「村上春樹 映画の旅」展

一条真也です。
東京に来ています。
24日、赤坂見附の定宿にチェックインしてから、早稲田に移動。久しぶりに母校の早稲田大学を訪れました。

早稲田大学の大隈講堂の前で

 

キャンパスの銀杏がとても綺麗でした。ブログ「ホームカミングデー」で紹介した2011年10月16日以来ですから、じつに11年ぶりの母校訪問です。早稲田大学演劇博物館(enpaku)で開催される2022年秋季企画展を鑑賞するためです。この日は、早稲田カラーであるダークレッド(えんじ色)のコーデで決めました。

早稲田大学演劇博物館の前で


村上春樹 映画の旅」のポスター

enpakuの2022年秋季企画展は、「村上春樹 映画の旅」です。公式HPには、こう書かれています。
「小説家・村上春樹は、そのキャリアを通じて繰り返し映画に言及してきました。村上の小説では、登場人物たちが映画を見たり会話のなかで作品のタイトルを挙げたりすることを含め、映画が作中で重要な意味を持つことがしばしばあります。エッセイなどでも頻繁に話題に挙がるなど、村上にとって映画が身近なものであることは間違いありません。早稲田大学在学時の村上は、よく演劇博物館を訪れ、まだ見たことのない映画のシナリオを読んでいたといいます。文字だけのシナリオを読むことを通して、頭の中で映像を生み出し、一つの世界を構築すること。この学生時代の習慣は、作家本人が認めているように、後の小説家としての創作活動に大きな影響を与えたはずです」と書かれています。


入口のシェイクスピア像と

(enpaku公式HPより)

 

展示会では、神戸の「ビック映画劇場」をはじめ、若き日の村上春樹が通いつめていた映画館の写真なども展示されていました。『映画をめぐる冒険』の冒頭で、村上は、映画を観るという行為がかつては「祝祭的儀式」であったと表現しています。それは、あらゆる映画鑑賞にあてはまるわけではなく、まだ映画館でしか映画を観ることができない時代の体験と結びついた、暗闇の中でのみ遂行され得る特別な儀式であったというのです。ちなみに、わたしは、古代において儀式が行われた洞窟を人工的に現代に甦らせたものが映画館であり、映画館の暗闇の中での映画鑑賞は一種の臨死体験としてのイニシエーション(通過儀礼)であると考えています。そのことは、拙著『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)に詳しく書きました。

(enpaku公式HPより)

(enpaku公式HPより)

(enpaku公式HPより)

(enpaku公式HPより)


また公式HPには、「本展では、村上が通っていた映画館や学生時代に読んでいたシナリオ、エッセイや小説のなかに登場する数々の映画、そして小説を映画化した作品、等々に関する数多くの資料を展示します。スチル写真やポスター、台本などの映画関連資料とともに、村上がこれまで見てきた映画をまるで旅の軌跡を辿るかのように振り返る構成となっています。そのような<映画の旅>を通して、村上文学が喚起するイメージの豊かさを改めて発見していただければ幸いです」とも書かれています。


坪内逍遥先生の銅像


坪内先生と握手しました

 

 早稲田大学演劇博物館は、1928(昭和3)年10月、坪内逍遙博士が古稀の齢(70歳)に達したのと、その半生を傾倒した『シェークスピヤ全集』全40巻の翻訳が完成したのを記念して、各界有志の協賛により設立されました。以来、演劇博物館には日本国内はもとより、世界各地の演劇・映像の貴重な資料を揃えています。錦絵48000枚、舞台写真400000枚、図書270000冊、チラシ・プログラムなどの演劇上演資料80000点、衣装・人形・書簡・原稿などの博物資料159000点、その他貴重書、視聴覚資料など、およそ百万点にもおよぶ膨大なコレクションは、90年以上培われた“演劇の歴史”そのものといえるでしょう。1987年(昭和62年)には新宿区有形文化財にも指定されました。演劇人・映画人ばかりでなく、文学・歴史・服飾・建築をはじめ、様々な分野の方々の研究に貢献しています。


早稲田大学演劇博物館の前で

 

 早稲田大学演劇博物館坪内逍遙の発案で、エリザベス朝時代、16世紀イギリスの劇場「フォーチュン座」を模して今井兼次らにより設計されました。正面舞台にある張り出しは舞台になっており、入り口はその左右にあり、図書閲覧室は楽屋、舞台を囲むようにある両翼は桟敷席になり、建物前の広場は一般席となります。このように演劇博物館の建物自体が、ひとつの劇場資料となっています。舞台正面にはTotus Mundus Agit Histrionem“全世界は劇場なり”というラテン語が掲げられています。この日は、「村上春樹 映画の旅」展を大いに堪能しましたが、この展覧会の内容は『村上春樹 映画の旅』(フィルムアート社)にまとめられています。ちょうど、拙著『心ゆたかな映画』(現代書林)が同時期に刊行されたので、2冊が一緒に並べられている書店が多いようです。早稲田の偉大な先輩である村上春樹氏の本と一緒に拙著が並べられるなんて、まことに光栄です!


映画をめぐる先輩と後輩の本

 

2022年11月24日 一条真也