「あったかいね」

一条真也です。
ネットで「『あったかいね』孤立集落から脱出 2次避難所の旅館で人心地」という記事を見つけました。ブログ「能登半島へ!」で紹介したように、10日に被災地を訪れたばかりだったので、非常に感銘を受けました。

ヤフーニュースより

 

記事は毎日新聞の配信で、「『トイレの水が流れることに感激した』『暖房がこんなにあったかいなんて』。周辺の道路が土砂に埋まったり海に落下したりして孤立していた集落からヘリコプターで脱出した人たちが、12日ごろから相次いで2次避難所となった温泉旅館などに着き、ようやく人心地ついている」と書かれています。わたしが能登半島の被災地を訪れたとき、トイレの水が流れないと聞いていたので、朝から水分を控えました。それでも、もともとトイレの近い人間なのでストレスを感じました。「現地の避難所で暮らしている方々はどんなに不便だろう」と思うと悲しくなりました。それにしても、記事の中にある「人心地」という言葉は良い言葉ですね。1「生きた心地。また、ほっと、くつろいだ感じ」、2「人間としての平常の感覚や意識。ひとごころ」といった意味ですが、本当に素晴らしい言葉だと思います。「あったかいね」という言葉も最高ですね! これほどハートフルな言葉が他にあるでしょうか! 「あったかいね」という言葉を目にしただけで、それまでに寒い思い、辛い思いをされた方々の苦労を思ってしまい、涙が出てきます。


記事には、以下のようにも書かれています。
「石川県南部の加賀市山代温泉の『みやびの宿 加賀百万石』。水や電気、電波が止まり、集落の外がどうなっているかの情報もほとんど入らなかった同県輪島市大沢(大沢)町から来た小崎香代子さん(76)は『親戚の家に居候するのは気を使うので感謝です。ただ大沢にはもう戻れないと思っている。空から周りの道路のあまりのひどさを見たから。冷静に今後の生活を考えたい』。家が小崎さんの向かいの谷内圭子さん(76)は『道路を直すのはもう無理じゃないかな。でも、子供たちの写真を取りに一度は帰りたい。写真がなくなったら寂しいでしょう』と話した。中嶋恵美子さん(65)は集落を離れたがらないお年寄りを説得して回り、ほとんど着の身着のままで迎えのヘリに乗り込んだ。『みんな無事で命があるだけでも良かった』【横見知佳、松本紫帆】」

 

 

今回の地震で、加賀屋などで知られる石川県七尾市和倉温泉は壊滅状態となりました。その他の温泉街も営業再開ができないままですが、たとえ再開できたとしても、北陸への観光客が激減していますので、ホテル・旅館業界には厳しい現実があります。ちょうどホテルや旅館の部屋が空いているわけですから、どんどん2次避難所として活用し、被災者の方々に温かい思いをしていただくべきでしょう。それから、体育館などを災害避難所として使用するのは日本ぐらいのもので、海外では国がホテルを借り上げて避難所にするのが常識なのです。ブログ『日本の死角』で紹介した本の「自然災害大国の避難が『体育館生活』であることへの大きな違和感」という章では、弁護士の大前治氏が、自然災害などの避難者の多くが体育館などでの生活を余儀なくされ、劣悪な環境におかれていることに注目しています。日本は災害大国であるにもかかわらず、避難者への対応は世界最悪なのです。

 

同書の中で、大前治氏は「海外で整備されている避難所の実態とは大きなギャップがある。災害多発列島・日本でこれを放置してよいのか、再考が必要である」と述べています。「イタリアでは公費でのホテル泊が多数、避難施設も充実」では、自然災害時の避難生活の場所としては、床に毛布を敷いて大勢がひしめきあう体育館が思い浮かぶとして、「エアコンや間仕切りはないことが多い。大規模災害のたびに報道される光景であるが、これを当然視してはいけない。海外の災害避難所と比べれば、日本の避難所の問題点が浮き彫りになる」と述べます。


災害や紛争時の避難所について国際赤十字などが策定した最低基準(スフィア基準)は、「世帯ごとに十分に覆いのある生活空間を確保する」「1人あたり最低3.5平方メートル以上の広さで、覆いのある空間を確保する」「最適な快適温度、換気と保護を提供する」「トイレは20人に1つ以上。男女別で使えること」と定めています。スフィア基準の正式な名称は「人道憲章と人道対応に関する最低基準」であり、避難者はどう扱われるべきであるかを個人の尊厳と人権保障の観点から示したものです。



「あくまで自己責任を基調とする日本政府」では、「人権憲章」は、援助を受けることを避難者の「権利」と明記していることが指摘されます。それと対になるように、避難者を援助することは国家の「義務」となります。日本では「権利には責任が伴う」、つまり権利を主張するからには責任も果たせなどと言われてしまいますが、大前氏は「これは筋違いである。大切なのは『個人の権利のために、国家が義務を果たす』ことである。良好な環境の避難所を設置して避難者の心身の健康を確保することは、国家が履行するべき義務である。劣悪な避難所をあてがうことは義務の不履行として批判されなければならない」と訴えます。


「人への支援か、物への支援か」では、政府の復興予算は「人への支援」ではなく「物への支援」ばかりであると指摘し、大前氏は「こうした国費の使い方に、被災者への姿勢がにじみ出る。東日本大震災から10年以上が経過したが、『体育館で身を寄せ合う避難生活』の光景が当たり前のように、あるいは、我慢と忍耐の姿として報じられている。これを美談にしてはならない。この光景は、適切な援助を受ける権利を侵害されて尊厳を奪われた姿と捉えるべきである。この国の避難者支援の貧困を映し出し、日本の政治の問題点を浮き彫りにする光景なのである」と述べるのでした。避難所問題については、わが社の事業や活動と深く関わっているため、さらに深く調べたいと思います。



最後に、利権関係者以外は誰も開催を望んでいない「2025年大阪・関西万博」など1日も早く中止すべきです。中止した上で、その膨大な予算をすべて被災地の復興や2次避難所に必要な費用に使ってほしいですね。万博のアンバサダーはお笑いコンビの「ダウンタウン」だそうですが、松本人志も活動休止を発表したことですし、このへんで万博中止の英断をすれば、自民党も維新もともに株を上げるに違いないと思うのはわたしだけでしょうか?

 

2024年1月14日 一条真也