慶應の応援マナーに思う

一条真也です。
27日(日)は、次回作『神話と儀礼神道と日本人』(仮題、現代書林)の校正作業に没頭しています。京都大学名誉教授で宗教哲学者の鎌田東二先生との対談を収録した大切な本です。その校正作業で忙しいのに、ここ数日、何人かの方から「甲子園の慶應高校の応援についてどう思うか?」と質問されています。あまり高校野球には興味がないのですが、日本人の「礼」に関する重要問題であると知り、あえてこのブログ記事をアップいたします。

 

2023年夏の甲子園大会では、慶応義塾高校が107年ぶりの優勝を決めました。2022年夏の覇者・仙台育英高校との頂上決戦を制した慶應高校。23日の決勝戦では慶應のプリンス・丸田選手の史上初、先頭打者ホームランで勢いづけるなど終始、仙台育英を圧倒しました。慶應のキャプテン大村選手は「熱い応援が勝利への支えになった」と発言。優勝の陰に、大応援があったわけです。


しかし、慶應の大応援団については物議もかもしています。とにかく大音量の慶應の応援を巡っては対戦相手の仙台育英の選手のかけ声などが通らないなどプレーに影響が出たためメディアやSNSなどで賛否両論。また、慶應が守備の際、仙台育英が三振やアウトになると大きな歓声が出るなど「マナー違反」の声もあがりました。

ヤフーニュースより

 

「女性自身」が25日に配信した「批判相次ぐ慶應の応援マナー…“大きすぎる応援”に対する高野連の見解は」でも、慶應高校サイドの応援マナーについて苦言が呈されています。たとえば慶應高校が守備の際、仙台育英が三振やアウトになると大きな歓声が上がっており、《慶応の応援すごいのはわかるけど、育英の選手が三振になった時にすげーでかい声で「ワアア!」になるのはどうなの?》《せめて慶応守備のとき声抑えてもらってもいいですか、、、、単純に不快です、、、》などの意見が紹介されています。また、立って応援したり肩を組んで横揺れしたりする姿が散見され“邪魔だった”との指摘も相次いでいた。実際、球場では「立ち上がっての応援は、他のお客様ご迷惑となることもありますので、ご注意ください」「応援は後方のお客様のご迷惑にならないよう、十分ご配慮ください」という注意喚起がアナウンスされていたことが紹介されています。


東スポWEBより

 

26日、読売テレビの「あさパラS」に生出演した同局の高岡達之解説委員長は、「世の中って何か自分たちの集まりはほかの人と違うというのは、どんだけ批判があっても人類の性ですよ。教育の場所っていうのは、僕は徹底的に自分たちの仲間意識のところだと思ってますから。それはいい悪いじゃなくて、やっぱりそうなっちゃうんだと思うんです」と一定の理解を示しつつも、「ただ、これがこれだけ、いろんな立場の方が発言されるのは高校野球の場所だからでしょ。で、一生に一回ですよね。その一生に一回の場で相手の学校に対して、そういう子たちに対して(不公平な応援をした)大人の人たちがたくさんいたと。年齢的に。そしたらば、公平な試合をする空気をしてあげなかったんじゃないですか?と、それは言われる可能性は僕は理解できます」と賛否の声が出るのも当然としました。


その上で、高岡氏は「そうならば主催者が何か発言するべきです。高野連とかまあある新聞社さんですがね」とピシャリ。「やっぱりそこがこれをそのままにしておいたら、来年もまた同じような何十年ぶりかで頑張られるところが出てきた時に、不公平だということをもう一回やるんですか?ってことです。だから大人が応援してバランスが崩れたのだったら、その主催者の大人が何かしらの見解を言うべきだと思います」と訴えてました。ちなみに、「公益財団法人 日本高等学校野球連盟」(以下・高野連)が定めている「第105回 全国高等学校野球選手大会」の学校関係者向け「応援に関する注意事項」では、「マナーを守った節度ある応援」が求められており、そこには守備中の応援について《座ったまま、拍手のみで》《「がんばれ」などと集団で声を合わせる応援もできません》とあります。

 

「女性自身」誌が高野連に見解について問い合わせたところ、「『応援に関する注意事項』については、学校側がアルプススタンドにおいて、学校の管理の下、応援する際にお願いしているものであり、同スタンド以外の座席で観戦される皆様に周知しているものではありません」と守備中の声援などについてのルールに関しては、一般観客に対して周知しているものではないとしたそうです。しかし、「アルプススタンド以外の座席については、今回に限らず、周りの方に迷惑をかけないようにご観戦いただく旨、お願いしています」と、観客への配慮も求めていたとか。

年長者の作法』(主婦と生活社

 

