「オールドマン」

一条真也です。
東京に来ています。19日の夜、ブログ「小説家の映画」で紹介した韓国映画を新宿シネマカリテで観た後、続けて「オールドマン」というホラー映画を観ました。サイコサスペンスの傑作で、スティーヴン・ラングの怪演が凄かったです。「小説家の映画」と同じく基本的に会話劇ですが、先の読めない展開に、意表を衝くラストで、こちらは「小説家の映画」とは大違い。とても面白かったです!

 

ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『ドント・ブリーズ』シリーズのスティーヴン・ラングが出演するサスペンススリラー。森をさまよい、ある山小屋に暮らす老人に助けを求めた青年が、老人から殺人鬼ではないかと疑われる。メガホンを取るのは『ブラッド・マネー』などのラッキー・マッキー。『セーラ 少女のめざめ』などのマーク・センターらが出演する」

 

ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「ハイキング中に森で迷った青年は、山小屋を見つけ、そこに一人で暮らす老人(スティーヴン・ラング)に助けを求める。だが、猟銃を手にした老人は青年に対して『お前は殺人鬼かもしれない!』と疑いの目を向ける。彼らは次第に打ち解け始め、緊迫した空気は消えそうに思えたが、ある恐ろしい秘密が明らかになる」

 

わたしは、いま、『年長者の作法』(主婦と生活社)という本を書いていて、今回の東京出張でも同書の打ち合わせをしました。本のテーマの1つに「老害の人と呼ばれないために」というのがあるのですが、映画「オールドマン」に登場する老人は、老害どころか、ウルトラ・スーパー・クレイジーな(笑)とんでもないイカれた爺さんでした。そのイカれた爺さんと青年の間で緊迫した会話が延々と続きます。爺さんと青年以外の登場人物は2人(3人)ですし、しかも舞台はずっと山小屋の中。これは、かなりの低予算映画だと思います。でも、シナリオが素晴らしくて、意外な展開の連続で、大いに楽しませてくれました。


それにしても、スティーヴン・ラングの怪演ぶりは凄まじいです。同じく主演したドント・ブリーズ(2016年)を連想しました。ホラー映画の金字塔「死霊のはらわた」(2013年版)チームが仕掛けるショッキング・スリラーで、盲目の老人宅に強盗に入った若者たちが、反撃に遭う恐怖を描きます。街を出るための資金が必要なロッキーは、恋人マニー、友人アレックスと共に、大金を持っているといううわさの目の見えない老人の家に忍び込みます。老人(スティーヴン・ラング)は、驚異的な聴覚を武器に彼らを追い詰めます。明かりを消され屋敷に閉じ込められた若者たちは、息を殺して脱出を図るのでした。


ドント・ブリーズ」は大ヒットし、続編のドント・ブリーズ2」(2021年)も作られました。盲目の老人の家に盗みに入った若者たちが返り討ちに遭った惨劇から8年。老人はある少女の面倒を見ており、二人だけでひっそりと暮らしていました。ある日、家に謎の武装集団が押し入り、少女を連れ去ろうとします。危機が迫った彼女をめぐって、老人は自らの超人的な戦闘能力を駆使して敵と死闘を繰り広げるのでした。このように、「ドント・ブリーズ」「ドント・ブリーズ2」ともに、悪霊よりゾンビより怖い老人が描かれています。


でも、わたしは、「ドント・ブリーズ」シリーズの盲目かつ超人的な老人をちっとも怖いとは感じませんでした。そもそも、怖い目に遭う奴らは単なる強盗犯や誘拐犯であり、1ミリたりとも共感も同情もできません。こんな奴らは殺されて当然です。また、ここが最も大切なところですが、盲目の老人をモンスターとして描くのが不愉快きわまりない。障がい者ネタのホラーなど面白くも何ともないですし、後味が悪いことこの上ないです。その意味で、「オールドマン」に登場する老人は明らかにイカれた爺さんなので、安心して(?)彼を怖がることができました。スティーヴン・ラングの存在感と演技力には脱帽です。



映画館を出ると夜の11時過ぎ。ちょっと怪しい新宿の街を歩くと、なんだか白のボルサリーノが妙に似合います。(笑)北九州の街をこのファッションで歩いたら確実に親分と間違えられますが、新宿なら違和感なし。ふと、わたしは「魅力のある老人になりたいな」と思いました。小洒落た爺さん、そう、コジャレジジイになりたい。そんなことを思っていたら、いつの間にか、サザンオールスターズ「DIRTY  OLD  MAN」を口ずさんでいました。

 

2023年7月21日  一条真也