アンビショナリーCM

一条真也です。
1月23日から資生堂の150周年を記念したCMがテレビで流れています。安藤サクラ池田エライザ石田ゆり子小松菜奈、近藤華、長澤まさみ広瀬すず前田美波里の8人の女優が出演する豪華版ですが、素晴らしい!!


「『美しさとは、人のしあわせを願うこと。』篇」と題されたCMは、資生堂が発信してきたメイクやライフスタイル提案の歴史を最新技術で表現しています。資生堂創業時の風景や現代、未来をイメージした映像には、過去に放送されたCMのオマージュも取り入れられており、興味深いです。広告業界出身のわたしとしては興味深いです。CM楽曲には、1978年の資生堂「ベネフィーク」キャンペーンソングである堀内孝雄の「君のひとみは10000ボルト」を中村佳穂がカバーしたバージョンを使用。

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石田ゆり子資生堂150周年記念CMより)

 

8人の女性は時代もファンションもさまざまです。石田ゆり子は明治時代の銀座を歩く女性として登場。当時、既婚女性の髪形として代表的だった丸まげを結っています。安藤さくらの出演シーンは1982年の忌野清志郎坂本龍一がCMソングを歌った「い・け・な・いルージュマジック 資生堂 ルア リップカラークリエイター」CMをオマージュした映像です。いやあ、なつかしいですね!!

f:id:shins2m:20220125202411j:plain長澤まさみ資生堂150周年記念CMより)

 

広瀬すずは現代を象徴するかのようなリモート面接に挑む学生姿と、就職後にオシャレを楽しむ姿も映し出されています。長澤まさみは1920年代に流行したモダンガールのファッションに身を包んで颯爽と街を歩きます。池田エライザの出演シーンでは、本CMと同じく「君のひとみは10000ボルト」が使用された1978年の「ベネフィーク グレイシィ」CMがオマージュされています。

f:id:shins2m:20220125202427j:plain池田エライザ資生堂150周年記念CMより)

 

前田美波里は自身が出演した1966年の資生堂広告「太陽に愛されよう」をオマージュした映像で、当時と同じく真っ白なターバンを着用しています。砂浜で寝そべる姿勢から立ち上がるアクションを取り入れることで、生涯にわたって美を進化させる姿勢を表現しているとか。

f:id:shins2m:20220125202441j:plain小松菜奈資生堂150周年記念CMより)

 

小松菜奈はビューティーコンサルタント(美容部員)の前身である「ミス・シセイドウ」の制服を着用した1934年のカットと、現代のビューティーコンサルタントの衣装で登場。そしてCMを締めくくるのは近藤華の登場カット。いつ、どこにいても美容体験ができることが、宇宙空間というシチュエーションで象徴的に描かれています。

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近藤華(資生堂150周年記念CMより)

 

本当に信じられないほど豪華な150周年記念CMですが、何よりもインパクトがあったのは「美しさとは、人のしあわせを願うこと。」というキャッチコピーでした。これには意表を突かれました。だって、ふつうは「美しさ」とは「自分のしあわせ」のためであって、「人のしあわせ」とは無縁ではないですか。でも、あえて「美しさ」と「人のしあわせ」を結びつけるということは、この「美しさ」とは外見の美しさではなく内面の美しさだということがわかります。つまりは、「こころの美しさ」ですね。

f:id:shins2m:20220125210938j:plainアンビショナリー・カンパニー』(現代書林)

 

わたしは、このCMにおける「美しさ」という言葉は「志」と同じであると気づきました。「志」に似た言葉に「夢」がありますが、自分のしあわせを願うことが「夢」なら、人のしあわせを願うことは「志」にほかなりません。拙著『アンビショナリー・カンパニー』(現代書林)にも書きましたが、志とは何よりも「無私」であってこそ、その呼び名に値します。「自分がしあわせになりたい」というのは夢であり、「世の人々をしあわせにしたい」というのが志です。夢は私、志は公に通じているのです。自分ではなく、世の人々、「しあわせになりたい」ではなく「しあわせにしたい」、この違いが重要なのです。カンパニーズ・ビー・アンビシャス! 資生堂150周記念CMは、同社の大志を訴えたCMでした。

f:id:shins2m:20220125210959j:plainイラストでわかる 美しい所作と振る舞い

 

「美しさ」といえば、『アンビショナリー・カンパニー』と同時期に上梓した監修書『イラストでわかる 美しい所作と振る舞い』(メディアパル)は、美しくなるための本です。所作や振る舞いというのは、徹底的に他人を意識した営みです。自分は関係ありません。あくまでも、自分と接する人、自分の近くにいる人を嫌な気分にさせない、ひいては良い気分になってもらうための技術です。その意味で、所作や振る舞いも「人のしあわせを願う」ことだと言えるでしょう。所作や振る舞いは見た目にも美しいですが、心もゆたかにします。つまり、外見と内面の両方の美を実現するものなのです。資生堂の150周記念CMを観て、そんなふうに「美しさ」について考えました。


2022年1月25日 一条真也