VRで故人と再会する

一条真也です。
新型コロナウイルスの猛威は衰えを見せません。
4月1日、予定されていたわが社の入社式も中止し、規模を縮小して辞令交付式を行います。エイプリルフールですが、くれぐれも「感染しました」とか「陽性でした」などのウソをついたり、新型コロナに関するデマ情報を発信するのは絶対にやめましょう。人間としての品性が疑われます。
さて、産経新聞社の WEB「ソナエ」に連載している「一条真也の供養論」の第21回目がアップされました。タイトルは、「VRで故人と再会する」です。

f:id:shins2m:20200330141043j:plain「VRで故人と再会する」 

 

東洋経済ONLINEで見つけた「ニューズウィーク日本版」ウエブ編集部の「死んだ娘とVRで再会した母親が賛否呼んだ理由」という記事には考えさせられました。VR(バーチャルリアリティー)では、ヘッドセットとゴーグルをつけ、誰でも簡単に仮想現実の世界へ入って行けます。いまやテクノロジーの驚異的な発達で、その技術はエンターテインメントにとどまらず、さまざまな場面で活かされています。

 

映画配給コーディネーターのウォリックあずみ氏が書いた同記事では、「VRで3年前に亡くなった娘と『再会』」として、2月6日に韓国で放送されました「MBCスペシャル特集―VRヒューマンドキュメンタリー"あなたに会えた"」という番組を紹介しています。番組の内容は、2016年に3年前に血球貪食性リンパ組織球症(HLH)を発症し、7歳で亡くなってしまったカン・ナヨンちゃんとその家族、主に母親との再会の話です。ナヨンちゃんは発症後、ただの風邪だと思い病院を受診したところ、難病が発覚して入院。その後たった1カ月で帰らぬ人となりました。

 

3年以上たった今でも、家族はナヨンちゃんの事を思い続け悲しみに暮れていました。そこで、MBC放送局はVR業界韓国内最大手である「VINEスタジオ」社と手を組み、ナヨンちゃんと母親を仮想現実の中で再会させてあげたわけです。その動画をわたしも観ましたが、もう泣けて仕方がありませんでした。亡くなったわが子に会いたいという想いが痛いほど伝わってきました。わたしの2人の娘はともに元気ですが、彼女たちがじつは幼い頃に死んでいて、VRで再会したシチュエーションを想像すると、もうボロボロと涙が出てきました。

 

しかしながら、恐山のイタコを通した死者との対話である「口寄せ」を連想したのも事実です。イタコの姿や声そのものが変化しないことで、あくまで「死者そのものは生前と同じ状態でその場にいない」ことが理解できるように、死者と生者という、分かちがたい境界を意識させるものが、遺族のためにも存在しなければなりません。

 

そうした倫理的な区分さえしっかりとさせておき、適切な利用に導きさえすれば、VR技術はその進歩と連動して、有力なグリーフケアの担い手となることでしょう。仮想現実の中で今は亡き愛する人に会う。それはもちろん現実ではありませんが、悲しみの淵にある心を慰めることはできるはずです。何よりも、自死の危険を回避するだけでもグリーフケアにおけるVRの活用は検討すべきではないかと思います。



2020年4月1日 一条真也