はらぺこIOC

一条真也です。
金沢に来ています。ブログ「大額紫雲閣起工式」で紹介したように、10日は朝食も昼食もかなりの御馳走でお腹がいっぱいになりました。きっと夜はお腹が空かないだろうから、「菜っ葉でも食べようか」と思いましたが、流れでゴージャスなステーキ弁当を食べることになってしまいました。美味しかったですけど、お腹がパンパンです。明日からは、本当に菜っ葉をかじって暮らします。

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毎日新聞」6月5日朝刊より 

 

菜っ葉といえば、青虫の大好物ですね。青虫といえば、もちろん「はらぺこ あおむし」です。ブログ「お疲れさま、カール!」で紹介したように、5月23日にアメリカの絵本作家エリック・カールが91歳で亡くなりました。カールの代表作が『はらぺこ あおむし』です。1969年に刊行された大ロングセラー絵本で、生まれたばかりの小さなあおむしが葉っぱやリンゴやカップケーキなど、子どもたちの大好きなものをモリモリ食べて大きくなり、最後は美しい蝶へと姿を変えるというお話です。それを使った風刺画がいま大きな話題というか、大問題になっていますね。「毎日新聞」6月5日付け朝刊の「経世済民術」に掲載された風刺漫画「はらぺこIOC 食べまくる物語」がそれです。これはインパクト大ですね!


問題となった風刺画は、東京五輪の強行開催を企むIOC幹部を食欲旺盛なあおむしに見立て、バッハ会長、コーツ氏、パウンド氏ら3匹の顔をしたあおむしが、「放映権」と書かれた「ゴリンの実」をむさぼる様子を描いています。リンゴ1つ1つには「放」「映」「権」と書かれ、傍では菅義偉首相そっくりの人物が「犠牲が必要!?」と言いながらリンゴ(ゴリン?)の木にせっせと水をやっています。バッハ会長の顔の横には「東京で会いましょう」の文字が書かれています。さらには、5月に作者が亡くなったことを踏まえて、「エリック・カールさんを偲んで・・・」と、追悼を示す添え書きまであります。

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東京新聞」Webより

 

作者はイラストレーターのよこたしぎさんで、1998年から同欄に風刺漫画を描いているそうです。この風刺画に『はらぺこ あおむし』日本版の版元である偕成社が激怒しました。7日付けで、偕成社のウェブサイトに今村社長名で意見書が掲載されました。「表現の自由、風刺画の重要さを信じる」と強調した上で、今回の表現のあり方を疑問視しています。「はらぺこ あおむし」の楽しさは「「あおむしのどこまでも健康的な食欲と、それに共感する子どもたち自身の『食べたい、成長したい』という欲求」であり、「利権への欲望を風刺するにはまったく不適当」と主張。「風刺は引用する作品全体の意味を理解したうえでこそ力をもつものだと思います」と訴えています。また、今村社長は「絵本は最後にきれいなチョウチョになるのがポイント。IOCの貪欲さ、強欲さの表現で、たくさん食べるところだけつまみ食いするのはないんじゃないかと思った」と語ったそうです。

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「JIJI.COM」より

 

わたし自身の意見ですが、『はらぺこ あおむし』という作品を大切に思う偕成社としてはもっともな怒りであり、毎日新聞社に意見するのは当然であると思います。わたしも『はらぺこ あおむし』の素晴らしさは大いに理解しており、2人の娘たちが小さいときはよく読み聞かせをしていました。でも、よこたしぎさんの風刺画は正直言って秀逸です。「あおむし」と「あいおーしー(IOC)」、「リンゴ」と「ゴリン(五輪)」という言葉遊びもナイスですし、リンゴという果実を放映権に例えたところなど見事です。青虫の顔が人間の顔というシュールな絵はカフカの『変身』を連想させ、まことにエクセレントであります。まあ難を言えば、「エリック・カールさんを偲んで・・・」という言葉が余計でした。追悼と風刺は相性が悪いですから。「毎日新聞」も偕成社のクレームに対して、「あおむしが最後に美しい蝶になるように、東京五輪も大成功することを願って、善意で掲載しました。東京五輪のスポンサー企業として・・・」とでも答えれば良かったと思います。まあ、そうは行かないか!(笑)


2021年6月10日 一条真也