「高い倫理観」について

一条真也です。
17日の東京の感染者は1410人。4日連続の1000人超え、前の週の同じ曜日に比べて増えたのは28日連続。そんな中で、東京五輪の強行開催まで1週間を切りました。14日に書いたブログ「今からでも中止だ中止!!」で、わたしは「これからは毎日のようにバッド・ニュースが続く」と書きましたが、ウガンダ選手が脱走したり、選手村で韓国選手団が反日の横断幕を掲げるなど、その通りになっています。もはやカオス状態!

f:id:shins2m:20210717192854j:plain

ヤフーニュースより

 

信じられないほどケチがつきまくっている東京五輪ですが、新たな騒動が起こっています。23日に行われる開会式に作曲担当として参加しているミュージシャンの小山田圭吾氏の過去の「いじめ自慢」発言が大炎上しています。小山田氏は、過去に同級生や障害者をいじめていたと雑誌や書籍のインタビューで発言していましたが、16日にツイッターに「謝罪文」を掲載しました。


彼のいじめ発言はけっこう有名な話で、わたしも知っていました。彼と小沢健二氏が組んだフリッパーズ・ギターの名曲「恋とマシンガン」が大好きだった(カラオケでもよく歌った)だけに、その事実を知ったときはショックを受けた記憶があります。フリッパーズ・ギターのファンの中には、小山田氏の発言を知って、「もう小山田圭吾の曲は聴きたくない」と思った人も多かったようです。


小山田氏本人が1994年1月発行の「ロッキング・オン・ジャパン」(ロッキング・オン)と95年8月発行の「クイック・ジャパン」(太田出版)などの音楽雑誌で語ったインタビューによると、イジメは小学校から高校までずっと行っていたそうです。小山田が通っていたのは自由な校風で知られる私立の小中高一貫校ですが、「全裸にしてグルグルにひもを巻いてオナニーさしてさ。ウンコ喰わしたりさ。ウンコ喰わした上にバックドロップしたりさ」(「ロッキング・オン・ジャパン」)と語っています。また、「クイック・ジャパン」のインタビューによると、小学校の時には障がいのある同級生の体をガムテープで巻き、身動きが取れないようにして、段ボールに入れたといいます。同じ同級生を高校生時代にもいじめ、みんなでジャージを脱がせて下半身を露出させたと告白しています。


小山田氏は「女の子とか反応するじゃないですか。だから、みんなわざと脱がしてさ、廊下とか歩かせたりして」(「クイック・ジャパン」)と語っています。中学の時の修学旅行では、留年した先輩と一緒になって違う障がいのある同級生に自慰行為をさせています。さらに、「クイック・ジャパン」では、「掃除ロッカーの中に入れて、ふたを下にして倒すと出られないんですよ。すぐ泣いてうるさいから、みんなでロッカーをガンガン蹴飛ばした」「マットの上からジャンピング・ニーパットやったりとかさー。あれはヤバいよね、きっとね」などとも語っています。



読むだけで気分が悪くなる内容です。昔の話であっても怒りが湧いてきます。これはもう「いじめ」というより「犯罪」であり、自死事件にも発展しかねないケースだと思います。障がい者への凄惨な肉体的・精神的・暴力的・性的ないじめの加害者が「オリンピック・パラリンピックの開会式音楽担当者」としては不適当だと問題になるのは当然でしょう。この小山田氏の過去発言が問題視され、ネットで大炎上となりました。小山田氏は自身のツイッターに公表した文章で「多くの方々を大変不快なお気持ちにさせることとなり、誠に申し訳ございません」と謝罪。「過去の言動に対して、自分自身でも長らく罪悪感を抱えていたにも関わらず、これまで自らの言葉で経緯の説明や謝罪をしてこなかったことにつきましても、とても愚かな自己保身であったと思います」などと述べています。



