コロナ後を生きる教養

一条真也です。
16日、早朝から松柏園ホテルの神殿で恒例の月次祭が行われました。コロナ後のニューノーマル仕様で、コロナ以前よりも人数を減らしてソーシャルディスタンスに配慮し、マスクを着用した上での神事です。

f:id:shins2m:20201016080600j:plain月次祭のようす

f:id:shins2m:20201016081705j:plain拝礼する佐久間会長

f:id:shins2m:20201016081748j:plainわたしも拝礼しました

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神殿での一同礼!

 

月次祭では、皇産霊神社の瀬津神職が神事を執り行って下さり、祭主であるサンレーグループ佐久間進会長に続き、わたしが社長として玉串奉奠を行いました。わたしは、会社の発展と社員の健康・幸福、それから新型コロナウイルスの疫病退散を祈念しました。

f:id:shins2m:20201016083301j:plain最初は、もちろん一同礼!

f:id:shins2m:20201016083816j:plain天道塾のようす


神事の後は、恒例の「天道塾」を開催しました。通常と人数は同じですが、会場の広さは3倍です。最初に佐久間会長が訓話を行いました。会長は会場を埋め尽くしたマスク姿の人々を前に、中曽根元首相の葬儀の問題についての感想を述べ、わが社で施行された社葬などの大規模葬儀の思い出を語りました。

f:id:shins2m:20201016083450j:plain訓話する佐久間会長

f:id:shins2m:20201016084252j:plain熱心に聴く人びと

 

また、佐久間会長は「八共道」に言及し、コロナ禍の社会に「つながり」を作ることが大切で、それには風呂や茶の湯がふさわしいという持論を述べました。もともと、日本における風呂の文化は寺院と密接な関わりがあり、わが社がコミュニティホール創造を目指すなら、風呂は欠かせないとのこと。また、自身が関わる「小笠原古流」の茶道と風呂のミックスで新しい「つながり」作りをする構想を述べました。さらには、「社会の改革は、食の改革にあり!」と訴え、「健康の相互扶助」というアイデアを披露しました。

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この日は黒マスクで登壇

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黒マスクを外しました

 

続いて、わたしが登壇しました。わたしは黒マスクをしたまま、まずは「みなさん、お元気ですか? 創立54周年記念日まで、あと1か月ですね。コロナ禍で、時間の感覚がなくなります」と言いました。それから、黒マスクを外して「読書の秋ですが、みなさんは本を読んでいますか?」と問いかけました。読書は大切です。読書は、教養を育てます。最近、例の日本学術会議の任命問題などで「教養」という言葉をよく聞きますが、「教養」とは何でしょうか。「教養」は「知識」でも「学歴」でもありません。あえて言えば、「知恵」に似たものだと思います。もちろん生きていく上で必要なものです。

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「教養」について述べました 

 

APU(立命館アジア太平洋大学)の出口治明学長がおられます。わたしも何度かお会いしていますが、現代日本を代表する教養人の1人とされています。出口学長は、『リーダーの教養書』(幻冬舎文庫)と言う本の中で、「教養の特徴には、知の広がりの大きさがあると思います。僕は、世の中の事象というのは、‟氷山”と似ていると思っています。人間の脳が意識できるのは1、2割で、無意識の部分が脳の活動の大半を占めていますが、それと同様に世の中の事物で見えているのは氷山の内の1、2割で、残りの8、9割は海の中に隠れているわけです。即ち、いわゆる『早わかり』系の知識というのは、氷山の上だけをなぞっているにすぎません」と語っています。

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読書で真の「教養」を身に付ける!