わたしは、高校野球に限らず、自分が応援したいチームを全力で応援することは自然なことだと思います。わたしだって、野球のWBCやサッカーのワールドカップでは、狂ったように日本代表を応援しました。応援という行為そのものは悪くありません。ただし、高校野球という教育の場で、相手が三振やアウトになると大きな歓声を出すのは感心できません。というよりも下品であり、「礼」を失していますね。拙著『年長者の作法』(主婦と生活社)が10月13日に発売されますが、若者に「礼」を教えてあげるのは年長者の役割。最大の役割と言ってもいいでしょう。子どもたちに夢を与える大会だけに、今回の甲子園大会における大人たちの振る舞いは残念でした。一方で、決勝で敗れた仙台育英高校の須江航監督は、「慶應は本当に強かった。勝者に相応しいかった」「人生は敗者復活です。この経験を次に活かして欲しい」などとコメントしました。これこそ大人の対応であり、非常に感動をおぼえました。



そもそも、慶應の大応援に多くの人々が不快感を示すのは、慶應が名門校であり、そこの生徒には富裕層の子弟が多いからだと思います。つまり、今回の物議の背景には日本の「格差社会」問題が存在するのです。だいたい、慶應義塾高校などはOBにも金持ちが多くて寄付金も多額に集まるでしょうし、入場チケットさえ入手できれば、何千人でも何万人でも大応援団を甲子園に送り込めるでしょう。そこは、地方の高校とは根本的に違うところです。だって、沖縄から甲子園に大応援団を派遣するのは大変です。「地方の私立高校だって、カネにまかせて名選手を集めているじゃないか」という声も聞こえそうですが、慶應とはレベルが格段に違います。そこを忘れてはいけません。

 

 

わたしは慶應義塾の出身ではなく、早稲田出身です(次女は慶應の出身です)が、「慶應出身者の結束力は異常なぐらい強いなあ」と思うことが多いです。早稲田なんか一匹狼の群れという感じで、結束力など感じたことはありません。でも、その方が慶應義塾の理念である「独立自尊」の精神に適っているようにも思うのですが・・・・・・。慶應の結束力は今回の甲子園の大応援でも見事に発揮されましたし、最近では義兄の葬儀でも痛感しました。義兄は慶応の体育会のホッケー部で日本代表に選ばれるほどの選手でした。また、慶應義塾高校から大学に進学したので、同窓との絆が強かったようです。葬儀では想像を超える多くの参列者があり、もちろん故人の人望があってのことでしょうが、わたしは慶應OBの結束力にも感嘆しました。


JR中津駅福澤諭吉銅像

 

ブログ「小倉から中津へ」で紹介したように、今月7日、わたしは大分県中津市を訪れました。ここは、慶應義塾創始者である福澤諭吉の出身地です。「福澤諭吉記念館」や「諭吉神社」などもあり、慶應を志願する高校生などが多く来館しています。JR中津駅には福澤諭吉の巨大銅像が建っており、駅の構内にも諭吉関連のモニュメントや展示物が満載で、驚きました。いつの間にか、まるで福澤諭吉記念館みたいになっていました。


この名言は「コンパッション」の言葉だ!

 

有名な「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という福翁の名言も掲げられていましたが、わたしは平等を訴えたその言葉を見て、「これは、コンパッションの言葉だ!」と思いました。思うに、相手チームが三振やアウトになると大きな歓声を出すなど、コンパッションの欠片もありませんね。あの甲子園での大応援を肯定する慶應関係者には、ぜひ、「コンパッション」というものを知っていただきたいと切に願います。

コンパッション!』(オリーブの木

 

以上、ここまでが今回のブログ記事の内容でしたが、これを読んだ松柏園ホテル経理課の園田剛課長から感想のLINEが届きました。園田課長は慶應義塾大学の出身で、「サンレーグループ三田会」の代表者でもあります。彼は、「私も今回の慶應の応援については『礼』を失していると感じました。しかし、これが慶應本来の応援でないとも感じました。六大学野球の応援は①応援指導部の指示に従うこと、②相手校への敬意を忘れずマナーを守ること、③応援席に来た以上全力で楽しむこと、が暗黙のルールとして存在しているようです。今回はアルプススタンド以外にも慶應OBが多数集まったため、応援指導部の指示が行き渡らず、結果として相手校への敬意と応援のマナーを失してしまったと思います。個人的には次の甲子園出場時には、もっと統制のとれた応援を、期待しています」と書いていました。六大学野球と甲子園では違うかもしれませんが、慶應義塾の名誉のためにもここに記しておきます。



最後に、ACの「たたくより、合おう。」のCMを思い出しました。「コンペテションより、コンパッション!」で行こうではありませんか! それが「」です。そして、礼に満ち溢れた社会が「ハートフル・ソサエティ」です!

 

2023年8月27日  一条真也