「ペーパーボーイ 真夏の引力」

一条真也です。
先日、東京で映画「ペーパーボーイ 真夏の引力」を観ました。
ブログ「イノセント・ガーデン」に書いたように、わたしは女優二コール・キッドマンが好きなのですが、彼女がとてつもない女性を怪演しています。


物語の舞台は、1969年のフロリダです。水泳選手でもある大学生のジャック(ザック・エフロン)は、ある問題によって大学を追われます。彼は父親が経営する地方の新聞社で新聞配達を手伝うことになります。タイトルの「ペーパーボーイ」とは新聞配達の少年のことです。退屈な日々を送っていたジャックでしたが、ある日、新聞記者の兄ウォード(マシュー・マコノヒー)が、同僚の黒人記者ヤードリー(デビッド・オイェロウォ)を連れて実家に帰ってきます。
彼らは、以前起こった殺人事件の犯人の死刑囚ヒラリー(ジョン・キューザック)が実は無罪かもしれないという冤罪疑惑を取材するのでした。暇を持て余していたジャックは、兄の手伝いをすることになりますが、取材の過程でヒラリーの婚約者シャーロット(ニコール・キッドマン)に出会い、彼女に一目惚れします。
その後、ウォ―ドとジャックの兄弟は、驚愕の事実に直面します。


ペーパーボーイ 真夏の引力」のポスター



全米でベストセラーになったピート・デクスターの小説を、「プレシャス」で数々の映画賞を席巻したリー・ダニエルズ監督が映画化しました。
非常にスリリングなクライム・サスペンスですが、とにかく主人公ジャックを虜にしてしまう謎めいた美女シャーロットを演じるニコール・キッドマンの存在感がハンパではありません。現在46歳とはとても思えないほど妖艶です。わたしは本当は「アイズ・ワイド・シャット」や「アザーズ」で演じたような上品な二コールが好きなのですが、この「ペーパーボーイ 真夏の引力」のシャーロットのような下品な女を演じさせても天下一品! 「うまいなあ」と唸ってしまいます。
二コールこそは正真正銘の「女優」であると心から思いますね。


映画com.」で、評論家の芝山幹郎も次のように述べています。
「現役最高のビッチ女優はニコール・キッドマンである。
え、リンジー・ローハンブリトニー・スピアーズでは? といった異論も聞こえてきそうだが、あの娘たちは自意識と品行に問題があるだけで、女優の域には到達していない。が、キッドマンは文句なしに女優である。頭と身体がよく動き、だらしない肉食獣を演じると最高に光る。『誘う女』や『イノセント・ガーデン』を見た方なら、きっとつぶやく。ビッチのキッドマンに外れなし、と。そんな彼女のビッチ歴に強力な作品がもう1本加わった。『ペーパーボーイ 真夏の引力』。
(中略)なかでも白眉は、シャーロットの腐り方だ。図太くて、柄が悪くて、さほど腹黒いわけではないのに、平然と男たちを振りまわすビッチ。その存在が原動力となって、映画は終始、血と肉の臭いにまみれつづける。自分の指で股間のパンティストッキングを裂く場面も、クラゲに刺されたジャックにまたがって放尿する場面も、キッドマンは余裕でこなしている。いや、あの無自覚やあのだらしなさを形にするには、相当の技が要るはずだ。
彼女は、ずいぶん前からその技を身につけていた」


この「ペーパーボーイ 真夏の引力」という作品、とにかく不快指数が高いです。ダニエルズ監督の出世作である「プレシャス」はとにかくフラストレーションが溜まる映画でしたが、こちらも負けていません。殺人、黒人差別、ゲイ、冤罪・・・・・ディープな問題が次から次に、これでもかというくらいに出てきます。
最後はすべてを吹っ飛ばすほどのエド・ゲインばりのシリアル・キラーが登場。この殺人鬼がとにかく不気味で、ねっちょりしてて、得体が知れなくて、もう観客にトラウマを与えるためだけに出てきたキャラクターのようにも思えます。


肝心の保安官殺しの真相も明らかにならず、最後までストレスとフラストレーションの波状攻撃で、まったくカタルシスというものがありませんでした。
また、じつはウォ―ドとジャックの兄弟は、それぞれ女性を素直に愛することができません。その理由とは、幼い頃に母親から捨てられた経験のせいなのです。
母親が家を出るという行為がここまで残された子の人生に影響を与えるのかと思うと、あまりにも悲しく、このくだりは胸が痛みました。
まさに、「ペーパーボーイ 真夏の引力」はトラウマを描いた映画なのです。


今年観た映画では、ブログ「ザ・マスター」で紹介した作品がトラウマ映画でしたが、前作の「プレシャス」といい、本作といい、リー・ダニエルズという人はとんでもないトラウマ映画監督だと思いました。ブログ『トラウマ映画館』で紹介した本を書いた町山智浩氏にこの映画を観た感想を聞きたいですね。



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2013年9月7日 一条真也