『ユー。』

ユー。 ジャニーズの性加害を告発して (文春e-book)

 

一条真也です。
『ユー。』カウアン・オカモト著(文藝春秋)を読みました。サブタイトルは「ジャニーズの性加害を告発して」で、いま日本中を騒がせている故ジャニー喜多川氏の性加害の告発本です。著者は、1996年5月24日、愛知県豊橋市生まれ。両親は日系ブラジル人。2012年2月、ジャニーズ事務所入所。16年までジャニーズJr.として活動後、独立。「週刊文春」2023年4月13日号でジャニー喜多川氏から受けた性加害を実名告発し、大きな反響を呼びました。


本書の帯

本書のカバー表紙には、Tシャツにジーンズ姿の著者の写真が使われ、帯には「もう、自分に嘘はつかない。」「元ジャニーズJr.が赤裸々に明かす、ジャニー喜多川氏の真実と、波乱の人生。」と書かれています。


本書の帯の裏

 

帯の裏には、「両親は日系ブラジル人三世。生い立ちと、ジャニーズ入所から退所、そして現在まで、数奇な運命を辿る。」と書かれています。また、カバー前そでには、「『あ。僕だよ。ジャニーだよ』僕のケータイに、いきなり知らない番号から電話がかかって来たのは、2012年2月12日の朝のことだった。すべては、ここから始まった――」とあります。

 

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「プロローグ」
第一章 Baby
第二章 ブラジル団地
第三章 Junior
第四章 YOU
第五章 退所
第六章 告発
第七章 記者会見
第八章 カウアン、国会へ行く
第九章 これから
「エピローグ」


「プロローグ」の冒頭を、著者は「2023年4月12日、日本外国特派員協会。僕は黒のスーツに黒の蝶ネクタイを締めて、カメラのフラッシュを大量に浴びていた」と書きだします。この日開かれたのは、ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川氏による性加害について、被害者として初めて実名・顔出しで行う記者会見でした。著者は、「被害者なのに、なぜ蝶ネクタイ? 会見後、ネットで軽く叩かれた。だけど、僕は『かわいそうな被害者』としてその場に立ちたくなかった。僕は被害者ではあるけれど、いまはミュージシャンであり、アーティストだ。『被害を説明しよう』と思って会見は開いたが、『被害をアピールしよう』という思いはなかった」と述べています。


第一章「Baby」では、中三だった著者の夢はアーティストになることで、憧れはジャスティン・ビーバーだったことが明かされます。ジャニー喜多川に気に入られた著者は、名古屋から新幹線で東京に向かい、Sexy Zoneセクゾ)の公演が行われている東京国際フォーラムを訪れました。そこで5000人の観客を前に、いきなりパフォーマンスをさせられました。「このジャスティン・ビーバーみたいな子が、ジャスティン・ビーバーを歌うんです。初舞台なので、みんなも聴いて下さい!」と紹介され、著者はジャスティンの代表曲「Baby」をアカペラで歌いました。


著者は、「フルコーラスで歌ったのか、間違えずに歌えたのか。緊張しすぎて、拍手されたこと以外、ほとんど記憶がない。傑作だったのは、舞台から下がったとき、Sexy Zoneのバックについている100人くらいのジュニアに拍手でお出迎えされたこと。みんなたぶん、『誰なんだろ、こいつ』と思っていたはずで、『もしかして、ジャスティン・ビーバーの親戚?』とファンの中で噂になっていたらしい」と述べています。

 

第三章「Junior」では、5000人の前で「Baby」を歌った翌日、ジャニー喜多川に誘われて、著者が「ザ少年倶楽部(少クラ)」の収録を見学するため、渋谷のNHKへ行ったことが紹介されます。同番組はBSプレミアムで放送されている音楽バラエティですが、出演者はほぼジャニーズJr.のメンバーに限られています。著者がジャニー喜多川と並んで収録を見学していたら、目の前にHey!Say!JUMPの山田涼介がいたそうです。著者は、「ジャニーズに詳しくない僕でも実は前から『山田涼介はカッコいい』と思っていたので、正直、興奮した。彼は『見せ方』が圧倒的。表情管理、角度、ダンスも歌も全部できちゃう。バランスが完璧で、ジャニーズで一番ジャンスティンに近いのが山田君だと思っていた。ジャニーズのタレントで僕が唯一パフォーマンスの影響を受けたのも山田君だ」と述べています。


