックスを2冊同時に刊行しました。ここでは、「WC」という新しい言葉が登場します。「WC」とは、トイレのことでも、ワールドカップでもありません。今後の社会および会社経営において重要なコンセプトとなる「ウェルビーイング(Well-being)」と「コンパッション(Compassion)」の頭文字からとったもので、「ウェルビーイング&コンパッション」を意味しています。わたしは、これまでウェルビーイングを超えるものがコンパッションであると考えていましたが、この2つは矛盾しないコンセプトであり、それどころか2つが合体してこそ、わたしたちが目指す互助共生社会が実現できると気づきました。ウェルビーイングが陽なら、コンパッションは陰となります。そして、陰陽を合体させることを産霊(むすび)といいます。



「SDGs(Sustainable Development Goals)」は世界的に有名ですが、これは「持続可能な開発目標」という意味で、国連で採択された「未来のかたち」です。SDGsは健康と福祉、産業と技術革新、海の豊かさを守るなど経済・社会・環境にまたがる17の目標があります。そして、それらを2030年までに実現することを目指しています。SDGsは、2030年までという期間限定なのです。それ以降のキーワードは「ウェルビーイング」だと言われています。意味は、「幸福な存在、相手を幸福にする存在」ということになります。SDGsの17の項目を包括する概念でしょう。



ウェルビーイングの定義は、「健康とは、たんに病気や虚弱でないというだけでなく、身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態」というものです。しかし従来、身体的健康のみが一人歩きしてきました。ところが、文明が急速に進み、社会が複雑化するにつれて、現代人は、ストレスという大問題を抱え込みました。ストレスは精神のみならず、身体にも害を与え、社会的健康をも阻みます。健康は幸福と深く関わっており、人間は健康を得ることによって、幸福になれます。ウェルビーイングは、自らが幸福であり、かつ、他人を幸福にするという人間の理想が集約された思想と言えるでしょう。



一方、コンパッションは、たんなる好意や気遣いの感情以上のことを意味しています。この用語の中心には、互恵性(reciprocity)と具体的行動(action)という考え方があり、平たく言えば「思いやり」であり、仏教の「慈悲」「利他」、儒教の「仁」、キリスト教の「隣人愛」にも通じます。コンパッション都市とは、老いや病、死、喪失などを受けとめ支え合うコミュニティのことを指しています。そして、コンパッション企業とは、お客様のこころに寄り添って「思いやり」を示し、さらには、老いや病、死、喪失などを受けとめ支える会社です。互助共生社会の実現のために具体的行動を続けるサンレーにとって、コンパッションはドンピシャリのキーワードであると考えています。

WCの包括メッセージとは?

 

ウェルビーイングとコンパッションを包括すると、「ありのままの自分を大切に、他人に優しく生きる」というメッセージが浮かび上がってきます。冒頭に申し上げた通り、ウェルビーイングだけでもコンパッションだけでも互助共生社会の実現は困難。これら二つの概念を合体させること、つまり産霊(むすび)を行うことが、ハートフル・ソサエティとしての互助共生社会実現の第一歩となります。

サンレーズ・アンビション・プロジェクト(SAP)」

 

今こそ、サンレーグループ一丸となり、共に歴史の大きな流れに身を投じて、輝ける未来を創造してまいりたいと思います!サンレーには求められると考えています。しかし、合体させて終わりでは「絵にかいた餅」でしかありません。産霊(むすび)を行い、実現できるカタチに落とし込んだもの、つまりウェルビーイングとコンパッションの息子であり娘に当たるものが「サンレーズ・アンビション・プロジェクト(SAP)」です。


「CSHW」のハートフル・サイクル

 

さらに、サンレーは「CSHW」のハートフル・サイクルを起動させたいと考えています。これは、Compassion(思いやり)⇒Smile(笑顔)⇒Happy(幸せ)⇒Well-being(持続的幸福)と進んでいきます。そして、Well-being(持続的幸福)を感じている人は、Compassion(思いやり)をまわりの人に提供・拡大していくことができます。これが「CSHW」ハートフル・サイクルです。すなわち、ハートフル・サイクルはそこで回り続けるのではなく、周囲を巻き込みながら拡大し「思いやり」を社会に拡散をしていくサイクルなのです。このハートフル・サイクルが社会に浸透した状態が「ハートフル・ソサエティ」であり「心ゆたかな社会」なのです。


互助会ビジョンに「ハートフル・ソサエティ」が!

 

2023年8月22日、東京のホテルで、一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)の創立50周年記念行事が行われました。理事会の後、「互助会業界将来ビジョン報告会」を開催。そこでは、「将来ビジョンとして、業界が掲げるべきは『冠婚葬祭産業からウェルビーイング推進産業への昇華』であり、その事業活動を通じて、『感動』や『感謝』、『思いやり』に溢れる社会『ハートフル・ソサエティ』の実現に貢献していくことが求められていると考えている」とまとめられていました。わたしが、これを読んで感動したのは言うまでもありません。互助会業界全体のビジョンに「ウェルビーイング」はもちろん、「心ゆたかな社会」「ハートフル・ソサエティ」というワードが入ったことは画期的です。まさに、互助会の目指す方向性を的確に示していると言えるでしょう。


「ハートフル・ソサエティ」実現のエンジンとなれ!

 

2024年1月7日 一条真也