五輪の呪い・天皇の祝い

一条真也です。
23日に開幕する東京五輪開会式の音楽制作担当のミュージシャン・小山田圭吾氏が辞任しましたが、海外メディアは「東京五輪パラリンピック組織委員会会長を女性蔑視発言で引責辞任した森喜朗元首相をはじめ、また主要な人間が辞めた」(AFP通信)などと報じています。

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ヤフーニュースより 

 

そんな中、「日刊ゲンダイDIGITAL」が配信した「“呪いのクビ”は小山田圭吾で7人目 五輪をめぐる『辞任の連鎖』は招致決定直後から始まっていた」という記事では、「『呪い』の連鎖は果たしてどこまで続くのか」として、「振り返れば、東京五輪をめぐり、辞任・辞職に追い込まれた人物は枚挙にいとまがない。まずは何と言っても、東京五輪招致に成功した際の猪瀬直樹都知事(74)だ。招致運動の際には『コンパクトな五輪を理解していただけた』などと胸を張っていたが、その後、医療法人徳洲会グループからの5000万円裏金疑惑が浮上。都議会では、自宅に現金を運ぶ際に使ったというかばんに、現金に見立てた白い箱を無理やりねじ込もうとする姿を披露。議員や傍聴者から失笑を買った揚げ句、“かばん芸人”と揶揄されて、東京五輪招致決定から3カ月後の2013年12月に辞職に追い込まれた」と書かれています。



また同記事には「次は東京五輪のエンブレムに選定されたデザイナーの佐野研二郎氏(48)だ。2015年7月、華々しく大会エンブレムが発表された時には両手を大きく掲げながら、笑顔でおどける様子が注目を集めたが、その後、デザインの盗用疑惑が浮上。さらに別の作品に対しても、ネット上で盗用しているのではないか、などと『祭り状態』になり、同9月にエンブレムを白紙撤回され、あえなく五輪の現場から姿を消した。さらに東京五輪招致委員会が計2億円超を支払ったシンガポールコンサルタント会社『ブラックタイディングス』(BT)」をめぐる裏金問題が報じられ、フランス当局の捜査対象となったJOC(日本オリンピック委員会)の竹田恒和前会長(73)が2019年3月、会長辞任に追い込まれた」とあります。



さらに同記事には、「今年2月に女性蔑視発言で組織委会長を辞任した森喜朗元首相(83)や猪瀬元知事らとともに五輪招致運動に関わり、2016年のリオデジャネイロ五輪閉会式に『スーパーマリオブラザーズ』のマリオに扮して登場した安倍晋三前首相(66)も2020年9月、コロナ禍の最中に体調不良を理由に総理大臣を2度目の辞任となったほか、演出の総合統括だったクリエーティブディレクターの佐々木宏氏(66)は今年3月、お笑いタレントの渡辺直美(33)の容姿を侮辱するような演出を提案していたことが発覚し、辞任となった」とあります。ちなみに、小山田圭吾氏をオファーしたのは佐々木宏氏だそうです。「文春オンライン」で知りました。「類は友を呼ぶ」とは、まさにこのことですね!


同記事の最後は、「海外メディアの指摘ではないが、辞める人間は一体どこまで増えるのか。さながら大ヒットホラー映画『リング』(中田秀夫監督、東宝)のような展開だ。もしかして開閉会式の演出で「貞子」が出てきたりして・・・・・・?」と結ばれています。なるほど、「リング」ならハリウッドでリメイクもされていますし、貞子はJホラーを代表するアイコンですので面白いかもしれませんね。「呪い」といえば、わたしはブログ「呪われたオリンピック」で紹介したように、2020年3月18日に開かれた参院財政金融委員会で、麻生太郎副総理兼財務相が国民民主党古賀之士氏への答弁の中で、今年7月から開催が予定されている東京五輪を「呪われたオリンピック」と表現し、「40年ごとに問題が起きた」と自説を展開したことを思い出しました。

f:id:shins2m:20210721133423j:plainヤフーニュース(2020・3・18)より

 

麻生財務相はオリンピックについて、「40年ごとに問題が起きたんだ。事実でしょうが」と述べた。1940年の開催都市は、夏季大会が東京、冬季大会は札幌が予定されていたが、日中戦争の拡大で返上に追い込まれた。80年のモスクワ五輪ソ連(当時)のアフガニスタン侵攻に抗議し米国や日本などの西側諸国がボイコットした」と、歴史的事実を紹介し、東京五輪を「呪われたオリンピック」だと表現しました。その上で、今年の五輪について「(感染拡大が)日本だけ良くなったからといって、他の国で参加する人がいなくなったらできない」とも語りました。これまで数々の失言で騒動を起こしてきた麻生財務相ですが、この「呪われたオリンピック」発言はナイスだと、わたしも膝を打ったものです。

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ヤフーニュースより

 

