セレモニー・マスト・ゴー・オン

 

一条真也です。
わたしはこれまで多くの言葉を世に送り出してきましたが、この際もう一度おさらいして、その意味を定義したいと思います。今回は、「セレモニー・マスト・ゴー・オン」です。これは、ブログ「冠婚責任者会議」で紹介した2024年2月27日に行われた会社行事の社長訓示で初めて披露した言葉です。

 

この日の会議には、わが社の結婚式場のウエディングプランナーが一同に会していました。さまざまなお客様の結婚式のお世話をし、人生で最も幸せな瞬間をプロデュースする人々ですね。ウエディングプランナーのみなさんにおススメの映画として、ブログ「ウェディング・ハイ」で紹介した2022年の日本映画を紹介しました。お笑い芸人・バカリズムのオリジナル脚本を、大九明子監督が映画化。くせ者ぞろいの参列者たちによって混乱する結婚式を舞台に、篠原涼子演じる敏腕ウエディングプランナーが数々のトラブルを解決すべく奔走する抱腹絶倒の物語です。わたしも、大笑いしました。

 

「ウェディング・ハイ」にはお客様に寄りそう結婚式場のスタッフたちの奮闘が描かれていて参考になりましたが、その後も接客業にとって大いに参考になる映画を観ました。ブログ「レディ加賀」で紹介した作品です。石川県の加賀温泉を盛り上げるために旅館の女将たちが結成したプロジェクト『レディー・カガ』を題材に描く人間ドラマですが、女将たちのタップダンスのイベントがハイライトです。いよいよイベントが開催された日、ステッキ・ダンスの本番直前に出演者の1人がステッキを折ってしまいます。しかし、小芝風花演じる主人公の由香は女将修行で風呂掃除したときを思い出して、「そうだ、ステッキの代わりにデッキブラシを使えばいい!」と思いつくのです。

CEREMONY MUST GO ON!!

 

その他にも、さまざまなトラブルが「これでもか、これでもか」と波状攻撃で襲いかかってくるのですが、由香をはじめとしたレディ加賀のメンバーたちは次々に奇想天外な方法で乗り切っていきます。わたしは、ここに一番感銘を受けました。「SHOW MUST GO ON」という言葉があります。かのジャニー喜多川も好んだ言葉でしたが、意味は「始めたショーは必ず最後までやらなければならない」というショービジネスの掟です。「レディ加賀」のダンスイベントにはまさにこの精神が溢れていました。どんなトラブルが起こっても「なんとかする」という姿勢は、イベントのみならず、結婚式や葬儀でも必要とされます。ここから、わたしは「CEREMONY MUST GO ON!!」というキーワードを思いつきました。

古事記と冠婚葬祭(現代書林)

 

「CEREMONY MUST GO ON!!」には「儀式は最後まで行わなければならない」という意味の他に、「儀式は継続しなければならない」という意味もあります。いま、「SDGs」に注目が集まっていますが、わたしは、SDGsとは「人類の生存戦略」だと考えています。わたしは、わが社の社歌を作って下さった神道ソングライターで宗教哲学者の鎌田東二先生と対談し、その内容は古事記と冠婚葬祭(現代書林)に収められています。鎌田先生は古事記について、「いのちの賛歌としての『古事記』は日本人の生存戦略の書でもある。すなわち『まつり』と『うた』を発明したのがそれである」と述べています。そう、「まつり」と「うた」は、日本民族の持続性に深く関わっていたのです。

 

 

古事記』のみならず、各民族の神話はそれぞれの生存戦略の書であるという見方もできます。つねづね、鎌田先生は「人類は神話と儀礼を必要としている」と述べておられ、わたしも大いに共感していますが、それは結局、神話と儀礼の本質は人類を滅亡させず持続させるためのものだということ。そして、神話と儀礼の本質は「物語」です。鎌田先生は儀礼について「人間がリアルからいったん離れて、あえてフィクショナルな世界に身を投じること」と喝破されました。儀礼の核をなすものが儀式です。

儀式論』(弘文堂)

 

拙著儀式論(弘文堂)の帯コピーにもあるように、わたしは「人間が人間であるために儀式はある」と考えています。儀礼や儀式といえば、わが社をはじめとした冠婚葬祭互助会が提供するものです。考えてみると、冠婚葬祭とは社会を持続させるシステムそのものではないでしょうか。結婚式は、夫婦を生み、子どもを産むことによって人口を維持する結婚を根底から支える儀式です。一方葬儀は、儀式とグリーフケアによって死別の悲嘆によるうつ、自死などの負の連鎖を防ぐ儀式です。冠婚業も葬祭業も、単なるサービス業ではありません。それは社会を安定させ、人類を存続させる重要なケアの文化装置なのです。そして、冠婚葬祭こそは究極の(Ultimate)SDGsとしての「USDGs」ではないでしょうか。

ハートフル・サイクルを起こせ!!

 

そして冠婚葬祭を中心とする儀式は、「CSHW」のハートフル・サイクルを起こす力となります。Compassion(思いやり)→  Smile(笑顔)→  Happiness(幸せ)→  Well‐being(持続的幸福)のハートフル・サイクルです。このハートフル・サイクルが、今後わが社がウェルビーング経営によるコンパッション企業になるための具体的施策と考えています。コンパッションは、わが社が提供するケアやサービスに必要不可欠なものです。真の思いやりをもったケアやサービスは、必ずお客様を笑顔にしていきます。そして、笑顔となったお客様は当然、幸せな気持ちになります。同時にお客様を笑顔にすることができた社員自身も幸せを享受することができるのです。コンパッション・ケア、コンパッション・サービスはお客様にも提供者にも笑顔と幸せを広げていくことができます。人は「幸せ」を求め、そのためには「思いやり」が欠かせません。そして、儀式こそは「思いやり」の具現化なのです。

 

2024年7月25日 一条真也