一条真也です。
たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。今回の「こころの一字」は、「時」です。

 

 

「マネジメント」を発明したピーター・ドラッカーは、こう言いました。
「成果をあげる者は、仕事からスタートしない。時間からスタートする。計画からもスタートしない。何に時間がとられているかを明らかにすることからスタートする。次に、時間を管理すべく、時間を奪おうとする非生産的な要求を退ける。そして最後に、限られた自由な時間を大きくまとめる。(上田惇生訳)」

 

 

成果をあげるためには時間からスタートすべきだというのは、時間が最も不足しており、限界のある資源だからです。それは資金や人のように新しく調達したり、雇用したりできないうえに、簡単に消滅し、かといって蓄積もできません。また、その代わりになるものがないのです。しかし、時間はあらゆることに必要とされ、すべての仕事が時間のなかで行なわれ、時間を潰します。



ドラッカーは「時間こそは最もユニークで、しかも最も乏しい資源である。これが有効に管理されなければ、他の何ものも管理されない」とも言いました。 時間管理を考えるに当たって公私ともに大事なことは、「優先主義」と「重点主義」をとることです。その日、何を最優先させ、何に重点を置いて、時間を分割し、集中的に動くか。この判断を適切にすることを心がける。そうすることで、公の時間を仕事に貢献させ、私の時間を自身に貢献させることが可能になる。


 

自分で判断した優先順位にしたがって重点的に投入することで、最大限、効果と効率のよい生かし方をしなければなりません。考えてみると、人生とは時間を生きることです。1つひとつの時間の積み重ねが、人の一生です。時間とは生命そのものなのです。 時間を守らない人がいます。その人が会議や待ち合わせの時間に遅れてくるとき、他人が被る迷惑は、計り知れないほど大きいです。待たされる時間は、完全に「失われた時間」です。

 

 

経営コンサルタントの山崎武也氏は、時間を守らない人は信用できないだけでなく、「時間泥棒」と呼ばれても仕方ないと語ります。それもこっそりと盗んだのではなく、無理やり強引に奪ったので「時間強盗」と言うに等しいというのです。さらに、強盗された時間という財物は、いったん失ったら取り返すことのできない生命の一部であることを忘れてはなりません。


 

その意味では、約束の時間に遅れることは、待たせた人の生命の一部を奪ったのと同じことになります。そうなると、時間強盗どころか「部分的殺人」の罪と断ずることもできるわけです。肝に銘じましょう。なお、「時」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。

 

 

2023年4月2日 一条真也