さて、話題は変わりますが、 東京五輪開会式で、天皇陛下が読み上げられる「開会宣言」に「祝い」の文言が今回は入らないことが「週刊文春」の取材で分かりました。「文春オンライン」が配信した「原案判明 天皇陛下、五輪開会宣言で『祝い』と表現せず」という記事によれば、五輪について定めた「五輪憲章」第5章の55には開会式と閉会式について記されており、開催地の国の国家元首が行う「開会宣言」については一言一句、細かな規定があるそうです。原文は英語ですが、JOCが公表している邦訳は、〈オリンピアード競技大会の開幕においては 「わたしは、第 ...... (オリンピアードの番号) 回近代オリンピアードを祝い、......(開催地名)オリンピック競技大会の開会を宣言します。」〉となっています。



実際、1964年の東京五輪では昭和天皇が「第18回近代オリンピアードを祝い、ここにオリンピック東京大会の開会を宣言します」と憲章通りの文言を述べられました。しかし、あるスタッフが、今回の開会宣言には重大な変更が施されたと証言し、「五輪憲章では開催国の元首が読み上げる宣言は細かく定められており、英語の原文にはcelebratingとあります。JOCによる訳は『祝い』ですが、今回の原案はそこが『記念する』となりました。celebratingの翻訳の範囲内ギリギリの変更です。現状の原案では『ここに、第32回近代オリンピアードを記念する、東京大会の開会を宣言します』となっています」と述べているとか。この変更の理由について、宮内庁関係者は「新型コロナの感染状況が悪化して緊急事態宣言が出され、多くの世論調査で国民の半数以上が反対している五輪について、祝意を明言することは回避したいという天皇陛下のお気持ちを“拝察”した宮内庁と組織委などで事前調整がなされたのでしょう」と語っています。



わたしは、ワクチンを1回しか打たれていない天皇陛下が開会式に出席すべきではないし、IOCが定めた開会宣言など無視されてもいいと考えています。せっかく宮内庁長官が“拝察”という形で陛下の心中をお伝えになられたのに、それをスルーして嫌がる陛下を強制的に開会式に出そうとする連中は、はっきり言って逆賊であります。わたしは、今回の“拝察”事件で騒がなかった右翼の連中には失望しています。昭和の右翼はとにかく天皇を崇拝し、天皇の御心に背く政治家などに対しては街宣車で徹底的に口撃しました。ネトウヨも含めて、現代日本の右翼とは自民党と大手広告代理店が創り出したバーチャル右翼なのかもしれませんね。わたしには、そんな気がしてなりません。


天皇陛下は、ご自身が東京五輪の名誉総裁ということもあり、開会宣言はされるけれども、速攻でお帰りになられ、観戦は一切されないそうです。これは上皇陛下、秋篠宮殿下をはじめ、皇族方は一切観戦されないとか。国民の大半が反対している東京五輪で、しかも無観客が決定しているのに天皇陛下や皇族方が観戦している姿がテレビに映ったら国民はどう思うかを考慮されたのでしょうが、素晴らしい見識であると思います。なにしろ、トヨタパナソニックなど東京五輪スポンサー企業の社長をはじめ、経団連経済同友会の会長、日本商工会議所の会頭なども、みな開会式への不参加を表明しているのです。こんな危険で破廉恥な場所に、陛下は長居すべきではありません。

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また、陛下が「祝い」という言葉を使われないことにも安心いたしました。やはり、新型コロナウイルスの感染によって亡くなられた多くの方々、今も闘病しておられる方々、そして医療の現場で必死に闘っている医療従事者の方々、さらには東京五輪ありきの緊急事態宣言で苦境にある飲食店関係者などの心中を思えば、「祝い」という言葉はふさわしくないからです。「祝い」という行為には、ものすごい力があります。「祝」に似た字に「呪」がありますが、どちらも「兄」とつきます。漢字学の第一人者だった白川静によれば、「呪」も「祝」も神職者に関わる字であり、「まじない」の意味を持ちます。「呪い」も「祝い」ももともと言葉が「告(の)る」つまり「言葉を使う」という意味であり、心の負のエネルギーが「呪い」であり、相手を全否定し、闇をもたらします。一方、心の正のエネルギーが「祝い」であり、相手を全肯定し、光をもたらします。ネガティブな「呪い」を解く最高の方法とは、冠婚葬祭に代表される「祝い」を行うことなのです。

f:id:shins2m:20210721133723j:plainサンデー毎日」2017年10月29日号 

 

いま、世界では「呪い」の応酬がすさまじいと言えます。アメリカと中国、自民党と野党・・・・・・それぞれが相手を完全破壊すべく、「呪い」を仕掛け合っています。ネット社会での個人の誹謗中傷、学校でのいじめ、会社でのハラスメントも立派な「呪い」です。このような「呪い」を「祝い」によって解くことは、暗闇を太陽の光が照らすようなものではないでしょうか。その意味では、「呪い」にまみれて暗黒そのものである東京五輪の開会式で、天皇陛下の「祝い」によって光をもたらす「予祝」という考えもあるかもしれませんね。言霊の幸ふ国たる我が国で、この呪われた五輪をせめて最低限の犠牲で終わらせるには、やはり天津日嗣たる今上陛下のお言葉による予祝は不可欠かと思います。これによって、上層部はともかく、この猛暑の中、世界各国のアスリートのみなさんを含め、ボランティアをはじめとして現場で尽力しておられる関係者の方々が無事に期間中を乗り越えられればいいですね。

 

2021年7月21日 一条真也