世界に勇気、日本に感謝?

一条真也です。
22日になりました。
ついに明日、東京五輪が開幕します。
21日に東京都内で行われたIOC(国際オリンピック委員会)の総会2日目に、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が登壇し、「日本が世界に勇気を与える」と日本語で述べて、大会の開催に感謝の意を表しました。

f:id:shins2m:20210721192537j:plainヤフーニュースより 

 

テドロス事務局長は、冒頭の挨拶で「(日本語で)東京オリンピックパラリンピックは世界に希望を与えるイベントで、世界をひとつにする力がある」として、日本への感謝の言葉を述べました。一方、大会期間中の新型コロナウイルスの感染対策については、「(日本語で)石橋をたたいて渡る」「(英語で)リスクは増やすか減らすかのどちらかで、完全に排除できない」と述べ、「感染リスクを完全に排除することはできない」とした上で、感染者の隔離や追跡など迅速な対応を正しく行うことが大会の成功につながると述べました。

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ABEMAニュースより 

 

このテドロス事務局長の発言を知って、わたしは複雑な思いにとらわれました。わたしは、ずっと東京五輪の開催中止を訴えてきましたが、最後の最後でWHOが中止を勧告してくれるのではないかと淡い期待を抱いていたのです。というのも、開催まで残り1カ月となった今年6月27日の時点で、前東京都知事国際政治学者の舛添要一氏が「力関係から見てWHOがやめろと言ったら、いくらIOCでもやれない。その可能性はまだあると思っている」と開催中止の可能性について言及したからです。しかしながら、わたしの淡い期待は裏切られました。


思い返せば、ブログ「パンデミックとオリンピック」に書いたように、昨年3月11日、感染者の数が世界で12万人に迫るのを目前にして、WHOが「パンデミック」を宣言しました。ついに、感染症の世界的大流行を認めたのです。テドロス事務局長は、新型コロナウイルスの感染の拡大と深刻さ、それに対策のなさに強い懸念を示し、「パンデミックに相当する」と表明しました。また、感染者や死者の数が今後も増えて、感染がさらに拡大するとの見通しを示し、各国に対策強化を呼びかけました。


そのとき、IOCのバッハ会長は、会見で、東京オリンピックの予定通りの開催を強調しています。バッハ会長は、IOC理事会の終了後、「組織委は、新型コロナウイルスにどのように対処しているかを含め、非常に印象的な報告をした」と述べ、東京大会の組織委員会が示した新型コロナウイルス対策を高く評価し、東京オリンピックを予定通り開催すると改めて強調したのです。一方で、今後、WHOが新型コロナウイルスについて、パンデミックを宣言した場合、延期や中止を検討するのかという質問に対し、バッハ会長は「憶測には答えない」と回答を控えました。

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ヤフーニュースより

 

そして、現時点で、日本の感染状況はどうなっているか。東京都が21日に確認した新型コロナウイルスの新たな感染者は、1832人でした。1800人を超えるのは1月16日以来およそ半年ぶりです。前の週の水曜日と比べると683人増え、直近7日間の1日あたりの平均1278人で、前の週と比べて155.2%となりました。年代別では20代が最も多く577人、次いで30代が410人、重症化リスクが高い65歳以上の高齢者は67人でした。重症の患者は前の日から4人増えて64人で、4人の死亡が確認。感染状況は急激に悪化しています。

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ヤフーニュースより

 

このままでは、東京の感染者2000人以上で五輪の開幕を迎える可能性も高くなってきました。政府の対策分科会の尾身茂会長は、8月1週目に3000人近くまで増加するとの見方を示しました。尾身会長は20日夜、日本テレビの番組で「残念ながらこのウイルスは6割くらいが(ワクチンを)受けても感染が下火になることはない、したたかなウイルス」と述べました。ワクチン接種率が上がっても集団免疫の獲得は困難とする見方で、暮らしや経済活動の制限緩和は慎重に進めるべきだとの考えも示しています。トンネルの出口など、どこにも見えていません!

f:id:shins2m:20210721192244j:plainヤフーニュースより 

 

同じ20日、菅義偉首相はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューに応じました。五輪の開催を巡っては、日本と世界の双方にとって危険だとの批判が上がっていますが、菅首相は、足元で1日当たり数万人の新規感染者が出ているにもかかわらず、マスクなしの観客が詰めかけた会場でテニスのウィンブルドン選手権サッカー欧州選手権を実行した英国の事例に言及。その上で「感染者数なども、海外と比べると、1桁以上といってもいいぐらい少ない」とし、「ワクチン(接種)も進んで、感染対策を厳しくやっているので、環境はそろっている、準備はできていると、そういう判断をした」と発言。


菅首相は、自身に近い関係者を含めた人々から五輪を中止することが最善の判断だと、これまで何度も助言されたと明かしました。そして、「やめることは一番簡単なこと、楽なことだ」とした上で、「挑戦するのが政府の役割だ」と語りました。「うーん、この人、本当に大丈夫か?」と思ったのは、わたしだけではありますまい。いくら「安心安全」の念仏を唱えても、感染爆発は避けられないように思えてなりません。政府の役割は挑戦することではなく、国民の生命や財産を守ることではないでしょうか? 先の戦争のときのように、国民の命を質に博打を打つことは許されないのです。いずれにせよ、東京五輪の開幕まで、あと1日。開幕したら、おそらく大混乱の連続で訳がわからなくなると思います。後出しジャンケンだけはしたくないので、あえてこの記事を書いた次第です。

 

2021年7月22日 一条真也