東京五輪閉会式

一条真也です。
8日の夜、台風9号がついに九州に上陸。さっきからスマホの警報が鳴りっぱなしです。東京の新型コロナウイルス新規感染者は4066人でした。5日連続で4000人を超え、日曜日では過去最多となっています。

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閉会式が行われた国立競技場(NHKより)

 

この日、コロナ禍中の緊急事態宣言下で強行開催された東京五輪がついに閉幕しました。20時から国立競技場で閉会式が行われ、わたしもNHKの生中継を観ました。結論から言うと、開会式と同様に心に響くものがない最低の閉会式でした。全体を通して演出の意図が意味不明であり、近代五輪史上ではワースト閉会式だと思います。ロンドン大会やリオ大会の閉会式の素晴らしさと感動を記憶している人は大いに落胆したことでしょう。

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秋篠宮殿下を案内するバッハ会長(NHKより)

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またしても自分だけ手を振る!(NHKより)

 

しかも、九州に台風が最接近しているために台風情報が常にテレビ画面に表示され、また、わたしが住む北九州市の避難情報なども示されるため、閉会式を観ることに集中できませんでした。それにしても、開会式で天皇陛下エスコートした直後、自分だけ手を振ったIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長が、今回もエスコートした秋篠宮殿下を差し置いて自分だけ手を振ったのには度肝を抜かれました。この強心臓には、ケイ・コムロもびっくり!

f:id:shins2m:20210808200836j:plain宝塚歌劇団による国歌斉唱(NHKより)

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国歌斉唱時のようす(NHKより)

国歌「君が代」の斉唱は、宝塚歌劇団が務めました。
じつは、ここ数日、「東京五輪の閉会式で、宝塚が『ベルサイユのばら』の一部を演じる」との情報がネットに駆け巡っていました。熱心なヅカ・ファンが摑んだ情報で、次回の五輪開催都市であるパリにちなんで「ベルばら」を演じるというのですが、わたしは「それだけは絶対にやめた方がいい」と思いました。というのも、アジア人である日本人が、多くのアジア諸国を植民地化してきたフランス人に化けて歌劇をやるのは、政治的にも芸術的にも良くないと思ったからです。日本人女性が男装したり、金髪をつけて断頭台の露と消えたマリー・アントワネットを演じるなど、どう考えてもリスクが高すぎます。わたしは宝塚歌劇団のことはリスペクトしているのですが、「ベルばら」を世界中の人々に見せるのだけは避けた方がいいと思ったのです。それゆえ、タカラジェンヌたちのミッションが国歌斉唱だと知ったときは安堵しました。

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各国旗の入場(NHKより)

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日本選手団の入場(NHKより)

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台風情報が気になる!(NHKより)

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スタジアムは完全な「密」状態(NHKより)

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光の粒の演出(NHKより)

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光の五輪が出現(NHKより)

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東京スカパラダイスオーケストラの演奏(NHKより)

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女子マラソンの表彰式(NHKより)

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男子マラソンの表彰式(NHKより)

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意味不明のパフォーマンス(NHKより)

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太鼓のリズムで「東京音頭」(NHKより)

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スタジアムが盆踊り会場に!(NHKより)

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東京からパリへの引き継ぎ式(NHKより)

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次回開催都市のパリを紹介(NHKより)

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挨拶する組織委員会の橋本会長(NHKより)

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挨拶するIOCのバッハ会長(NHKより)

