理想土

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一条真也です。
わたしは、これまで多くの言葉を世に送り出してきました。この際もう一度おさらいして、その意味を定義したいと思います。今回は「理想土」という言葉を取り上げることにします。1991年2月15日に刊行された『リゾートの思想』(河出書房新社)で初めて提示した言葉です。


リゾートの思想』(1991年2月刊)

 

人類は古来から理想郷と呼ばれるさまざまな憧れの場所のイメージを抱いてきました。
理想郷は3つに区分けすることができます。「ユートピア」と「パラダイス」と「ハートピア」です。まずユートピアは、プラトンやトマス・モアやカンパネルラらが考えた理想都市で、時代が下ってからは社会主義者やSF作家たちが夢想しました。

 

次にパラダイスは、楽園や黄金時代の記憶であり、人類が淡い夢のように大切に心に抱いているものです。さらに、「島の楽園」と「山の楽園」の2つに分かれます。「島の楽園」は、東洋では蓬莱や竜宮、補陀落、西洋では『オデュッセウス』のカリュプソー、西の果てのヘスペリデスの園、シュメールの聖地ディルムンなどです。「山の楽園」は、東洋では須弥山、チベットのシャンバラ、中国の桃源郷、日本の高天原、西洋ではエデンの園ギリシャ神話のオリュンポスなどが代表だと言えます。

 

そして、ハートピア。「心の理想郷」を意味するわたしの造語ですが、人間がこの世に生まれる以前に住んでいた世界であり、死後、再び帰る世界です。そこは平和で美しい魂のふるさとなのです。ユートピアが政治的・経済的理想郷としての「理想都」であるのに対して、ハートピアは精神的・宗教的理想郷としての「理想土」です。つまり、彼岸であり、霊界であり、極楽浄土であり、天国なのです。

 


理想郷の図式

 

リゾートをはじめとした地上の空間づくりに関わるとき、最大のヒントになるのは天国などのハートピアのイメージでしょう。なぜなら、ユートピアやパラダイスの豊富なバリエーションとは異なり、世界中の各民族・各宗教における天国観は驚くほど共通性が高く、それゆえイメージが普遍的だからです。心理学者のユングも言うように、神話は民族の夢であり、天国こそは人々が「かく在りたい」という願いの結晶。その夢や願いを地上に投影したものこそ「理想土」なのです。日本語の「まほろば」(すぐれてよい所の意)にも通じるでしょう。

リゾートの博物誌』(1991年3月刊)

 

リゾートの思想』の刊行後、拙著『リゾートの博物誌』(日本コンサルタントグループ)がわずか1カ月後に刊行されました。同書で、わたしは、「リゾート」の本質について次のように述べています。
「ハレの時間というタテ糸と、ハレの空間というヨコ糸を組み合わせて編んだものがハレの生活であり、それがリゾートなのである。リゾートにおいて、我々はハートピア・ゼアでの生活そのものをシミュレーションするのだ。すなわち、美しい眺望があり、光があり、心地よい風があり、妙なる音楽があり、うまい食物と酒があり、暖かいベッドがあり、ありとあらゆる楽しみがある生活、それを物質的な快楽と批判してはいけない。天上のハートピアの幸福をこの三次元世界に移した時、物質的幸福を伴うのは必然である。いたずらに精神だけを追い求めるのも、ある意味では不健康だ。考えてみれば、あの極楽浄土でさえ物質的理想郷ではないか。物質的幸福もまたよいものである。というより、ハートピア・ゼアの界層世界からもわかるように、人間は物質的幸福を経て精神的幸福へと至るのである。リゾートでの楽しい生活から得る個人の幸福感を本物のハートピア・ヒアへと育てていきたいものである。私的幸福と公的幸福の調和にこそ、真の心の理想郷は生まれる」


「月刊企画情報」1991年9月号

「月刊企画情報」1991年9月号

「月刊企画情報」1991年9月号

「月刊企画情報」1991年9月号

「月刊企画情報」1991年9月号

 

リゾートの博物誌』は発売直後かた大きな反響を呼び、「月刊企画情報」(ソフト・ネットワーク研究所)という雑誌の1991年9月号で巻頭特集が組まれました。じつに18ページにわたる特集記事に、わたしのリゾートの原型を理想郷に求めるという考え方、またその図式などが紹介されました。

 

この世にも奇妙な空間コンセプトブックとしての『リゾートの博物誌』の最後、わたしはこう書きました。
「人類の歴史を眺めてみると、様々な時代、様々な地域に、様々な人々によって、様々な文明や文化が生まれてきた。それは人類が理想郷を追い求めた結果である。おそらく、神は地球という球の上に偉大な芸術を創ってきたのだろう。EARTH(地球)という言葉は3つに分解される。『E』と『ART』と『H』である。私はEとはEDEN(エデンの園)のことだと思う。HとはHEAVEN(天国)のことだと思う。地上の理想郷から天上の理想郷へ、パラダイスからハートピアへと至る方法がアートなのである。パラダイスのような環境に人間を置いて、心をハートピアに遊ばせる。そんなリゾートをつくることこそ、我々の最大のアートではないだろうか。かつて住んでいた美しい世界の記憶がよみがえってくるような、これから訪れる魂の理増強のイメージが湧いてくるような、そして、この世に生きているという幸福感に浸されるような、そんなリゾートを私はつくりたい」


浮かび上がる「EARTH」の秘密!

 

この「E」と「ART」と「H」についての自説は、大きな反響を呼びました。本書の裏表紙にはデザインされた「EARTH」とハートピア計画のロゴが印刷されています。特に宗教界からの反響が大きく、わたしは複数の宗教団体から呼ばれ、有名な教祖にもお会いしました。今では、なつかしい思い出です。

 

2020年10月27日 一条真也