「ヒッチハイク」

一条真也です。
金沢に来ています。シネアドのチェックを兼ねてイオンシネマ金沢で日本映画ヒッチハイクのレイトショーを観ました。時間が遅いせいもありますが、映画館そのものがガラガラで怖かったです。帰りは外が大雨で何度も雷が光って怖かったです。映画そのものはあまり怖くありませんでした。一言でいうと、「変な映画」でありました。


ヤフー映画の「解説」には、「匿名掲示板『2ちゃんねる』のオカルト板スレッド『死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?』(通称:洒落怖)で話題を呼んだ都市伝説を映画化。人里離れた山道でヒッチハイクをした若者たちの運命を描く。『コープスパーティー』シリーズなどの山田雅史が監督、『きさらぎ駅』などの宮本武史が脚本を担当。ダンスボーカルユニット『原因は自分にある。』のメンバーで、『レッドブリッジ』シリーズなどに出演してきた大倉空人が主演を務めた」とあります。

 

ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「女子大生の涼子と茜は、ハイキングの帰りに山道で迷って立ち往生してしまう。さらに涼子は足を負傷し、茜の恋人も都合が悪いため、二人は意を決してヒッチハイクに挑む。すると、山奥にもかかわらず1台のキャンピングカーが停車し、ジョージと名乗るカウボーイの格好をした男が現れる。彼は二人の頼みを快諾し、車内に招き入れるが、中にいたジョージの家族は異様な雰囲気を漂わせていた。一方、親にウンザリしていた山崎健(大倉空人)は友人を誘い、涼子たちと同じ山でヒッチハイクの旅をする」



この映画、じつは、けっこう楽しみにしていました。川崎麻世が出ていたからです。彼はジャニーズ事務所の出身で、アイドルとして一世を風靡した田原俊彦近藤真彦とほぼ同世代ですが、彼らほど脚光を浴びることはありませんでした。早稲田大学の芸能研究サークル「たのきん研究会」のメンバーだったわたしは、先輩が「本当はトシちゃんよりも、マッチよりも、川崎麻世が一番スター性がある。マスクもいいし、足が長くてスタイルもいい。それなのに売れないのは、整いすぎているからだ」と講釈を垂れたのを聴いて以来、彼には興味を抱いていたのです。



その川崎麻世はその後、結婚したカイヤ夫人の恐妻ぶりで有名になりました。プロレスのリングにも上がったカイヤのインパクトは絶大で、いかにも怖そうでした。「ヒッチハイク」で川崎麻世はジョージという名の羊飼いを演じ、その妻はジョゼフィーヌという名前でした。白塗りのジョセフィーヌは妖怪のようなたたずまいでしたが、わたしは「ジョゼフィーヌよりもカイヤの方が怖いなあ」と思いましたね。あと、アカ・アオと名付けられた不気味な双子の姉妹がスイス民謡の「おおブレネリ」を歌い始めるのですが、サビの部分でジョージが「ヤッホ~ホトゥラララ~ヤッホッホ♪」と大声で歌う場面がなんとも怖かったですね。「おおブレネリ」がトラウマ・ソングになりそうです。



ヒッチハイク」は2ちゃんねるのオカルト板の洒落怖スレッドに投稿された怖い話ですが、2ちゃんねる発の都市伝説の中でも特にトラウマになると言われています。登場人物は、主人公の俺(大学卒業後就職が決まっていない)、カズヤ(俺の大学の友達。悪友で女癖が悪い)、キャンピングカーの家族(60代父親・70代母親・40代双子の息子)、マモル、テンガロンハットの大男、トイレで泣く女の子、コンビニ店長、トラックの運転手といったところです。物語としては、「俺とカズヤがキャンピングカーに助けを求め乗せてもらう」「前に夫婦、後部座席に双子の子供が乗っている」「一番後ろの席に奇形の子供がいる」「実はその家族は残忍な奴らだった」「トイレ周辺でスリルが巻き起こり奥の部屋から女の声が聴こえる」などの要素がありますが、映画「ヒッチハイク」では改変しつつも基本は踏襲しています。


2ちゃんねる発の都市伝説といえば、 ブログ「きさらぎ駅」で紹介したホラー映画が思い浮かびます。2004年に「はすみ」と名乗る人物がインターネット掲示板2ちゃんねる」に書き込んで以来、いまだ話題となる都市伝説をモチーフにしています。民俗学を専攻する女子大生が、異世界の駅の謎に迫ります。日本人には馴染みの深い異郷訪問譚の一種だと言えます。異郷訪問譚でよく知られている例としては、伊邪那岐命の黄泉国訪問、浦島子の竜宮訪問、大穴牟遅神の根国訪問譚、火遠理命の綿津見宮訪問譚、神功征韓譚、「舌切り雀」の雀のお宿などがあります。「きさらぎ駅」には、「伊佐貫(いさぬき)」と言う名称のトンネルが登場しますが、これは「伊邪那岐(いざなぎ)」と関連していると思われます。「鬼」という漢字を「きさらぎ」と読むこともできることから、きさらぎ駅には黄泉の国のイメージが強く漂っています。


古事記』などの日本神話といったしっかりとした物語のベースを持った「きさらぎ駅」と違い、「ヒッチハイク」の方はどうにも物語の完成度が低い印象があります。確かに、各シーン、場面場面は不気味で怖いのですが、矛盾点も多く、物語としての整合性がまったくありません。「ホラー映画だからいいではないか」と言う人もいるかもしれませんが、ホラーとかファンタジーとかSFといった非日常の世界を描く物語ほど、細部のディテ―ルにはリアリティが欠かせないというのが、わたしの持論です。でも、映画「ヒッチハイク」にはリアリティが皆無でした。


森の中で奇妙な晩餐会が開かれるシーンはなかなか幻想的でしたが、そこで主人公はまずい肉を食べさせられ、まずい飲み物を飲まされます。その正体は何か? この映画がスプラッターホラーであることを知っていれば、おのずから想像がつくでしょうが、こんな経験をしたら一生、肉が食べられなくなるほどのトラウマになること必至です。その後、主人公は囚われの女子大生と一緒に森の中を逃げますが、どんなに逃げても元の場所に戻ってくるというのは定番ですね。この映画、ネットでの評価が異常に低いのですが、とってつけたような恐怖演出が多いことがその最大の原因ではないでしょうか。ネタバレにならないように書きますが、正直、余計なシーンが多すぎると感じました。完成度の高いホラー映画を作るのは難しいですね。

 

2023年7月13日  一条真也