死を乗り越える黒澤明の言葉

 

生きているのは苦しいとかなんとか言うけれど、それは人間の気取りでね。正直、生きているのはいいものだよ。とても面白い。(黒澤明



一条真也です。
言葉は、人生をも変えうる力を持っています。今回の名言は、黒澤明(1910年~1998年)の言葉です。映画監督としての彼は、「世界のクロサワ」と称されました。1943年に「姿三四郎」で監督デビュー。その後、「野良犬」「醉いどれ天使」「羅生門」「白痴」「生きる」など数々の名作を生み出しています。特に1954年に発表した時代劇「七人の侍」は大ヒット。映画史上最高傑作の1つとされています。

「生きているのは苦しいとかなんとか言うけれど、それは人間の気取りでね。正直、生きているのはいいものだよ。とても面白い」とは、黒澤明が監督・脚本を担当したオムニバス映画の傑作「夢」(1990年)の最終話である「水車のある村」の中で、笠智衆が演じた老人が語るセリフです。この「水車のある村」には明るい葬儀のシーンが登場します。その様式美の美しさに、儀式のもつ力を感じることができました。黒澤映画の1つの頂点というべき映像表現だと思います。機会があれば、ぜひご覧ください!



世界的な映画監督であった彼は、61歳のときに自殺しようとしました。その後、彼の描くテーマには、つねに「死」があったように思えてなりません。黒澤映画で忘れることができない映画は「生きる」(1952年)です。無為に日々を過ごしていた市役所の課長が、ガン宣告を受けます。そして残された余命で己の「生きる」意味を市民公園の整備に注ぐという物語です。黒澤映画のヒューマニズムが頂点に達したと評価される名作です。



劇中で志村喬が演じる主人公が「ゴンドラの唄」を口ずさみながらブランコをこぐシーンは、名シーンとしてよく知られています。「老い」をテーマにしたこの映画は、日本が高齢社会を迎えた今こそ、多くの日本人に観てほしいと思います。最近、イギリス映画「生きる LIVING」としてリメイクされました。ノーベル賞作家のカズオ・イシグロが脚本を書いたリメイク版では、市役所の課長を名優ビル・ナイが演じました。「生きることなく、人生を終えたくない」という言葉が心に沁みました。黒澤明の傑作がアップデートされて、大傑作になっていました! なお、この黒澤明の言葉は、『死を乗り越える名言ガイド』(現代書林)に掲載されています。

 

 

2023年5月3日 一条真也