一条真也です。
たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。今回の「こころの一字」は、「清」です。


 

会社再建の名人として有名な日本電産社長の永守重信氏が「倒産する会社の共通点」の1つとして、工場の清掃が行き届いていないことを挙げています。永守氏は清掃というものに注目し、1975年ごろから日本電産の新入社員は1年間トイレ掃除をするという習慣ができあがりました。しかも、ブラシやモップなどの用具は一切使わず、すべてを素手でやることになっているといいます。

 

 

便器についた汚れを素手で洗い落とし、ピカピカに磨き上げる作業を1年間続けると、トイレを汚す者はいなくなります。これが身につくと、放っておいても工場や事務所の整理整頓が行き届くようになってきます。これが「品質管理の基本」であり、徐々に見えるところだけでなく見えないところにも心配りができるようになれば本物であるというのです。



掃除について、江戸時代の狂歌師である大田蜀山人が「雑巾を 当て字で書けば 蔵と金 あちら福々 こちら福々」という歌を詠んでいます。福々は「拭く拭く」です。この精神を哲学にまで高め、「掃除福々」を唱えている人物が、イエローハット創業者の鍵山秀三郎氏です。

 

 

鍵山氏は「人の心の荒み」を減らしたいという願いから事業を興しましたが、掃除に関しては第一人者として知られます。雑巾がけ1つにしても、力を込めて少しでもきれいにしようという気持ちが必要であり、鍵山氏は、できれば「あちら福々 こちら福々」となるような拭き方がよろしいと述べています。



掃除の思想といえば、「祈りの経営」で知られるダスキン創業者の鈴木清一が思い浮かびます。鈴木は、およそ掃除ほど尊い仕事は他にないと言い切りました。なぜなら掃除をして、美しくして、他人を「いい気持ちだ」と喜ばせることのできる仕事は、昔から金儲けとしてではなく、修業として実践されてきたぐいだからです。掃除は美しくする仕事ですが、そのなかでも一番大事なことは「心を美しくする」ことです。美しい心とは人間を幸福にする「心の豊かさ」を指します。

 

 

鈴木清一は、その生涯を通じて、「私たちは幸せだ。なぜならまず働けるという健康に恵まれている。しかも私たちがお掃除をすることによって、じぶんでもすぐその効果がはっきりわかる(汚れていたところが、ぐんぐんきれいになる)。こんなあざやかな働き甲斐のある仕事が他にあるだろうか」と、清掃の思想を広く世に訴え続けました。なお、「清」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。

 

 

2023年9月27日  一条真也