『隣人祭りのススメ』

一条真也です。
新型コロナウイルス感染拡大の「第6波」が猛威を奮い、ますます人と人とが会う機会が減っています。そんな今、あえてこのブックレットを紹介したいと思います。
わたしは、これまで多くのブックレットを刊行してきましたが、一条真也ではなく、本名の佐久間庸和として出しています。いつの間にか44冊になっていました。それらの一覧は現在、一条真也オフィシャル・サイト「ハートフルムーン」の中にある「佐久間庸和著書」で見ることができます。整理の意味をかねて、これまでのブックレットを振り返っていきたいと思います。 


隣人祭りのススメ』(2009年9月刊行)

 

今回は、『隣人祭りのススメ』をご紹介します。2009年9月に刊行したブックレットです。コロナ禍の前までは、有縁社会再生の方法として非常に注目されていた「隣人祭り」の考え方、そして具体的な開催方法などが満載されており、文字通り。「隣人祭りハンドブック」であり、「隣人祭り入門」となっています。巻末には、わが社がお世話をさせていただいた「隣人祭り」の報道も紹介されています。


人間関係を良くする「隣人祭り」とは?

 

このブックレットの目次構成は、以下の通りです。
人間関係を良くする魔法「祭り」
『人間関係を良くする17の魔法』
隣人祭り」へようこそ!(「隣人祭り」日本支部資料より)
    ◆「隣人祭り」とは何ですか?
    ◆「隣人祭り」はこんな場面に有効です!
    ◆「隣人祭り」はこんな長所があります。
    ◆「隣人祭り」を成功させる5つのステップ
    ◆「隣人祭り」マニュフェスト
    ◆2008年 日本初の「隣人祭り」に参加した人たちの声

 

わたしも含めて、日本人は、とにかく祭りが大好きです。子どもにとっては、夜遊びのワクワク感をともなって、祭りはひたすら楽しいイベントです。大人になるにつれ、命がけのお祭り、勇壮なお祭り、優美な祭りに心を奪われます。どんな祭りにも日常とは違った空気が流れており、そこに惹かれるのかもしれません。


日本人は「祭り」が大好き!

 

では、祭りとは何でしょうか。宗教哲学者の鎌田東二氏によれば、祭りは自然と人間と神々との間の調和をはかり、その調和に対する感謝を表明する儀式であるといいます。「まつり」というやまと言葉の原義は「神に奉(つか)へ仕(つかまつ)る」であることを国学者本居宣長は『古事記伝』で説いています。「まつり」の語源は「たてまつる」の「まつる」すなわち供献する・お供えすることに由来するというのです。

 

たしかに「祭り」のはじまりは「神と人との関係」にありました。でも、現在では「人と人との関係」、つまり人間関係という視点から祭りをとらえているのではないでしょうか。古来より、日本の祭りは人間関係を良くする機能を大いに果たしてきました。ともに祭りに参加した人間同士の心は交流して、結びつき合うのです。

 

人間関係を良くする祭りといえば、「隣人祭り」というものが話題になっています。地域の隣人たちが食べ物や飲み物を持ち寄って集い、食事をしながら語り合うことです。都会の集合住宅に暮らす人たちが年に一度、顔を合わせるのですが、いまやヨーロッパを中心に30カ国、1000万人が参加するそうです。

 

隣人祭りの発祥の地はフランスです。パリ17区の助役であるアタナーズ・ペリファン氏が提唱者です。きっかけは、パリのアパートで1人暮らしの女性が孤独死し、1ヵ月後に発見されたことでした。ペリファン氏が駆けつけると、部屋には死後1ヵ月の臭気が満ち、老女の変わり果てた姿がありました。同じ階に住む住民に話を聞くと、「一度も姿を見かけたことがなかった」と答えました。大きなショックを受けたペリファン氏は、「もう少し住民の間に触れ合いがあれば、悲劇は起こらなかったのではないか」と考えました。そして、NPO活動を通じて1999年に隣人祭りを人々に呼びかけたのです。

 

第1回目の隣人祭りは、悲劇の起こったアパートに住む青年が中庭でパーティーを開催し、多くの住民が参加し、語り合いました。そのとき初めて知り合い自己紹介をした男女が、その後、結婚するという素敵なエピソードも生まれました。最初の年は約1万人がフランス各地の隣人祭りに参加しましたが、2003年にはヨーロッパ全域に広がり、2008年には約800万人が参加するまでに発展し、同年5月にはついに日本にも上陸しました。4日間、新宿御苑で開催され、約200人が集まったそうです。日本でも孤独死は増えています。隣人祭りが発展した背景には、孤独死の問題はもちろん、多くの人々が行きすぎた個人主義に危機感を抱いていることを示しています。


隣人祭り」で大いに盛り上がる!

 

隣人祭りのキーワードは「助け合い」や「相互扶助」といった言葉です。それなら、多くの人は日本に存在する某組織のことを思い浮かべるのではないでしょうか。そう、互助会です。正しくは、冠婚葬祭互助会といいます。「互助」とは「相互扶助」を略したものなのです。わたしはフランスで起こった隣人祭りと日本の互助会の精神は非常に似ていると思っています。

 

わたしたちの会社は、まさに互助会です。また、わたしは互助会の各種業界団体の役員を務めています。いまや全国で2000万人を超える互助会員のほとんどは高齢者であり、やはり孤独死をなくすことが互助会の大きなテーマとなっているのです。そこで互助会であるサンレーでは、NPO法人を通じて、各地で隣人祭り開催のお手伝いを行なってゆくことにしました。まずは、日本で最も高齢化が進行し、孤独死も増えている北九州市での隣人祭りのお手伝いをさせていただきました。

隣人祭り・秋の観月会」のようす

 

隣人祭りは、人生最後の祭りである「葬祭」にも大きな影響を与えます。隣人祭りで知人や友人が増えれば、当然ながら葬儀のときに見送ってくれる人が多くなるからです。アカデミー外国語映画賞を受賞した「おくりびと」が話題になりましたが、人は誰でも「おくりびと」です。そして最後には、「おくられびと」になります。1人でも多くの「おくりびと」を得ることが、その人の人間関係の豊かさを示すのです。その意味で葬儀の場とは、人生のグランドフィナーレであるとともに、良い人間関係の檜舞台にほかなりません。

隣人の時代』(三五館)

 

隣人の時代』(三五館)にも書きましたが、哲学者のアリストテレスが述べたように、人間とは、他人と触れ合わずにはいられない社会的動物なのです。ITが進歩するばかりでは人類の心は悲鳴をあげて狂ってしまいます。ITの進歩とともに、祭り、隣人祭り、冠婚葬祭など人が集う機会がたくさんある社会でなければなりません。コロナが終息したら、さまざまな「祭り」に参加して、人間関係を良くしようではありませんか!

 

2022年1月24日 一条真也