しかし、ネットでは「絶対に許せない」「もはやサイコパス」「被害者のトラウマは一生消えない」「オリパラの音楽をいじめ加害者が担当するのはあり得ない」「完全に五輪憲章に違反している」「炎上したから謝罪しただけ」「こんな問題人物を選ぶ組織委員会が信じられない」などと大炎上しています。彼を選んだ組織委員会の武藤事務総長も小山田発言は知らなかったようですが、最大の謎は大手広告代理店が炎上必至の人選をしたことです。それだけ大物音楽家や有名音楽家の起用が難しかったことが予想されます(コロナでLIVEができなかった音楽業界では反五輪の気運が高まっています)が、まあ代理店も「昔の話だからいいか」と甘く見たのでしょう。わたしなら、小山田氏ではなく、フリッパーズ・ギターで彼のパートナーだったオザケンを選びますけど。オザケンといえば、最近、彼の不倫疑惑がニュースになっていましたね。

f:id:shins2m:20210718092548j:plainヤフーニュースより

 

しかし、「メディアゴン」が配信した「〈いじめ五輪は国辱〉りんたろー氏の小山田圭吾擁護に疑問」という記事で、メディア学者で東洋大学教授の藤本貴之氏は「事実が明らかになり、問題化している以上、五輪開会式音楽という東京大会を象徴するような場面の担当者としては不適当であることは明白だ。そもそも、五輪憲章にも反するという人事ということも理解しなければならない。そこは組織委員会も真摯に受け止めなければ、東京大会は『凄惨ないじめ加害者が開会式音楽を担当した』という負のレガシーが語り継がれることになるだろう。これはもはや国辱だ」と述べています。まったく同感ですね。


藤本氏は、「小山田はツイッター謝罪という中途半端ことで誤魔化すのではなく、記者会見等の公の場面で謝罪と説明をした上で、五輪担当を辞任し、いじめ問撲滅運動への寄付をするなど、目に見える『反省』を示してみてはどうだろうか」とも述べています。たしかに、小山田氏に払われる報酬は税金なわけですから、当然だと思います。小山田氏の起用が大問題となり、組織委員会は16日夜にコメントを出しました。それによれば、「小山田氏の過去の発言は不適切だ。一方、本人は発言について反省しており、現在は高い倫理観をもって創作活動に献身するクリエーターの1人であると考えている。1週間後の開会式に向けて、引き続き最後まで準備に尽力していただきたいと考えている」となっています。女性蔑視発言の森会長、容姿侮蔑のオリンピッ演出を企画した佐々木氏も辞任しましたが、開会式まで残り1週間しかないということもあって小山田氏の辞任は現実的ではないのでしょう。開会式では、彼が作曲した音楽を天皇陛下も聴かれるのでしょうか?


ここで気になるのは、組織委員会が小山田氏のことを「現在は高い倫理観をもって創作活動に献身するクリエーターの1人である」と表現したことです。「高い倫理観」とはまた大きく出たものですが、わたしなりに「高い倫理観」について考えてみました。そして、ある中学生のエピソードを思い出しました。ブログ『祖父が語る「こころざしの物語」』で紹介した加地伸行先生の著書に出てくる実際に起きた出来事です。昔、ある中学校の教師が突然、「これから小テストをやるぞ」と言いました。予告なしの抜き打ちのテストで、教室内にはざわめきが起こりました。すると、1人の男子生徒が急に教室を飛び出して行きました。水が入ったバケツを持って戻った彼は、水を教室に撒き、床を水浸しにしました。当然ながら、教室中が大騒ぎです。教師は水を撒いた生徒を「なぜ、やった?」と怒りながら問い詰めましたが、彼は何も答えませんでした。

 

 

しかし、それから数十年後、ある女性の告白から真相が判明したのです。最前列に座っていた彼女は、精神的にナイーブな女の子でした。それで、抜き打ちテストが行われると知ったショックにより、思わず失禁したといいます。彼女のすぐ後の席だった例の男子生徒はすべてを悟り、とっさに水を撒いて彼女の秘密を隠したのです。彼は、そのことを絶対に人には話しませんでした。その事実が判明したのは、数十年後の女性生徒の告白でした。わたしは、この話を読んだとき、泣けて仕方がありませんでした。これほど勇気のある中学生が、かつての日本には実在したのです。いじめに関わっているすべての子どもたちに教えてあげたい話です。そして、このような生徒こそ「高い倫理観」を持っていると思わずにはいられません。なお、この感動的なエピソードが書かれた『祖父が語る「こころざしの物語」』は、8月3日発売のハートフル・ブックガイド『心ゆたかな読書』(現代書林)でも紹介しています。

 

 

2021年7月18日 一条真也