「話してきなよ。いいんじゃない? 声かけても」とジャニー喜多川に言われ、山田涼介の近くには行ったものの本当に声をかけていいのかどうか、内心迷っていると、有岡大貴が気づいて、「どうしたの? ジュニアの子?」と声をかけてくれました。著者が「あの、昨日、国際フォーラムで歌って、いまジャニーさんと見学している状態で」と言うと、有岡に「すごいねぇ」と笑われ、側にいた山田も「面白いねぇ」と言いました。ここがチャンスだと思った著者は、「山田君が大好きなんですよ。カッコいいですよね」と話したところ、「おおー! ありがとう! 嬉しいね」「握手していいっすか?」「おお、いいよ、いいよ」と肩まで組んでくれる嬉しすぎる展開になったそうです。山田は「頑張って、『少クラ』でも一緒に歌える日が来たらいいね」とまで言ってくれて、著者はイチコロで落ちたとか。


そのままジャニーズJr.の一員となった著者ですが、レッスンにも通わず、突然現れてセンターで歌う著者は、他のジュニアからは明らかに嫌われたそうです。セクゾの「RealSexy!」のMVでは佐藤勝利がセンター、著者とのちのキンプリの岸優太がシンメで、横には神宮寺勇太岩橋玄樹もいました。著者と同時期に、同じような“特別枠”でジャニーズに入ったのが、平野紫耀です。著者は、「僕が東京国際フォーラムで歌ったのと同様に、セクゾのコンサートに飛び入り参加して、ダンスを披露したのだ。平野も愛知県の出身で、通っていた名古屋のダンススクールの先生からジャニーさんを紹介されたという」と述べています。


「デビュー路線」では、「GTO」(フジテレビ)というドラマに出演するようになった著者は、ほぼ同じタイミングで「Rの法則」(Eテレ)への出演が決まったことが紹介されます。この番組は司会をしていたTOKIO山口達也が事件を起こしてしまい、最後は打ち切りになってしまいます。しかし、著者は「山口さんには本当に感謝している。あることで悩んでいたとき、誰も気づかないのに山口さんだけが気づいて、こう声をかけてくれたんだ。『カウアン、調子どう? 何かあったら俺に言いな』山口さんは自宅からタンクトップ姿でランニングしながらNHKへ来て、お風呂に入って着替えてスタジオ入りするような変わった人。効率よすぎます、と思った」と述べています。



第四章「YOU」の「全部で15~20回」では、ジャニー喜多川から著者が受けた性被害について赤裸々に語られています。何度か行為を受けるうちに、大したことないと思うようになっていったという著者は、「変な話、出せばいいっしょという気持ちも。ジャニーさんはそれだけで機嫌がよくなるし、ジャニーさんが普段もっている得体の知れない不気味さを出さなくなって、人として距離感が近くなる。それこそ、身体の関係を持った女の子がすごく心を開いてくるのと一緒だ。ジャニーさんのほうも、『この子は心を開いてくれた』と安心感を持てたんじゃないだろうか」と述べています。


また、著者は行為を受けながら、ジャニー喜多川のことを、かわいそうだなと思うようになったそうで、「ジャニーさんは、コンプレックスの塊なんじゃないだろうか。お父さんは真言宗のお坊さんでとても厳しい人だったと、ネットの記事で読んだことがある。そんなお父さんを持ちながら、ゲイで子供が好きだという絶対的な秘密を抱えて、背もかなり低い。いまと違ってジャニーさんが若い頃は、同性愛というのはほぼ社会に受け入れられていなかったはずだ。そんなコンプレックスの塊だから、ギネス記録を持つプロデューサーとしてどれだけ名声を得ても、表舞台には決して出て来なかったのではないだろうか。行為をしたジュニアにお金を渡したのも、自分に自信がなくて、相手に対して申し訳ない気持ちがあったからじゃないだろうか」と述べます。なかなか鋭いですね。


