今年のアカデミー賞に思う

一条真也です。
第96回アカデミー賞授賞式が3月11日(日本時間)、アメリカ・ロサンゼルスのドルビー・シアターで開催されました。各賞発表のようすがWOWOWで流れている間はずっと会議中だったのですが、仲良しの映画仲間が随時LINEで報せてくれました。最後はオッペンハイマーが作品賞に輝きました。以下、わたしの感想です。

ヤフーニュースより


オッペンハイマー」は、クリストファー・ノーラン監督が、原子爆弾の開発に成功したことで「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた伝記映画です。第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞助演男優賞、脚色賞、撮影賞、美術賞編集賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、作曲賞、音響賞と同年度最多となる合計13部門にノミネートされ、うち7部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、撮影賞、編集賞、作曲賞)を受賞。興行的にも、全世界興行収入9億5000万ドルを超える大ヒットを記録。実在の人物を描いた伝記映画作品として、歴代1位の記録を樹立しています。日本では今月29日からの公開ですので、かなりの観客動員が見込まれると思います。わたしも、必ず観ます。

ヤフーニュースより


また、ブログ「君たちはどう生きるか」で紹介した宮崎駿監督のアニメ映画が長編アニメ映画賞に輝いた。スタジオジブリの作品が、同賞に輝くのは、第75回アカデミー賞千と千尋の神隠し以来21年ぶり2度目となります。宮崎監督作品としては、「千と千尋の神隠しハウルの動く城」「風立ちぬに続く4度目のノミネートでした。「君たちはどう生きるか」は、宮崎監督が長編作品からの引退を撤回し、原作・脚本・監督を手掛けています。少年時代に感銘を受けたブログ『君たちはどう生きるか』で紹介した吉野源三郎の児童書からタイトルを採用し、自伝的要素を含むオリジナルストーリーとして完成させた冒険活劇ファンタジー映画です。公開日まで一切詳細情報を明かさない異例のプロモーションも話題を集めました。昨年12月、「The Boy and the Heron(少年とサギ)」のタイトルで、北米公開されると、週末興行ランキングで初登場1位に輝き、スタジオジブリ作品最大のヒットスタートを切りました。批評家からの評価も圧倒的で、ゴールデングローブ賞英国アカデミー賞をはじめ、数々のオスカー前哨戦でアニメ映画賞を受賞。その勢いはアカデミー賞まで衰えず、有終の美を飾りました。

ヤフーニュースより


さらに、ブログ「ゴジラ-1.0」で紹介した山崎貴監督のSF怪獣映画が視覚効果賞を受賞しました。ゴジラ生誕70周年となる2024年に先駆けて製作された、実写版第30作品目となるゴジラ映画です。太平洋戦争で焦土と化した日本で、人々が懸命に生きていこうとする中、突然現れた謎の巨大怪獣が復興途中の街を容赦なく破壊していき、すべてを失った人々を負(マイナス)に叩き落すさまを描いています。全米では昨年12月、邦画実写史上最大規模となる2308館にて封切られ、週末興収ランキングで3位に初登場ランクイン。日本製作のゴジラシリーズとして歴代最高記録となり、全米における累計興収が邦画実写作品として、34年ぶりに記録を塗り替え、歴代1位となりました。日本映画が視覚効果賞部門にノミネートされるのは初めてで、アジア映画としても初の快挙達成です。ブログ「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」ブログ「ザ・クリエイター 創造者」ブログ「ナポレオン」で紹介した各ジャンルの超大作映画、さらにはガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME3」という「ゴジラ-1.0」よりはるかに巨額の費用で作られた強力なライバルたちを圧倒しました。


日本のエンターテインメントが世界に誇れるジャンルは、やはりアニメと怪獣です。結果として、「君たちはどう生きるか」は最もヒットした日本のアニメ映画であり、「ゴジラ-1.0」は最もヒットした日本の怪獣映画です。その両作品がアカデミー賞でオスカーに輝き、「日本映画ここにあり!」と万歳したい気分ですが、どうにも気が晴れないのは、作品賞をはじめ「オッペンハイマー」が7冠に輝いたことです。3・11という日本人にとってのグリーフ・デーの当日に、日本人にとって最大のグリーフといってもよい原爆の開発者についての映画がアカデミー賞で旋風を起こしたというのが、どうにも複雑な気分であります。原爆というのは世界史上で2回しか使われていません。その土地は日本の広島と長崎です。ですから、被爆国である日本の人々は、当事者として、映画「オッペンハイマー」をどこの国の国民よりも早く観る権利、また評価する権利があると思いますした。当然のことではないでしょうか?


わたしは、「オッペンハイマー」が日米同時公開されるとばかり思っていました。それが、日本だけ非公開だった事実が釈然としませんでした。この映画で、原爆開発の倫理的責任はどう描かれているのか。試作弾頭「トリニティ」の臨界実験の描写は凝りに凝ったCGと音響で圧倒的なインパクトが強いそうですが、それが、原爆の恐怖を表現しているのか、それとも開発成功を称える高揚シーンになっているのか。さらには、広島・長崎の惨状はどう描かれているのか。本当は、昨年8月6日の「広島原爆の日」までには公開されているべきでしたね。ということで、まだ「オッペンハイマー」を観ていないわけですが、日本人のグリーフを無視した映画がアカデミー賞作品賞を受賞した事実によって、日本人はセカンド・グリーフを負ったように思えてなりません。アカデミー賞の審査員たちには、「ポリコレとか多様性とか言う前に、もっと大事なことがあるだろう!」と叫びたい気分です。わたしとしては、作品賞はブログ「哀れなるものたち」で紹介したイギリス映画にあげたかった。また、監督賞は同作のメガホンを取ったヨルゴス・ランティモス監督にあげたかった。同作で2回目の主演女優賞に輝いたエマ・ストーンが映画史上最大級の体当たり演技で「女優魂」を見せた大傑作です!


2024年3月11日 一条真也