一条真也です。
たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。今回の「こころの一字」は、「役」です。



人も会社も、社会の役に立つことが何よりも大事です。わたしは、単なるボランティア精神ではなく、社会や人々の役に立つことをすればビジネスでも必ず成功できると確信しています。いくらユニークな商品を開発しても、それを使って喜ぶ人がいなければ社会的な価値は生まれません。たとえ日常的にありふれたものでも、それを必要とする人がいれば、そこに大きな需要が生まれます。ですから、多くの人々が待ち望んでいることを目標にする方が成功しやすいのは当然の話なのです。



例えば、宅配便が登場する以前は、今日出した荷物が明日届くとは誰も考えませんでした。それが1日で届くようになると、生活の利便性は飛躍的に高まり、ビジネスのスピードも一気に上がりました。コンビニエンスストアも、わたしたちのライフスタイルを大きく変えました。夜遅くまで簡単に生活必需品が手に入ることによって、多くの人々が助かっています。これらの事業は、今や社会的なインフラになっています。いかに潜在的な需要が大きかったことかに驚かされますが、それだけ人の役に立つビジネスであったから成功したのです。



このように会社とは社会の役に立つために存在しているとさえ言えますが、その会社はさまざまな役割を果たす部門および社員から成り立っています。日本電産社長の永守重信氏は「会社とは終わりのないドラマ」だと言います。最初はまったくの白紙状態から、スタッフを集めてどんなドラマをつくるのかというイメージを描き、シナリオをつくってキャストを選んでいきます。演劇やテレビのドラマなら本番が終わればそれですべて終了ですが、会社の場合はエンドレスで、毎日がリハーサルと本番の繰り返しです。

 

 

各部門や社員1人ひとりには、ドラマと同じように役が与えられます。その役を見事に演じ切った人は喜びや満足感も大きくなりますが、全員の心が一体化すれば、それよりもはるかに大きな感動があります。しかしながら、その中に1人でも「どうせ、つくりものだから」と手を抜いたり、照れながら演技するような人間がいると、すべてはぶち壊しになってしまうのです。



それでは、ドラマの照明や音響に相当する会社における部門とは、いったい何でしょうか? 永守氏いわく、利益を生み出すのは製造部門、会社の将来をつくり出すのは技術開発部門、会社を成長させるのは営業部門、よい会社に導くのは間接支援部門、会社を強くするのは経営者だそうです。なるほど、非常に説得力がありますね。ならば、経営者とは誰よりも名演技のできる役者とならなければならないと言えるでしょう。なお、「役」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。

 

 

2023年3月23日 一条真也