 

また、出口学長は、「教養は、役に立たないことも含めて関連する情報を全部集めて成り立つものですから、海中に隠れている8、9割の知識もしっかり認識することが必要だと思います。ですから、目に見えるものだけではなく見えないもの、役に立つものだけではなく役に立たないものも含めた氷山全体の大きさが、その人の知的な体系をかたちづくっている気がします」とも述べています。リーダーの読書にも二種類あり、1つは氷山の全貌を知るための読書。すなわち、古典ですね。渋沢栄一翁は『論語』を読み倒し、大前研一氏は『古事記』を愛読されています。もう1つは、時代を知るための読書。日本電産永守重信氏はリーマン・ショックのとき、1カ月間会社に行かずに、大恐慌に関する本を読み漁ったといいます。

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感染症&コロナ後の世界の本を読破しました 

 

さて、コロナ禍になってから、わたしは、あらゆる感染症に関する本を読破し、最近はコロナ後の世界について書かれた本を片っ端から読んでいることを告白しました。その中で、『コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方』遠藤功著(東洋経済新報社)という本についてお話したいと思います。この本は具体的にコロナ後の社会やビジネスを在り方を示し、コロナ後に日本人を襲う「会社・仕事・働き方の大変化」をわかりやすく解説しています。著者の代表作に『見える化』という好著がありますが、この本はまさしくコロナ後の世界を「見える化」してくれました。

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「VUCA」について説明しました

 

まず、近年、大企業の経営者たちがよく使う「VUCA」という言葉が紹介されます。「VUCA」とは「Volatility」(不安定性)、「Uncertainty」(不確実性)、「Complexity」(複雑性)、「Ambiguity」(曖昧模糊)という4つの単語の頭文字からとった略語であり、「先がまったく読めない不安定、不透明な環境」を言い表しています。この「VUCA」について、著者は「私たちは『VUCA』という新たな混迷する環境を頭では理解し、備えていたつもりだった。しかし私たちの認識は、とんでもなく甘かったと認めざるをえない。『VUCA』とは『まさかこんなことに・・・』という事態が起きることなのだと思い知らされた。中国に端を発する新型コロナウイルスは、わずか半年ほどで世界を震撼させ、経済活動や社会活動をいっきに停滞させ、世界中の人々の生活をどん底に陥れようとしている。『つながる』ことや『ひとつになる』ことの恩恵ばかりを享受していた私たちは、その裏で広がっていた『感染』というリスクの怖さを、日々身をもって体験している」と述べます。

f:id:shins2m:20201016093054j:plainトンネルの出口を掘ることが大事!

 

また、著者は「コロナの影響を免れる国や産業などない。一部の限られた業界を除けば、ほぼすべての業界が、すでに大きな打撃を受けている。現在は航空、鉄道、タクシーなどの交通関係、ホテル、旅館などの観光業界、飲食業、娯楽産業などを直撃しているが、これからは製造業や不動産業など、きわめて広範囲な産業に甚大な影響を及ぼすのは必至だ」と述べています。「移動蒸発→需要蒸発→雇用蒸発」という「蒸発のドミノ倒し」。わたしたちは「出口の見えないトンネル」に入り込んでしまったというのです。そして「出口のないトンネル」から脱出する方法はひとつしかない。それは、自分たちで「出口を掘る」ことであると訴えます。逆にいえば、いま覚醒できなければ、この国は間違いなく終わるだろうというのです。

f:id:shins2m:20201016093018j:plain本当に必要な人は誰なのか?

 

さらに、コロナによって「必要な人」と「不要な人」が顕在化したとして、いざ会社が本格的に再始動するときに、「本当に必要な人は誰なのか」「本当に役に立つ人は誰なのか」が明白になることが指摘されます。逆にいえば、「不要な人」「役に立たない人」、つまり「いらない人は誰なのか」が白日の下にさらされてしまうのです。著者は、「世界経済や日本経済が堅調であれば、『不要な人』を救う手だてはあるかもしれない。しかし、サバイバル戦略において述べたように、中長期的な経済の低迷が予測されるなか、企業が『いらない人』を抱えている余裕などない」と述べています。コロナ後に日本企業が再生できるかどうかは、すべて人材にかかっています。有能な人材を確保し、活用できる会社だけが生き残るのです。

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「タスク」よりも「ミッション」を!

