「ムーンライト・シャドウ」

一条真也です。
ついに10月になりました。1日、産経新聞社の WEB「ソナエ」に連載している「一条真也の供養論」の第39回目がアップされます。今回のタイトルは、「ムーンライト・シャドウ」です。 

f:id:shins2m:20210929165857j:plain「ムーンライト・シャドウ」

 

「ムーンライト・シャドウ」という日本映画を観ました。吉本ばなな氏のベストセラー『キッチン』に収められた短編小説を映画化したラブストーリーです。満月の夜の終わりに死者と再会するというグリーフケア映画で、どうしても観たい作品でした。この物語以外でも、古今東西、満月の夜は幽霊が見えやすいという話をよく聞きます。満月の光は、天然のホログラフィー現象を起こすのではないでしょうか。つまり、自然界に焼きつけられた残像や、目には見えないけれど存在している霊の姿を浮かび上がらせる力が、満月の光にはあるように思えます。

 

「ムーンライト・シャドウ」では、月が非常に重要な役割を果たします。主人公の女性は、死に別れた恋人と再会するべく、川を訪れます。夜明け近くの橋の下には、月光が降り注いでいます。そこで、彼女はなつかしい恋人の姿ともう一度出逢うのでした。巫女のような仲介者の女性によれば、100年に1回くらいの割合で、偶然が重なりあってこのように死者が出現するそうです。場所も時間も決まっていないが、川のある場所でしか起こりません。人によっては、まったく見えないといいます。死んだ人の残留した思念と、残されたものの悲しみがうまく反応した時に陽炎のように見えるのです。死者の残留した思念と生者の悲しみがうまく反応するのは、恐らく月のせいでしょう。

 

アメリカの神経学者カール・プリブラムや、イギリスの物理学者デイヴィッド・ボームは、この世界はホログラフィーのように、映し出された立体像の方にではなく、それを映し出した干渉板のフィルムの中にこそ、リアリティは巻き込まれているのではないかとの考えを打ち出しました。そして、その1つ1つの部分は全宇宙を宿していて、一即多、多即一、すなわち部分と全体は互いに他を含みあい、かつ空間にみられる巻き込みのように、時間も過去から未来にかけてのすべてがそこに巻き込まれているのではないかという世界のモデルを提出しています。

 

このホログラフィー理論は、全宇宙の記憶が刻まれているというアカーシック・レコードにも通じるし、実在界と現象界という宗教的世界観とも共通しています。この世(現象界)のすべてのものは、あの世(実在界)から投影されている幻影にすぎないという考え方です。死者の思念に月光が降り注ぐ時、一種のホログラフィーが発生します。それは、ムーンライト・シャドウという「愛の奇跡」なのです。同時に、わたしたち生者もまた、ホログラフィーによって浮かび上がった、ヴィジュアライズされた霊、すなわち幽霊だという考え方もできます。もしもわたしたち自身も幽霊なら、死者たちといかに理想的な関係を築いていくかを考えなければならないでしょう。



2021年10月1日 一条真也