「それでもジャニーさんに・・・・・・」では、合計で、おそらく15回~20回くらいは被害に遭ったという著者が、それでもジャニー喜多川に感謝していることが明かされます。みんなが「なんで感謝しているの」とか、「そんなことされてなんで敬うの」とか思う気持ちもわかるとし、別にグルーミングとか、マインドコントロールをされているわけでもないとして、著者は「ジャニーさんが未成年の子供たちにやったことは、人として許されることではない。性加害が悪であるのは確かだ。でも人間って、みんな完璧じゃないと僕は思っている。人間にはみんないいところもあるし、その一方で、ダメなところもあって、黒いところがある。人間って単純なものではない」と述べます、著者の言いたいこともわかりますが、人類史上最悪の児童虐待を行ったジャニー喜多川はやはり、どう考えても悪であると思います。


第五章「退所」では、著者がジャニーズ事務所を去るくだりが語られています。ジャスティン・ビーバーのようにグローバルに活躍する歌手を目指す著者は、自身が作成したオリジナル曲のDVDを事務所に却下され、退所を決意します。著者は、「世間では、ジャニーズ事務所は独裁で、ジャニーさんが何もかもきめるように思われている。しかし実際は、ジャニーさんの考えで決められるのは一割程度だったと思う。残り九割を占める事務所全体の動きで、所属タレントたちは自分の立ち位置が決まっていく。結局、仕事は事務所の気分次第。そんなところもあった」と述べています。


著者は、頭の中で、いろいろとシミュレーションしてみたそうです。グループでデビューしたとして、どこまで行けるか。出た結論は、「SMAPと嵐は絶対に超えられない」でした。著者は、「時代が変わり、K-POPが世界的な人気になっている。だからこそYouTubeを活用しなきゃいけないのに、ジャニーズはやろうとしない。ということは、K-POPを超えることもできない。収入のことも考えた。正確なところはわからないが、事務所の中では、中居正広さんで年収数億円ぐらいだという。『低いなあ』これが、正直な思いだった。ジャスティン・ビーバーの年収は100億円と聞いていたからだ。しかも仲居さんはずっと司会業がメインだから、自分の姿をそこに重ね合わせることができない」と述べます。退所の決意は変わりませんでした。


著者の「世界計画」を知っていたジュニアの仲間たちからは「カウアン、マジで世界へ行きそうだよね、でもさみしいよ」と言われますが、「もう決めたから」と答えます。著者は、「ジュニアたちとの関係は、学校の同級生と同じだ。仲のいいヤツがいれば、よくないヤツもいる。顔は知っているけれども、ほかのクラスって距離感のヤツもいる。その日たまたま、のちのキンプリでデビューする岸優太がいた。岸は僕の入所日にもいて、辞める日にもいた。歌で勝負したいというところが似ていて、ジャニーさんの家のカラオケでキンキの歌などを一緒に練習したものだ」と述べています。


「エピローグ」では、著者が実名での告発をしてからずっとこの問題のゴールを探していたことが明かされます。それが法律改正というかたちになり、これからエンターテインメントを目指す子供たちを守る法律ができれば最高のゴールではないかと思ったそうです。だから、国会議員たちのヒアリングに応じて、自分の体験と考えを話したという著者は、「ジャニーさんの性加害は僕に何を残したのだろうか。耐えなければスターになれない、とあのときは思った。誰かに聞かれても、『ない、ない』としか言えなかった。行為を受けたことに加えて、自分に嘘をつき続けていることで、自分が嫌になった。それはアーティストの生き方ではないと思った」と述べるのでした。著者の勇気ある行動によって、ジャニー喜多川の前代未聞の悪行が暴かれ、ジャニーズ帝国は音を立てて崩れ落ちようとしています。帝国の行く末を見守りたいと思うとともに、被害者のみなさんが充分な補償を受けられることを切に願います。

 

 

2023年11月7日  一条真也