『鬼滅の刃』は夏祭りと盆踊りの代わりだった?

一条真也です。
1月28日、わが最新刊『「鬼滅の刃」に学ぶ』(現代書林)が発売されました。どうか、書店やネット書店でお買い求めの上、ご一読下さいますよう、お願い申し上げます。2月1日、産経新聞社の WEB「ソナエ」に連載している「一条真也の供養論」の第31回目がアップされました。今回のタイトルは、「『鬼滅の刃』は夏祭りと盆踊りの代わりだった?」です。 

f:id:shins2m:20210128183734j:plain「『鬼滅の刃』は夏祭りと盆踊りの代わりだった?」

 

昨年は新型コロナウイルスの猛威に振り回された1年でしたが、そんな中で社会現象と呼べる大ブームを巻き起こしたのが『鬼滅の刃』です。漫画も、アニメも、映画も、史上最大のヒットを記録するという信じられないような現象を巻き起こしました。「なぜ、『鬼滅の刃』はコロナ禍の中で大ヒットしたのか」という謎を解くために、わたしは『「鬼滅の刃」に学ぶ』(現代書林)という本を書きました。

 

令和2年、改元の翌年にわたしたちが迎えた夏は極めて異常なものでした。新型コロナウイルスによってあらゆる行動が制限を受け、ビフォー・コロナどおりの行動をそのまま継続できた例はほとんどなく、さまざまなことが「密」を避けるために変化を求められました。これは夏に行われる祭事、すなわち夏祭りや盆踊りも例外ではありませんでした。全国の花火大会もコロナ禍を要因に中止されました。

 

民俗学者の畑中章宏氏は、「日本の人々がこれまで続けてきた祭りのほとんどは、祖霊を供養するためと、疫病除去の祈願のためだったといっても言い過ぎではない」と指摘しています。確かに、日本の祭礼の目的は(稲の豊作祈願を含めた)祖霊祭祀と病疫除去にあったと考えて間違いありません。そして、その中でもいわゆる夏祭りは、病疫退散が主たる目的といえるものが少なくありません。これは夏という季節が、暑さによる人間の生命力低下とともに、病魔が広がりやすくなる季節であることが理由として挙げられます。

 

コロナ禍における祭礼のあり方は、日本人の「こころ」を安定させるためにも今後早急に検討されなければなりません。しかし、現在の状況の中で一縷の望みがあるとすれば、それは「まつりのあるべき姿」や「先祖祭祀のありかた」を見直す声が出ていることでしょう。

 

コロナ禍の現状、ことごとく祭礼が中止されました。その中で生じる最大の問題は、夏祭りや盆踊りが担っていた祖霊祭祀と病疫除去という役割を、誰が担うのかというものです。その答えの1つが、わたしは『鬼滅の刃』という作品だったと思います。

 

夏祭りは先祖供養であると同時に、疫病退散の祈りでした。それが中止になったことにより、日本人の無意識が自力ではいかんともしがたい存在である病の克服を願い、疫病すなわち鬼を討ち滅ぼす物語であり、さまざまな喪失を癒す物語でもある「鬼滅の刃」に向かった側面があるのではないか? 
わたしは、そのように考えます。

 

 

2021年2月1日 一条真也