 

同書によれば、ポストコロナの組織運営においてなにより大事なのは、1人ひとりの社員に与える「ミッション」(使命)を明確にすることです。会社が苦境を乗り越え、新たな成長を実現するためには、どのような「ミッション」を遂行しなければならないのかを、社員全員が自覚し、実践しなければなりません。わが社も、かつての苦境時に社長に就任したばかりのわたしが新たなミッションを掲げて全社一丸となって業績回復に取り組んだ経験があります。平時のときは、「ミッション」など意識しなくても、会社はなんとか回る。自分に与えられた目の前の「タスク」(任務)だけをやっていれば、それなりにやっていける。しかし、有事はそういうわけにはいかない。組織の上から下までが、自分に与えられた「ミッション」を自覚し、日々実践に努めなければならないのです。

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天道塾のようす

 

著者は「自分が得意な分野、自分が興味ある分野、自分が経験を積んできた分野においては、ほかの人たちを凌駕する卓越した知見、スキル、実績をもつ人材こそが『プロフェッショナル』である。これからの経営においては、さまざまな分野、領域で『プロ』が求められる。『戦略のプロ』『マーケティングのプロ』『ITのプロ』『AIのプロ』『デジタルのプロ』『M&Aのプロ』『法務のプロ』『監査のプロ』など、高度専門性を磨かなければ、会社の中で力を発揮し、認められることはない」と述べます。

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「精神的な豊かさ」を高めよう!

心ゆたかな社会 「ハートフル・ソサエティ」とは何か
 

 

いくら会社が利益を上げ、内部留保を貯め込んでも、そこで働く人たちが疲弊し、暗い顔をしていたのでは、とてもいい会社とは言えないとして、著者は「平成の30年は、そんな会社が増えていった時代だった。私たちはコロナ・ショックを機に、その流れに終止符を打たなければならない。真の豊かさとは、『経済的な豊かさ』と『精神的な豊かさ』が共存するものだ。コロナがきっかけとなってこれから起きてくるだろうさまざまな働き方の変革は、私たちの『精神的な豊かさ』を高めてくれる可能性がある。『資本の論理』『会社の論理』ばかりがまかり通った時代から、『人間の論理』『個の論理』が通用する社会に変えていかなければならない」と述べています。このあたりは、拙著『心ゆたかな社会』(現代書林)の内容に大いに通用しています。

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「コロナ革命」の時代を生きる 

 

「歴史は70~80年サイクルで繰り返す」と多くの歴史学者が指摘しています。日本の歴史をさかのぼれば、江戸時代の1787年に「天明の打ちこわし」が起きました。天明の大飢饉に端を発した民衆暴動が、江戸、大坂など主要都市で勃発し、国内は混乱を極めたのです。その81年後の1868年に、明治新政府が樹立され、日本は開国へと大きく舵を切りました。さらにその77年後の1945年、第2次世界大戦は終結し、日本は終戦を迎えました。そして、終戦から75年たった2020年、わたしたちを襲ったのは未知のウイルスだったのです。この「目に見えない黒船」は、日本という国、日本企業、そして日本人が覚醒するまたとないチャンスでもあり、今から80年後には「コロナ革命」と呼ばれているかもしれない大変革の真っただ中に、わたしたちはいるのです!

f:id:shins2m:20201016093435j:plain天下布礼」で行こう!
 

 80年後には「コロナ革命」と呼ばれているであろう、現代のさまざまな変化に乗るか、乗り遅れるかで、会社の命運は大きく変わります。ここで大切なことは、ブレないこと。世の中には、変わるべきものと、変えてはいけないものの両方があるのです。わが社の活動の根底には「天下布礼」という思想があります。これは時代の変化に左右されない、わが社の背骨です。かつて織田信長は、武力によって天下を制圧するという「天下布武」の旗を掲げました。しかし、わたしたちは「天下布礼」です。武力で天下を制圧するのではなく、「人間尊重」の思想で世の中を良くしたいのです。天下、つまり社会に広く人間尊重思想を広めることがわが社の使命です。最後に「わたしたちは、氷山の8、9割、すなわち普遍に関わる仕事をさせていただいています。冠婚葬祭が変わることはあっても、冠婚葬祭がなくなることはありません。これからも冠婚葬祭を通じて、良い人間関係づくりのお手伝いをしましょう!」と述べ、わたしは降壇しました。

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最後は、もちろん一同礼! 

 

2020年10月16日 一条真也