運命を愛せよ。
与えられたものを呪うな。
生は開展の努力である。
生の全てを愛せよ、
そして全てを最も良く生かせよ。
(和辻哲郎)
一条真也です。
言葉は、人生をも変えうる力を持っています。今回の名言は、大正・昭和時代の哲学者、倫理学者、文化史家である和辻哲郎(1889年~1960年)の言葉です。兵庫県(現・姫路市)生まれで、『古寺巡礼』『風土』などの名著の著者として知られます。
日本を代表する哲学者の1人であり、倫理学者でもあった和辻哲郎。彼の仕事は日本的な思想と西洋哲学の融合とでもいうべき境地を目指した稀有な哲学者と評価されています。入学した東京大学では文芸雑誌の第二次「新思潮」に参加、谷崎潤一郎らと交際し、文学活動を続けますが、やがて『ニイチェ研究』を著すなど、西欧の実存哲学の研究者として出発します。その後、彼は東洋思想に関心を深め、日本人としての立場から人間と文化への考察を進めて独創的な倫理学を完成しました。
とくに、わたしは彼の『孔子』(岩波文庫)に大きな影響をうけました。和辻は、同書で「孔子以前の時代には宗教も道徳も政治もすべて敬天を中心として行なわれた。天は宇宙の主宰神として人間に禍福賞罰を下す。だから天を敬い天命に従うことがすべての行ないの中心なのである。しかるに孔子は人を中心とする立場を興した。孔子における道は人の道である。道徳である。天を敬うのもまた道徳の立場においてである。天を敬いさえすれば福を得る、というのではなく、道に協いさえすれば天に嘉される、というのである。ここに思想上の革新がある。孔子もまた革新家である」と述べています。
わたし自身、決して運命論者ではありませんが、和辻の言葉には共感します。たとえ不運なことであっても、それを呪うなら、それを運命として受け入れるほうが、はるかに人生を豊かなものにしてくれます。「試練や不幸な出来事は、自分を成長してくれる糧にしろ」と、勇気づけられます。なお、この言葉は『死を乗り越える名言ガイド』(現代書林)に掲載されています。
2021年3月6日 一条真也拝