『決定版 冠婚葬祭入門』(実業之日本社版)

一条真也です。
新型コロナウイルスの感染拡大「第6波」は衰えを見せず、結婚式や葬儀などの冠婚葬祭に打撃を与えています。68冊目の「一条真也による一条本」は、『決定版 冠婚葬祭入門』(実業之日本社)です。製作は有楽出版社が担当しました。表紙には「基本マナーと最新情報を網羅!」「これ1冊で安心!」と書かれ、2014年4月25日に刊行されました。

決定版 冠婚葬祭入門』(実業之日本社

 

わたしは、「遊び」「リゾート」「社会」「死生観」「宗教」「神話」「ファンタジー」「グリーフケア」「人間関係」「法則」「読書」、そして「経営」など、さまざまなジャンルの本を書いてきました。しかし、わが最大のメインテーマは「冠婚葬祭」です。ずっと、あらゆる年代の人々が実際に活用できる冠婚葬祭の入門書が書きたいと思っていました。ようやく念願かなって上梓することができ、まことに感無量でした。

f:id:shins2m:20220125154650j:plain7ページにわたって「目次」を掲載

 

監修は、日本儀礼文化協会の専門家の方々にお願いしました。日本儀礼文化協会は、日本の伝統文化である儀礼・儀式を見つめ直し、先人の伝統的知恵をふまえ、人を敬い・人を思いやり・人を大切にする精神を養い育て、日本人の美しい心を取り戻すことを目的に昭和54年5月に設立、儀礼文化の啓蒙および普及活動に努めています。平成13年7月、「特定非営利活動法人」化されました。

f:id:shins2m:20220125154725j:plainあらゆるルールとマナーを網羅しました

 

「冠婚葬祭」とは何か。「冠婚+葬祭」として、結婚式と葬儀のことだと思っている人も多いようです。たしかに婚礼と葬礼は人生の二大儀礼ではありますが、「冠婚葬祭」のすべてではありません。「冠婚+葬祭」ではなく、あくまで「冠+婚+葬+祭」なのです。

f:id:shins2m:20220125154749j:plain「冠」は、誕生から成人までのさまざまな成長行事

 

「冠」はもともと元服のことで、15歳前後で行われる男子の成人の式の際、貴族は冠を、武家は烏帽子(えぼし)を被ることに由来します。現在では、誕生から成人までのさまざまな成長行事を「冠」とします。  

f:id:shins2m:20220125154805j:plain「祭」は、先祖の祭祀&年中行事です

 

「祭」は先祖の祭祀です。三回忌などの追善供養、春と秋の彼岸や盆、さらには正月、節句、中元、歳暮など、日本の季節行事の多くは先祖を偲び、神を祀る日でした。現在では、正月から大晦日までの年中行事を「祭」とします。

f:id:shins2m:20220125154826j:plain結婚の準備について

 

そして、「婚」と「葬」があります。結婚式ならびに葬儀の形式は、国により、民族によって、きわめて著しく差異があります。これは世界各国のセレモニーというものが、その国の長年培われた宗教的伝統あるいは民族的慣習といったものが、人々の心の支えともいうべき「民族的よりどころ」となって反映しているからです。

f:id:shins2m:20220125154839j:plain葬儀の準備について

 

日本には、茶の湯・生け花・能・歌舞伎・相撲といった、さまざまな伝統文化があります。そして、それらの伝統文化の根幹にはいずれも「儀式」というものが厳然として存在しています。儀式なくして文化はありえず、ある意味で儀式とは「文化の核」であると言えるでしょう。

 

 

結婚式ならびに葬儀に表れたわが国の儀式の源は、小笠原流礼法に代表される武家礼法に基づきますが、その武家礼法の源は『古事記』に代表される日本的よりどころなのです。すなわち、『古事記』に描かれたイザナギイザナミのめぐり会いに代表される陰陽両儀式のパターンこそ、後醍醐天皇の室町期以降、今日の日本的儀式の基調となって継承されてきました。

f:id:shins2m:20220123201308j:plain毎日新聞」2022年1月17日朝刊

 

わたしは、冠婚葬祭互助会を経営しながら、大学で孔子の思想などを教えています。講義では、特に孔子が説いた「礼」について重点的に説明します。「礼」は儀式すなわち冠婚葬祭の中核をなす思想ですが、平たく言うと「人間尊重」であると思います。そして、「礼」を形にしたものが「儀式」です。孔子は「社会の中で人間がどう幸せに生きるか」ということを追求した方ですが、その答えとして儀式の重視がありました。人間は儀式を行うことによって不安定な「こころ」を安定させ、幸せになれるのです。その意味で、儀式とは、幸福になるためのテクノロジーです。そう、カタチにはチカラがあるのです!


