「ガイア理論」のジェームズ・ラブロック死去

一条真也です。
ヤフーニュースで「『ガイア理論』の英科学者ラブロック氏死去 103歳」という記事を見つけました。世界的に有名なイギリスの科学者ジェームズ・ラブロック(James Lovelock)は、地球をひとつの生命体と考える「ガイア理論」や、気候変動に関する先駆的な研究で知られましたが、転倒による合併症のため、103歳の誕生日である26日に死去したそうです。


ヤフーニュースより

 

記事には、以下のように書かれています。
「ラブロック氏は1970年代、地球はすべての生物で構成された自己調整機能を持つひとつの生命体だとする『ガイア理論』を考案。この理論は、地球とそこに住む生命の関係に対する科学的視点の見直しに貢献した。温暖化による地球破滅の恐れを訴えたことでも知られ、2006年に出版した『ガイアの復讐(The Revenge of Gaia)』では、人類が温室効果ガスの排出を大幅に削減しなければ深刻な結果になると警鐘を鳴らした。20年のAFP通信のインタビューでは、新型コロナウイルスの大流行への対応を迫られる中で世界は広い視野を失ったと警告。より大きな問題である地球温暖化への対策に注力するべきと述べていた。【翻訳編集】 AFPBB News

 

わたしは、最初にラブロックの『地球生命圏――ガイアの科学』星川淳訳(工作舎)を読んで以来、ガイア仮説に魅了されました。科学的かどうかは別にして、そのロマンティックな考え方に夢中になったのです。ブログ『リゾートの思想』で紹介した1991年2月に上梓した一条本は、人間にとっての理想の土地、すなわち「理想土」について考察した本ですが、その第2章「リゾートのキーワード=20」の14「ネイチャー」でガイア仮説を紹介しました。当時のわたしは1989年10月に設立した(株)ハートピア計画(東京都港区西麻布)の代表取締役として、リゾート開発のコンセプト・プランニングなどの業務を行っていました。

リゾートの思想』(河出書房新社

 

リゾートの思想』の中で、わたしはこう書いています。
「現在、自然環境の問題はリゾートに限らず、また日本に限らず、全地球的なレベルでの最大の問題となっている。酸性雨、砂漠化、フロンガスによるオゾン層の破壊、二酸化炭素による温暖化、森林伐採による熱帯林の減少など、ほころびの目立つ地球環境をめぐって、大きな国際会議がいくつも世界各地で開かれている。1992年には環境開発国連会議も開催される。21世紀のグランド・キーワードは間違いなく『地球』と『神』だろう。ここで、われわれがどうしても知っておかねばならない理論がある。地球全体を一個の生命体ととらえた『ガイア仮説』である。イギリスのフリーの科学者J・E・ラブロックによって唱えられているものだ。新世代(ニュー・エイジ)の地球像は、『宇宙空間から眺めた地球は、文字通り一つの生命体だった』という宇宙飛行士たちの証言に代表される。NASAの字宙計画の共同研究者として火星の生命探査計画に参画したラブロックは、この宇宙飛行士たちの啓示を、大気分析、海洋分析、システム工学などを駆使して実証科学に置き換えた。出発点となった『一つの生命体としての地球』の名前は『ガイア』。ギリシア神話の大地の女神で、天文神ウラノスの母でもあり妻でもあったという初源の神の名である。地理学(ジオグラフィー)や地質学(ジオロジー)の語源ともなっている」

リゾートの思想』より

 

