柔道家は油断禁物!

一条真也です。
ついにパリ五輪が開幕しましたが、わたしが五輪の競技の中で最も関心があるのは柔道です。わたしは幼少の頃から柔道をやっていましたし、一条真也というペンネームは、梶原一騎原作の劇画・TVドラマ柔道一直線の主人公である一条直也から取ったものであります!


 

今回のパリ五輪の開催国であるフランスは、本家・日本に勝るとも劣らない柔道大国として知られています。大会初日には早速、柔道競技が行われました。女子48キロ級の決勝では、世界選手権3連覇中の角田夏実選手が、日本柔道女子の最年長31歳11カ月で初出場した五輪を制覇しました。決勝でバーサンフー・バブードルジ(24=モンゴル)と対戦した角田選手は、巴投げで優勢を奪って危なげなく勝利しました。やったぜ!!

ヤフーニュースより

 

この階級では2004年アテネ大会の谷亮子以来20年ぶりとなる、念願の金メダルです。日本の今大会「金」第1号は、夏季五輪通算500個目にもなったということで、角田選手はなかなか“持って”ますね! メダルセレモニーで「君が代」が流れ、日の丸が掲揚されると、メダルを首にかけた角田は唇を震わせ、君が代を口ずさむと、涙があふれました。今大会、日本選手団の“歓喜の涙1号”は、素晴らしいシーンでした。できれば、マスコミの誘いに乗って金メダルを齧るのだけは止めてほしかったですね。あれは下品な行為であり、メダルの価値を下げますから。


ヤフーニュースより

 

しかし、非常に不愉快な出来事もありました。柔道男子60キロ級の準々決勝、で不可解判定があったのです。オリンピック初出場となった永山竜樹選手は、27日の2回戦から試合に臨みました。ブラジル代表のミシェル・アウグスト選手との試合を制すると、準々決勝で23年度の世界王者でスペイン代表のフランシスコ・ガルリゴス選手と対戦しました。永山選手は序盤からガルリゴス選手の寝技に苦しむ展開となった。粘りを見せ反撃の機会をうかがっていた永山選手ですが、再び寝技に持ち込まれると、審判は「待て」をかけました。しかし、ガルリゴス選手は寝技を続行し、永山選手は絞め落とされてしまいました。審判は「片手絞め」での一本を宣言したのです。



永山選手はこの判定に不服の意を示し、試合後の握手を拒否し畳を降りず抗議。鈴木桂治監督をはじめとする日本選手団側も抗議したものの、判定は覆りませんでした。全日本柔道連盟の金野潤強化委員長は今回の判定について、国際柔道連盟に文書での抗議を行ったことが報じられています。金野氏によると、永山選手は「待て」の声が掛かった時点で力を抜いたところ、ガルリゴス選手が締め技を続行したことで失神してしまったといいます。「待て」の後、6秒間締め技を続けたことについて「柔道の精神としてよくないし、ルールとして許容できない」などと不満をあらわにしていました。とても後味が悪いですね。

東スポWEBより

 

この不可解判定については、SNSでも審判団の判断に怒りと疑問の声が相次いでいます。しかし、バルセロナ五輪95キロ超級銀メダルの〝元暴走王〟小川直也氏は「みんな怒っているのは、『待て』がかかっているのに、絞め続けて落としたから。それは理解できるし、俺も確かに腑に落ちない。永山選手の抗議する気持ちもわかる。ただ、今のジュリー(審判委員)はチームで動いているし、あれが今回の五輪までのルールの中で出した答えなんだろうなとは思う」と見解を述べています。自身がオリンピックで金メダルを確実視されていたにもかかわらず、結果は銀メダルだった小川氏の発言だけに重みがありますね。

 

その上で、小川氏は「厳しい言い方、酷な言い方になっちゃうけど」と前置きした上で「『待て』がかかって、油断しちゃった面はある。俺らの(現役の)頃は、『待て』がかかっても何が起こるかわからないから気を緩めるな、とずっと教えられてきた。審判だって信用するなって。『五輪には魔物が潜んでいる』というしね。今もそう指導されているんじゃないのかな」と指摘。わたしは、この小川発言を知って、「さすがは、小川直也!」と感心しました。そして、1999年1月4日に東京ドームでの橋本真也vs小川直也セメントマッチを思い出しました。小川氏にセメントを仕掛けられた橋本選手も柔道出身でした。

 

プロレスの世界では台本通りの展開に試合を行わないことを「ブック破り」といいますが、橋本vs小川戦はまさにそうでした。日本プロレス史上最大のブック破りは、昭和29年12月22日に蔵前国技館で行われた力道山vs木村政彦戦でしょう。「昭和巌流島の闘い」と呼ばれたこの世紀の一戦は、大相撲元関脇の力道山が、不世出の柔道王であった木村を頸動脈への空手チョップでKOしました。試合後、木村は「試合は引き分けの約束だったのに、力道山が裏切った」と訴えました。世間は木村の「引き分けの約束」発言から、プロレスが真剣勝負でないことを知り、熱狂的だったプロレス人気は急速に冷めていきます。

 

しかしながら、ルー・テーズアントニオ猪木といった超一流のプロレスラーたちは常に相手がブック破りを仕掛けてくることを想定しながら試合をしていたといいます。そして、彼らは仕掛けられたら必ず相手を制裁していました。それが出来ずに相手の約束を鵜呑みにしてKOされてしまった木村は真のプロレスラーではなかったと言えるでしょう。そして、“柔道王”とまで呼ばれた木村政彦は柔道家としても失格でした。なぜなら、柔道は武道です。武道は英語で「Art  of killing」といいます。つまり「殺人術」ということ。武道家たる柔道家は、プロレスのリングの上でも絶対に油断してはならないのです。

 

今回の不可解判定について、小川直也氏は「絞め技は落ちてしまったらダメだよな。永山選手も落とされたのは事実だし、試合の展開でも何度も、あの体勢にもっていかれた。寝技のシーンはあれが初めてではないんだよね」と、主審の判定は試合の流れに左右された面もあると語っています。五輪は、競技人口の減少が止まらない柔道が世間に大きくアピールできる大舞台です。それだけに、小川氏は「(審判から)説明がほしいわな。ただ、(不可解判定は)柔道ではありがちな話。あっちゃいけないことなんだけど。角田選手が金メダル取って明るい話題があるのに、こうしたことで『柔道の審判』が注目されるのは非常に残念」と語ったのでした。まったく同感です!


がんばれ、柔道ニッポン!

 

2024年7月28日  一条真也