碁縁

 

一条真也です。
無縁社会」などと呼ばれ、血縁と地縁の希薄化が目立つ昨今です。人間は1人では生きていけません。「無縁社会」を超えて「有縁社会」を再生させるためには、血縁や地縁以外のさまざまな縁を見つけ、育てていく必要があります。そこで注目されるのが趣味に基づく「好縁」というものです。この中には、碁を打ち合うという「碁縁」があります。御縁としての碁縁です。

サンレー杯 北九州囲碁祭り団体戦」のポスター

 

サンレー杯 北九州囲碁祭り団体戦」は、わが社が長年企画を温めていたビッグイベントです。念願かなって、ついに一昨年初めて開催されました。1チーム5名の団体戦、4回戦、ハンディ戦、各自持時間40分で行われます。参加人員は42チーム、210名(20級以上の方で19路盤で碁が打てる方)によって勝敗が競われます。昨年が28チーム、140名でしたので、大変な躍進です。しかも、参加希望チームが多過ぎて4チーム20名の方々が涙を飲んだそうです。これまで北九州の囲碁イベントはゼンリンやTOTOといった企業が冠イベントを開催してきた歴史がありますが、紆余曲折を経て、わが サンレー囲碁大会の顔になることができ、感無量です。

大会パンフレットの表紙(左)と裏表紙(右)

大会パンフレットを開くと・・・

 

わたしは、文化の中には高齢者にふさわしい文化というものがあると考えています。永年の経験を積んでものごとに熟達していることを「老熟」といい、永年の経験を積んで大成することを「老成」といいます。私は「大いなる老いの」という意味で「グランド」と名づけています。この「老熟」や「老成」が何よりも物を言う文化を「グランドカルチャー」と名づけました。グランドカルチャーは、将棋よりも囲碁、いけばな生花よりも盆栽、短歌よりも俳句、歌舞伎よりも能・・・・・・とあげていけば、そのニュアンスが伝わるのではないでしょうか。将棋に天才少年は出ても、囲碁の天才少年というのはあまり聞いたことがありません。短歌には恋を詠んだ色っぽいものが多いが、俳句は枯れていないと秀句はつくれないといいます。もちろん、どんな文化でも老若男女が楽しめる包容力をもっていますが、特に高齢者と相性のよい文化、すなわちグランドカルチャーというものがたしかにあります。



さまざまなグランドカルチャーの中でも、囲碁を愛する高齢者は多いです。囲碁は宇宙の遊びです。囲碁ほどコスモロジカルでシンボリックなゲームはありません。将棋が人間界の戦争を模しているのなら、囲碁は宇宙の創世を再現しているのです。まず碁盤は宇宙の模型です。それはその厳然たる正方形において大地をあらわし、縦横に走る道の直線によって整然と区画された方眼状において現実と空想の大地のシンボルとなっており、さらに国家・都市・寺院・住居のモデルとなっています。しかも囲碁のシンボリズムは空間のみに限定されていません。縦横19道361路は一年の日数の経過であり、四隅は四季であるなど、碁盤は日月星辰の推移を映し出して、さながら天体そのものとしてイメージされています。すなわち、碁盤の象徴するものはほとんど「道」そのものである宇宙の周期的生命力のリズムなのです。



そして黒白の石は、言うまでもなく陰陽の気そのものです。二人の対局者自身も陰と陽の対立であり、彼らが盤上に石を置いていくことは、ただちに陰陽の二気による天地の創造、少くとも天地創造の反復であることになります。碁局を据え、碁子を取る、この瞬間に潜在していた「道」の力は動きはじめ、次いで陰石が置かれ陽石が布かれます。対局者の意識がどうであれ、これはまぎれもなく宇宙発生の反復であり、いながらにして二人の対局者が天地創造の渦動のうちに遊ぶことを意味するのです。囲碁は三千年以上も前に中国で生まれたとされていますが、以来、孟子などをはじめ中国人たちはこの宇宙遊びを愛してきました。



日本に渡来したのは735年で、阿倍仲麻呂と一緒に唐に行った吉備真備が持ち帰ったのがはじめです。『源氏物語』からもわかるように、平安時代にはすでに流行していました。最古の碁譜として残っているのは鎌倉時代日蓮上人とその弟子との対局ですが、囲碁をはっきり専門の域まで高めたのは京都寂光寺の日海上人です。この人がすなわち初世本因坊の算砂名人で、織田信長豊臣秀吉徳川家康の三武将の師でもあります。



家康はしかも算砂を軍師として尊び、天下を統一するに及んで「碁所」を創設し、碁道を奨励しました。家康はおそらく、殺伐とした戦国時代の人心を平和に統一するために、囲碁のもつ魅力に着目したのでしょうか。それとも囲碁の魔術性を利用したのでしょうか。いずれにしても、世界に冠たる好老社会である「江戸」の誕生には囲碁が関わっていたのです。

控室で、山田九段&武宮六段と

 

