一条真也です。
たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。今回の「こころの一字」は、「伝」です。

 

 

歴史上の人物を見ると、宣伝機関を持っていた者が人気者になることがわかります。日本史においては、源義経は『義経記』を、楠木正成は『太平記』を、織田信長は『信長記』を、そして豊臣秀吉は『太閤記』を持つことによって、後世の人々の心をつかみました。まことに、書物の力というものは偉大であると痛感します。



考えてみると、孔子ソクラテスブッダ、イエスのいわゆる「世界の四大聖人」は誰一人として本を書いていないことに気づきます。『論語』や『仏典』や『新約聖書』はいずれも彼らの弟子たちがまとめた発言集ですし、ソクラテスの言葉もプラトンによって未来に残されたのです。メッセージを広く、長く伝えるという点において、いかに後継者の存在が大きいかがよくわかります。


書いて、想いを伝える

 

現代のリーダー、特に企業の経営者の自叙伝やメッセージ集のようなものが書店にたくさん並んでいますが、一読してプロのライターが代筆したとすぐわかるものが多いですね。いやしくも志を持って業を立てているからには、たとえ稚拙であっても自らペンをとって想いを綴ってほしいと思います。わたしは著書の執筆の他、新聞や雑誌やWEBなどの連載を数本抱えてきましたが、必ず自分で全部書きます。そして、少しでもわが社のメッセージを世の方々に伝えたいと思っています。また社員に対しても伝えたいことが山とあるので、毎月の社内報で社員へのメッセージを書いています。


語って、想いを伝える

 

もちろん、書くことだけがメッセージの伝達ではありません。会議や朝礼や全社集会など、経営者はとにかく語ることが仕事です。松下幸之助は、次の3点が重要だと言いました。すなわち、燃える思いで訴える、繰り返し訴える、なぜ訴えるのかを説明する。この3つの繰り返しをしなければ、リーダーの真意は社員には伝わらないといいます。なかなか自分の考えが社員に伝わらないと思うなら、自分が十分な努力をしているかどうか、よく考えてみるべきでしょう。



かのアレクサンダー大王は、ロック・スターのごとく群集の感情をどう抑え、どう解き放てばいいかを熟知していたといいます。彼は壮大なビジョンを人々に与えるのに長けていただけでなく、そのビジョンを達成することが臣民にとって何を意味するのか、わかりやすく説明するのが得意でした。たとえ未来の戦利品であっても、いつ届くとも知れぬステーキの、さしあたって肉が焼ける音だけでも人々に与える必要があることに気づいていたのです。その結果、彼は世界帝国の王となったのです。
なお、「伝」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。


 

2022年10月13日 一条真也