哲学堂公園

一条真也です。東京に来ています。
8日の朝、ホテルの客室の窓の外に見事な富士山が見えました。
富士山が見えると、わたしは「今日も良いことがあるぞ!」と思います。
朝食を取ってJR四谷駅まで歩き、そこから総武線で中野に向かいました。


ホテルの客室から見えた富士山

哲学堂公園の案内板


中野で所要を済ませた後、久々に「哲学堂公園」に足を延ばしました。ここは一風変わった個性的な公園ですが、その歴史は、哲学者で東洋大学創立者でもある井上円了博士によって精神修養の場として創設された「四聖堂」から始まります。この日はあいにく、「四聖堂」は修復工事中でした。


哲学堂」とは・・・


明治37年(1904)、東京・小石川原町(現在の文京区白山)に開設された哲学館大学(現在の東洋大学)を記念して「四聖堂」を建設されました。この「四聖堂」には、孔子・釈迦・カント・ソクラテスが祀られ、「哲学堂」とも称され、これが哲学堂の名前の由来となっています。哲学の世界を視覚的に表現することで、哲学や社会教育の場となることを井上博士は目指していたといいます。公式HPによると、哲学堂公園は昭和50年には中野区立公園となっており、「四聖堂」をはじめとする古建築物12棟が中野区有形文化財に指定されているそうです。公式HPでは、主だった建築物を以下のように解説しています。


「四聖堂」は修復工事中でした

「四聖堂」の説明板



●四聖堂(明治37年4月建立)
木造平屋建・方形・桟瓦葺・一重
「本堂に東洋哲学の孔子と釈迦、西洋哲学のソクラテスとカントの『四聖』を世界的四哲人として祀るために建立されました。
哲学の将来的発展を祈念し哲学祭を開催した圓了の意図が具現化された建物です。三間四面の小堂で四面とも正面。中央には哲学の起点、基礎となる二つの象徴として、心即ち精神は円形で光るものとして電球、物即ち物質は心を汚すものとして香炉がおかれています。これは、心が物欲で汚されても修養を積めば清浄な心は失われないことを表していて、内部、天井中央に装飾額があり、釈迦涅槃像(和田嘉平作)が堂内に安置してあります。堂内に南無絶対無限尊と刻んだ石柱、唱念塔(しょうねんとう)をおいています。四聖の像(橋本雅邦画)『孔釈瑣韓』の四字額(副島種臣書)があり11月の哲学堂祭に掲額されます」


六賢台

六賢台の説明板

六賢台の前にて



●六賢台(明治42年11月建立)
木造六角塔・外観2層・内部3層・相輪・一重・二重・桟瓦葺・外部板張
「ここに東洋的哲学人として、日本の聖徳太子菅原道真、中国の荘子朱子、印度の龍樹・迦毘羅仙の六人を『六賢』として祀ってあります。赤色塗り、六角形の周囲六間の建物で、四聖堂の西に建っています。六賢の肖像を各面に扁額として掛け、名称を鋳刻してありましたが現在は見ることはできません。屋根の上に相輪と九つの法輪(九輪)があり、最上部に宝珠を付け屋根の棟瓦の一端に天狗がついています」


宇宙館の前で



●宇宙館(大正2年10月建立)
木造平屋建・方形・桟瓦葺・二重・出隅に切妻ポーチ
「哲理門を抜けた左手にあり、建物脇に幽霊梅(ゆうれいばい)があります。哲学が宇宙の真理を研究する学問であるとの観点にもとづき、さらに圓了の考案で内部横斜めに皇国殿という八畳敷の一室を哲学の講習の講義室として設けられました。聖徳太子立像(和田嘉平作)が堂内に安置され屋根上部の棟部分に烏帽子がついています」


絶対城(図書館)

霊明閣

筆塚



また、哲学堂に隣接して「哲学の庭」なるものがあります。
世界の聖人や哲学者の銅像が一堂に会する一大モニュメントとなっています。公式HPには次のような説明が掲載されています。
「哲学の庭は、宗教・哲学・法を代表する人がそれぞれ同心円上に配置されており、世界の異なった場所の人々が、より相手に近づくことが出来るようになるためには、プラス・マイナスの原点に返ることが必要という作者の考えが反映されています。また作品には民族や歴史、文化などは違っても西洋と東洋をつなぎ、人間社会の本質を考察し、人類の恒久平和の理想を追求した作者ワグナー・ナンドール(和久奈 南都留)の思いが込められています。この彫像群は平成21年(2009年)、日本とハンガリー外交関係 開設140年・国交回復50周年の記念事業の一環として中野区に寄贈されたものです。同様のものがハンガリーの首都ブダペストにも設置されています」