ブログ「サンレー杯『囲碁大会』」で紹介したように、2022年7月17日にJR小倉駅前にある西日本総合展示場で開催した「サンレー杯 北九州囲碁祭り団体戦」の会場控室で、わたしは2名のプロ棋士山田規三生九段、武宮陽光六段)との囲碁談義に花を咲かせました。わたしは、もともと囲碁は高齢者に向いたグランドカルチャー(老福文化)であると思っているのですが、そのことをお話しすると、SUNRAYを意味する陽光という名前の武宮六段は「まさに、そうだと思います。将棋に比べて、囲碁は負けたときの敗北感が少ないと言われています。その点、将棋の方が勝負論が強いのかもしれません」と言われました。なるほど、将棋は勝敗が一目瞭然ですが、囲碁は(黒白の石を打ちながら)白黒をはっきりとつけません。ストレスの少ない、優しい競技なのです。素敵ですね!


囲碁祭り」の会場のようす

さあ、これから開会式です!

来賓として紹介されました

登壇と同時にマスクを外しました

 

サンレー杯 北九州囲碁祭り団体戦」の会場に入ると、やはり200名以上の棋士が集結して壮観です。「熱気ムンムン」という言葉がふさわしいです。10時からの開会式では、フェイスシールドを付けて来賓として紹介されました。その後、大会実行委員会の田畑委員長の「主催者挨拶」に続いて、わたしが「来賓挨拶」を行いました。わたしは、登壇と同時にマスクを外し、「みなさん、おはようございます! 本日は、『サンレー杯 囲碁祭り団体戦』にご参加いただきまして、誠にありがとうございます。昨年に引き続き、無事開催することができ、これもひとえに、皆様のご支援の賜物と深く感謝申し上げます。囲碁は、何もないとこから石を打っていくゲームである、宇宙創造を模しているとされています。いわば、宇宙の遊びです。スケールが大きく、心ゆたかな文化です。医学的にも右脳を刺激し判断力を高め、ストレス解消や、ボケ防止などの効果があると注目されています」と述べました。

囲碁について語りました

 

また、わたしは「囲碁は、仏教の伝来と共に日本に伝わり、長きにわたり親しまれている日本の伝統文化であるとともに、長年の経験を積むことによる『老成』や『老熟』が何より物をいう文化とも言われています。私は、こういった文化を総称して『グランドカルチャー』とよび、八幡西区のサンレーグランドホールという施設を高齢者複合施設として位置づけカルチャー教室などを通して実践しています」と言いました。

人生100年時代を迎えて

 

さらに、わたしは「今、日本は人生100年時代を迎えています。重厚なグランドカルチャーの世界に触れて、これからの長い人生を豊かに過ごしていただくことが、老いるに幸福と書いて、『老福』という、充実した人生を過ごす一つの手段になると思っています。ちなみに、本日参加の最年長の方は94歳だそうです。本当に、素晴らしいことでございます。また、本大会にご参加いただいた若き皆様方におかれましても、老福、充実した人生を送られている年長者の方々から、ぜひ貴重な経験を吸収していただきたいと思います」と述べました。

「碁縁」という御縁が生まれますように!

そして、最後に「競技としては勝敗も大事ですが、老若男女の皆様方に、本日の大会を通じて囲碁仲間やご友人を作っていただき、人生をこれまで以上に豊かにしていただけましたら何よりでございます。そう、『碁縁』という御縁が生まれれば良いですね。参加者の皆様が普段の実力を大いに発揮し、健闘されることを祈念致しまして、開催のご挨拶とさせていただきます!」と挨拶しました。終わると、盛大な拍手が起こって感激しました。

うーむ、俺も囲碁やろうかな?


ルール説明を聴く朝妻さん

 

わたしが降壇すると、山田九段が登壇されました。溝上九段は、「まずは、大会の開催に大変なご尽力をいただきました株式会社サンレー様に感謝申し上げます」と言われました。続いて登壇された武宮六段からも「コロナ禍で開催の危機が叫ばれていた昨年から、株式会社サンレー様はしっかり支えて下さいました。心より感謝しております!」と言われました。わたしの胸は感激でいっぱいになりました。その後、武宮六段から「ルール説明」がありました。わたしは「囲碁って面白そうだな。俺も囲碁やろうかな?」と思いました。


対局がスタート!熱戦が繰り広げられました!

プロ棋士も参加しました

少年棋士も奮闘!

少女棋士も参戦!

 

この日の「サンレー杯 北九州囲碁祭り団体戦」は、大盛況のうちに幕を閉じました。わが社は、今後とも囲碁という素晴らしい日本の伝統文化を少しでも広められるように、また、みなさまが心豊かな生活を送ることができるよう微力ながらお手伝いを続けて参りたいと考えておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。来年お会いできることを楽しみにしています。ご参加の皆様、プロ棋士の先生方をはじめ、関係各位の皆様に心より御礼を申し上げます。


毎日新聞」2022年7月18日朝刊

 

2022年11月13日 一条真也