『冠婚葬祭入門』から『決定版 冠婚葬祭入門』へ

 

近代日本の出版史を振り返ると、日本万国博覧会が開催された1970年に超ベストセラーが誕生しました。塩月弥栄子氏の『冠婚葬祭入門』(光文社)です。実に308万部を売上げ、シリーズ全体(全4冊)で700万部を超える大ミリオンセラーとなりました。同名でTVドラマ化、映画化もされています。あの頃、日本の冠婚葬祭は大きな変化を迎えて、誰もが新しい冠婚葬祭のマナーブックを必要としていました。今また結婚式も葬儀も大きく変貌しつつあり、「無縁社会」などと呼ばれる社会風潮の中で、冠婚葬祭の意味と内容が変わってきています。新しい『冠婚葬祭入門』が求められていたのです。


「月刊フューネラルビジネス」2014年6月号

 

儀式なくして文化はありえず、ある意味で儀式とは「文化の核」であると言えるでしょう。そして、核は不変でも、枝葉は変化します。情報機器の世界ではありませんが、冠婚葬祭にもアップデートが必要です。基本ルールが「初期設定」なら、マナーは「アップデート」です。わたしは、現代日本の冠婚葬祭における「初期設定」と「アップデート」の両方がわかるよう、『決定版 冠婚葬祭入門』を書きました。

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毎日新聞」2014年3月21日朝刊

 

さらに、儀式の果たす主な役割について考えてみましょう。それは、まず「時間を生み出すこと」にあります。日本における儀式あるいは儀礼は、「人生儀礼」(冠婚葬)と「年中行事」(祭)の二種類に大別できますが、これらの儀式は「時間を生み出す」役割を持っていました。わたしは、「時間を生み出す」という儀式の役割は「時間を楽しむ」に通じるのではないかと思います。「時間を愛でる」と言ってもいいでしょう。日本には「春夏秋冬」の四季があります。わたしは、儀式というものは「人生の季節」のようなものだと思います。七五三や成人式、長寿祝いといった人生儀礼とは人生の季節、人生の駅なのです。わたしたちは、季語のある俳句という文化のように、儀式によって人生という時間を愛でているのかもしれません。それはそのまま、人生を肯定することにつながります。 そう、儀式とは人生を肯定することなのです。


「ふくおか経済」2014年6月号

 

冠婚葬祭とは、すべてのものに感謝する機会でもあります。七五三・成人式・長寿祝いなどに共通することは、基本的に「無事に生きられたことを神に感謝する儀式である」ということ。ですから、いずれも神社や神殿での神事が欠かせません。わたしは、「おめでとう」という言葉は心のサーブで、「ありがとう」という言葉は心のレシーブであると思っています。これまでの成長を見守ってきたくれた神仏・先祖・両親・そして地域の方々へ「ありがとうございます」という感謝を伝える(レシーブ)場を持つことが、人生を豊かに過ごしていくことにつながるのではないでしょうか。

f:id:shins2m:20220123201639j:plain決定版 冠婚葬祭入門』(PHP研究所)

 

冠婚葬祭のルールは変わりませんが、マナーは時代によって変化していきます。情報機器の世界では「アップデート」という言葉がよく使われます。アップデートによって新しい機能が追加されたり、不具合が解消されたりするわけです。冠婚葬祭にもアップデートが求められます。基本となるルールが「初期設定」なら、マナーは「アップデート」です。本書は、現代日本の冠婚葬祭における「初期設定」と「アップデート」の両方がわかる解説書だと言えるでしょう。の、本書のアップデート版として『決定版 冠婚葬祭入門』(PHP研究所)が2019年3月22日に刊行されました。

 

 


2022年1月24日 一条真也