一条真也です。
たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。今回の「こころの一字」は、「導」です。

 

 

人を導く者を日本語で指導者、英語でリーダーといいます。リーダーに求められるのがリーダーシップだと一般には思われています。しかし決して誤解してはならないことは、リーダーシップはいわゆる管理職の人間だけに必要なのではなく、会社なら社員全員が持つべきものだということです。日本的リーダーの理想のイメージは「君子」と言えるかもしれません。君子については、日本における儒教研究の第一人者である加地伸行先生とわたしの対談本『論語と冠婚葬祭』(現代書林)にも詳しく書かれています。


 

リーダーシップとは、人間の生き方そのものに関わっています。組織の階層構造は人間がつくったものです。それは、ときとしてリーダーシップのあり方を型にはめ、人が生まれながらに持っている貴重な才能を押し殺してしまうことがあります。けれども、そのような状況のもとでも、リーダーシップを発揮することは誰にでもできます。では、どうすれば自分の可能性を引き出し、伸ばすことができるのでしょうか。

 

 

それは、こういう問いにつながります。「あなたの仕事は、人生を注ぎ込むに値するものか」という問いです。これほど大事な問題を、あなたはどう考えているのでしょうか。これは人間としての根本的な問いであり、一人ひとりの人生に関わる問いでもあります。誰もが、人の役に立ちたいと心の底で思っている。自分の存在が他人のやる気をくじいているのか、それとも逆に活気づけているのかということに、無関心でいてよいのでしょうか。

 

 

経営学ピーター・ドラッカーによれば、リーダーシップの本質とは、意義あるビジネスを生み出すこと、さらに言えば、意義ある人生を生み出すことにあります。過去と他人は変えられませんが、未来と自分は変えられます。変えられるのは自分だけであり、自分だけが自分を変えられるのです。自分の一番よいところを引き出すこと、自分の周囲に人々がのびのびと成長できるような環境をつくってあげること、これが真のリーダーシップではないでしょうか。

 

 

果敢に行動を起こし、みずから先頭に立ち、後に続く人々を励まし、他人の一番よいところをほめてあげること。これが人生のあらゆる場面に役立つリーダーシップの要諦です。ローマ史に詳しい作家の塩野七生氏は、リーダーとして成功できる男の最重要条件について述べています。それは、イタリア語では「セレーノ」、日本語では「晴朗」な雰囲気を醸し出すことであるといいます。

 

 

あのハンニバルを打ち破ってローマを勝利に導いたプリウスコルネリウススキピオは、若い頃から「セレーノ」を完全に持っていたそうです。彼が演壇の上に立っただけで、人々にはこの若者を支持したい気持ちがわいてきたというのです。リーダーたる者、いつも「晴朗」であることに努めたいものです。なお、「導」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。

 

 

2022年5月8日 一条真也