『教養としての着物』

一条真也です。
125万部の発行部数を誇る「サンデー新聞」の最新号が出ました。同紙に連載中の「ハートフル・ブックス」の第180回分が掲載されています。今回取り上げる本は、『教養としての着物』上杉恵理子著(自由国民社)。

ハートフル・ブックス」第180回

 

今年の5月、還暦を迎えた記念に着物を作りました。染織家の築城則子先生が織って下さったものです。築城先生は小倉高校・早稲田大学を通じてのわたしの大先輩です。大学在学中に能の世界にふれ、その舞台衣装の美しさに強く惹きつけられたそうです。それが染織を始められるきっかけとなり、その後、郷里である小倉にかつて小倉織という伝統文化が存在していたことを知りました。

小倉織の築城則子先生と

 

現在では小倉織の第一人者として知られ、数多くの賞を受賞されている築城先生ですが、今回の羽織の裏地は「月と兎」でした。わたしが大の月狂いで、しかも卯年であることから作っていただきました。一生の宝物です! そんなわけで日本人の伝統的な装いである着物に強い興味が湧いてきて、いろんな本を読んだのですが、本書が一番わかりやすく、入門書として最適だと思いました。

裏地は、月と兎

 

本書の正式な書名は『世界のビジネスエリートを魅了する教養としての着物』です。著者は、和装イメージコンサルタント。着物を着こなすための「和創塾 ~きもので魅せる もうひとりの自分~」を主宰しています。「伝統工芸としての着物とどう付き合うのか」と問いかける著者は、「布は、人間が手で糸を作り、糸から布が作られます。その昔からの手仕事を、着物は私達に思い出させてくれます。目の前にある一枚の着物が、どうやって着物になったのか、どれだけの人の手がかかっているのか。そうした背景がわかると、私達人間の手に貴重なモノを生み出す無限の可能性があることを感じます」と述べます。

父から譲られた大島紬を着て

 

そして、たくさんの人の手で生まれた着物への愛着が生まれ、着物を大切に思う気持ちが素敵な着こなしに表れていくと指摘し、「こうした日本の伝統工芸品の着物は、素晴らしい手仕事と独特の美しさで、世界的にも注目されています」と述べています。着物を着る楽しさをかみしめながら学んでいくと、絹や麻の素材をよく活かしていたり、仕立て直しや染め替えができたり、藍で染めることで殺菌効果もあったり、着物には日本の自然風土で生きる知恵がぎっしりと詰まっていることが学べるといいます。

小笠原の家紋の前で小倉織を着る

 

著者は、柄1つ、家紋1つにも意味があり、描かれた柄から日本の四季の美しさを再発見したそうで、「これらの知見や技術を得るまでにどれほどの人達の試行錯誤があったのでしょうか。こんなに素晴らしい知恵や美意識、技術が詰まった着物を、先人達から贈られたと気づいた時、『なんて豊かな世界に生きているのだろう』と気づいたのです」と述べるのでした。小倉織の素晴らしさに感動して以来、着物に対する関心が高まったわたしでしたが、本書を読んで知識を深めることができました。おススメです!

 

 

2023年9月2日 一条真也