あとは閉会式について、あまり細かいことは書きたくありません。とにかくショボかったです。莫大な予算をどこで使ったのか、よくわかりませんでした。とにかく開会式以上に素人くさい連中のオンパレードで、歌もダンスも太鼓もピンときませんでした。あれぐらいの太鼓なら、小倉にはもっと達者な無法松がたくさんいますよ。あれなら、マツケンサンバで盛り上げた方がずっと良かったと思います。「多様性と調和」を示す東京の街の「カオス」を表現したそうですが、さまざまなパフォーマーが登場して、ダンスやけん玉、ダブルダッチなどのパフォーマンスを披露したのも雑然ろしてチープな印象でした。これは大手広告代理店が、東京スカパラダイスオーケストラ大竹しのぶさんにだけギャラを払って、あとの人々には大手人材派遣会社経由でボランティアを集めたのではないかと思えるほどアマチュアリズム全開の演出でしたね。まあ、組織委員会の橋本会長とIOCのバッハ会長の挨拶が開会式に比べて短かったのには安心しました。それでも、2人の挨拶が始まると退場する選手が続出したそうですが。

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大竹しのぶさんが登場! (NHKより)

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子どもたちと「星めぐりの歌」を歌う(NHKより)

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最後は、月に祈りを・・・(NHKより)

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聖火が納火されました(NHKより)

 

最後に女優の大竹しのぶさんが登場したのは驚きました。ブログ「死者への想いについて」で紹介したように、大竹さんは6日、自身のインスタグラムを更新。広島への原爆投下から76年を迎えた心境を綴られています。大竹さんは、歌手のさだまさしさんのインスタグラムを引用し、「私も朝テレビをつけても何も起こらなかった。ほんとにさださんの言う通り世界中の人が来ている今だから、一緒に黙祷出来たら良かったのになあ。世界中の人が被爆国である日本にいるのだから」と記しています。閉会式での大竹さんは、子どもたちを連れて宮沢賢治の「星巡りの歌」を合唱したり、ドビュッシー作曲・富田勲編曲の「月の光」で天に向かって祈りを捧げたりしました。個人的に賢治は好きなのですが、あの演出では世界の人々にはメッセージは届かないと思います。あと、開会式のときも夜間の児童出演について疑問の声が多く上がっていましたが、今回も同じことの繰り返しとはどういうことでしょうか? 最後にオリンピックの聖火が納火されたとき、心に疑問と虚しさだけが残ったのはわたしだけではありますまい。

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ヤフーニュースより
 

正直言って、オリンピックの時代は今回の東京大会で完全に終わったと思います。五輪の健全なイメージに完全に影が差しました。コロナ禍中で一都市に多くの人々が集まる祭典は、当然ながら大きな感染リスク拡大を伴います。東京五輪では組織委員会の不手際も相次ぎ、最高位スポンサーのトヨタ自動車は五輪と距離をとる動きも見せました。来年の北京冬季五輪は人権弾圧問題を抱える中国での開催で、スポンサー企業に降板を迫る声もあります。年間数百億円を組織委員会に投下してきたトヨタパナソニックの社長は開閉会式に顔を出さず、開催期間中は日本のメダルラッシュにも関わらず、広告を出さないという異例の事態となりました。大手広告代理店を中心とした五輪ビジネスモデルは完全に崩壊し、今回のナショナルスポンサー離れはIOC(国際オリンピック委員会)に大きな打撃を与えるでしょう。

f:id:shins2m:20210808183849j:plainヤフーニュースより 

 

最大のスポンサーである米放送局NBCも今回の東京大会はアメリカでの視聴率が不振をきわめて困惑しています。日本が連日のメダルラッシュに沸く一方で、SNS上では海外から〈ワースト・オリンピック・エバー(今までで最悪の五輪)〉〈「今まで」ではなくとも、ここ50年で最悪〉などの辛辣なコメントが噴出しています。約11億ドル(約1200億円)にも上る放映権料をIOCに支払ったNBCの不振が象徴的です。先月23日の開会式の視聴者は過去33年で最少でした。米ブルームバーグによると、NBCは開会式以降、視聴者の低迷を理由に広告スポンサーへ補償策を提案しているそうです。同社のジェフ・シェルCEOは6月、「当社の歴史の中で最も収益性の高い五輪になる可能性がある」と強調していましたが、完全にアテが外れました。

f:id:shins2m:20210808183911j:plainヤフーニュースより

 