また、わたしは以下のようにも書いています。
「ラブロックは大気分析を通して火星には生命が認められないことを実証した後、改めて地球の大気の特異性に着目した。そして、バクテリアから人間まで、地上の生きとし生けるものはもとより、大気や海などの環境も含めて1つの生命体と見なす『ガイア仮説』を打ち出したのである」
ラブロックは、『地球生命圏』で以下のように述べます。
「母なる大地」という概念や、ギリシア人たちが速い昔<彼女>をガイア(Gaia)と呼んだような考え方は歴史上ひろくみられるものであり、いまなおもろもろの大宗教に説かれるひとつの信条の基盤ともなってきた。自然環境に関する事実の集積と、生態学の進展にともなって、最近、生命圏(バイオスフィア)は土壌や海洋や空中を自然生息地とするありとあらゆる生き物たちの単なる寄せ集め以上のものではないかという推測がなされるようになっている。古来の信条と現代の知識は、宇宙飛行士たちがわが目で、われわれがメディアを介して、宇宙の深い聞に浮かぶまばゆいばかりの美しさに包まれた地球を見たときの驚異の中に融合したといえよう。けれども、この感覚がいかに強いものであれ、それだけで母なる地球が生きているという証拠にはならない。宗教的信条と同様、それは科学的に検証不可能であって、さらなる理論的考察に耐えることができないのである。


さらに、わたしは以下のように述べています。
「宇宙空間への旅は、地球を見る新たな視座を提供するという以上の意味をもっていた。外空間からはまた、地球の大気や表面についての情報が送り返されて、惑星の生物と無機物間のさまざまな相互作用に関する新しい洞察をもたらしてくれたのである。ここからひとつの仮説、モデルが現われた。つまり、地球の生物、大気、海洋、そして地表は単一の有機体とみなしていい複雑なシステムをなし、われわれの惑星を生命にふさわしい場所として保つ能力をそなえているのではないかという仮説である。ラブロックはガイアを、地球の生命圏(バイオスフィア)、大気圏、海洋、そして土壌を含んだ1つの複合体と定義している。つまり、この惑星上において生命に最適な物理化学環境を追求する1つのフィードバック・システム、あるいはサイパネティック・システムをなす総体である。積極的なコントロールによって様々な条件を比較的安定した状態に保つという現象は、<恒常性(ホメオスタシス)>という術語でうまく表現できる」

 

そして、わたしは「もしガイアが存在するとすれば、彼女とその複雑な生命システムの中で最も優勢な動物種である人間との関係、そしてその両者の間で逆転しつつあるとおぼしき「力のバランス」が重大問題となるのは明らかだ。ガイア仮説は自然を、鎮圧され征服されるべき未開の力と見なす悲劇的な見方に対する代案(オルタナティヴ)であり、われわれの惑星を、操縦士も目的もなく永遠に太陽の内軌道をめぐる狂った宇宙船と見る、気の滅入る地球像への代案でもある。われわれはガイアのパートナーとして、汚染によって病んでいる彼女を癒さなければならない。何よりもまず、彼女を愛さなければならない。地球は生きている。そして、われわれは生きた地球の一部としての生きたリゾートをつくるのである。生きたリゾートにおいて、われわれはガイアの息吹や心臓の鼓動を感じるに違いない」と述べるのでした。


いま、『リゾートの思想』を読み返すと、今から30年以上も前に現代社会のキーワードである「SDGs」も、「ウェルビーイング」も、「マインドフルネス」も、すべて視野に入れて、またそれらが新時代のキー・コンセプトであることを自覚して論じていることに、われながら驚きます。この本を書いたのは28歳でしたが、明らかに現在のわたしの考え方がよく示されていることに気づきます。

 

 

ラブロックの遺作は、『ノヴァセン:〈超知能〉が地球を更新する』(NHK出版)です。「ガイア理論」の提唱者として知られる彼が、21世紀に人間の知能をはるかに凌駕する〈超知能〉が出現すると予測した本です。地球は、人類を頂点とする時代(=「人新世」)から、〈超知能〉と人類が共存する時代(=「ノヴァセン」)へと移行すると主張します。〈超知能〉は人類より1万倍速く思考や計算ができ、人間とは異なるコミュニケーション手段を持つといいます。他方で〈超知能〉にとっても地球という環境が生存の条件になるため、人類と共に地球を保護する方向に向かうだろうと断言する。科学的なベースを踏まえながら、地球と生命の未来を大胆に構想した知的興奮の書です。人類史に残る大変な名著であるとの声が多く、情報学者の落合陽一氏なども推薦しています。最後に、偉大なるロマンティック・サイエンティストであったジェームズ・ラブロック氏が母なるガイアのもとに還られて安らかに休まれることを心よりお祈りいたします。

 

2022年7月28日 一条真也