東京大会は日本のメダルラッシュに湧きましたが、「開閉会式に165億円」「日本の魅力発信371億円」をはじめ、関連経費に3兆円も投じられています。加えて、海外の選手団が事前キャンプを地方都市で行う場合の感染対策費などは経費に盛り込まれておらず、実際にいくらかかったのか、開催費用の詳細は大会後の決算が出るまでわかりません。外国人観光客は来ず、無観客で国内での観光客も来ず、経費ばかりが増え、落とされるはずのカネは見込めず。経営に苦しむ観光や飲食、宿泊などのサービス業にもカネが落ちずに税収も見込めません。

f:id:shins2m:20210808183937j:plainヤフーニュースより

 

そもそも招致時の契約では「コンパクト五輪」を標榜し、コストの総額は7340億円の見込みでしたが、大会の一年延期、コロナ対策の継続と経費は山積みとなり、4倍の3兆円となりました。無観客によりチケット売上900億円の目算は消えました。組織委員会は公益財団法人で、基本財政は3億円しかありません。これから大赤字のツケを、誰が負担するのかを巡るさや当てが始まっています。レガシー効果とやらで当初は30兆円の経済効果を見込んでいた東京五輪の赤字は結果的に3兆円以上とも言われています。日本が獲得した金メダルの数27で割ると1個あたり1111億円以上となります。コロナ禍の中で不公平な条件下の五輪の金メダルにそれだけの価値がありますか? そして、東京五輪閉幕で金メダルの熱狂が消えた後、パンデミック増税に日本はどう向き合うのでしょうか? 

f:id:shins2m:20210808192408j:plainヤフーニュースより 

 

6日、五輪閉幕前にIOC会長が大会について語る恒例の会見で、バッハ会長は東京大会を大成功と絶賛した上で「オリンピックにおける投資はオリンピックムーブメント(IOC)とホスト国(日本)または開催都市(東京都)で公平に分けられている。新しい会場の建設もこの投資に含まれていて、日本国民や東京都民は何世代にもわたって恩恵を受けられるだろう」と語りました。さらにバッハ会長は、「大会が中止されていたら・・・」と前置きしてから、これまで公表されてこなかった「保険」について触れ、「もし大会が中止されていたら、誰も日本や東京には来なくなり、東京にとって、日本にとって、スポンサーにとっても露出の機会は無かっただろう」「一方で(延期決定)当時、IOCにとって(大会の)中止はむしろ簡単な解決策だった。保険を使えばIOCの損失はなかったから。しかし、我々は保険を使わず、アスリートのために大会を実現すべく、銀行からの支援を受けてさらに8億ドル(約880億円)の追加投資をした」と述べています。

 

半年ぐらい前まで「なぜ東京五輪を中止できないか」という議論がよくありました。そのとき、IOCが受けた莫大な損害を日本が負担しなくてはならなくなるという意見が多かったことを記憶しています。しかし、実際はその可能性はなかったわけで、この事実は当然ながら日本政府も東京都も組織委員会も知っていたはずです。つまり、主催者は、誰もこの事実を意図的に公表しなかったわけで、これは悪質な隠蔽であると思います。この事実がわかっていたら、もっと多くの人が開催に反対したでしょう。これで開催を強行したのは、「ぼったくり男爵」率いるIOCなのではなく、日本側の政治的な利害からの判断だったということが判明しました。国民は完全に騙されたわけですが、それでも「感動をありがとう!」と言う人もいるのでしょうか? 最後に、わたしは今でも、今回の東京五輪は開催すべきではなかったと思います。世界中が自粛している不公平な条件下で、無理やり金・銀・銅を決める目くらましイベントをやる必要がどこにあったのでしょうか?

f:id:shins2m:20210809101848j:plain2021年8月9日の各紙朝刊 



 

2021年8月8日 一条真也