「哲学の庭」のワグナー・ナンドールの彫刻



制作者のワグナー・ナンドールは、ハンガリー出身の彫刻家で、母国からスウェーデンを経て昭和44年(1969)に来日、栃木県益子町にアトリエを建て創作活動の拠点とします。 彼は「分析的美術史」を研究し、その成果から導き出された理論を創作に反映させました。それは「人々の幸せへの道 (TAO)」を開く鍵を確かに次の世代に手渡す」ことを彫刻で表現したのが「哲学の庭」なのです。ワグナー・ナンドールは1997年に逝去していますが、偉大な作品を日本に遺してくれたことに感謝!


「哲学の庭」の第一の輪を背景に

釈迦と老子の間で・・・

キリストと釈迦の間で・・・

宇宙人、いや、エクナトンです



公式HPでは「哲学の庭」の構成が次のように紹介されています。
●第一の輪
中心点に集まる完全な輪で、異なった文化を象徴する、思想を作り世界の大きな宗教の祖となった人物たちが配置されています。
老子(ろうし 道家の祖)
・キリスト(イエス・キリスト キリスト教の基礎を築いた)
・釈迦(しゃか 仏教の開祖)
アブラハムユダヤ教キリスト教イスラム教を信じる、いわゆる聖典の民の始祖)
・エクナトン(エジプト第18王朝第10代の王アメンホテプ4世の別名 アモン信仰を捨てアトン崇拝を開始した)


達磨大師の彫刻と

聖フランシスの彫刻と

ガンジーの彫刻と



●第二の輪
文化や時代が違っても、同じように悟りの境地に達してそれぞれの社会で実践し成果を得た人物たちが配置されています。
達磨大師(だるまたいし 禅宗の開祖とされている人物。中国で活躍した仏教の僧侶)
・聖フランシス(フランシスコ修道会の創設者。カトリック修道士です)
ガンジー(インド独立の父。弁護士、宗教家、政治指導者)


聖徳太子とユスチニアヌスの間で・・・

ハムラビの彫刻



●第三の輪
法の輪で、異なった時代において各々が法をつくり、現存する法律の主流をつくった人物達が配置されています。
聖徳太子(冠位十二階などの他・憲法十七条を制定し、仏教の興隆に力を尽くしました)
・ユスチニアヌス(ローマ法大全を編纂し、ローマ法の集大成を図りました)
・ハムラビ(バビロン第一王朝第六代の王。慣習法を成文化した「ハムラビ法典」を制定しました)


それにしても何という場所!

数多くの聖人像が・・・

こんな壮大な構想をもつ偉大な彫刻群が日本にあるとは!
たかが銅像、されど銅像。やはり「カタチ」にはチカラがあることを改めて思い知りました。わたしは、人間の「こころ」に大きな影響を与えてきた人物や書物に深い関心があります。わたしは以前、『世界をつくった八大聖人』(PHP新書)という本を書きましたが、そこでブッダ孔子老子ソクラテスモーセ、イエスムハンマド聖徳太子の8人を取り上げました。これまでの歴史において最大級の影響を人類に与えてきたばかりでなく、現在もなお影響を与え続けている人々です。


哲学堂公園の事務所

世界をつくった八大聖人』を寄贈しました



聖人たちは、いずれも宗教や哲学といった人間の「こころ」に関する世界を開き、掘り下げていった人々であり、その影響力は現在でも不滅です。人選はともかく、平和を希求する精神から創作された「哲学の庭」は、まさに「こころの世界遺産」と呼べる芸術作品ではないでしょうか。
わたしは哲学堂公園の事務所を訪れ、この奇跡の公園についても紹介した『世界をつくった八大聖人』を2冊寄贈しました。


妖怪門 幽霊

中には幽霊が・・・

妖怪門 天狗

中には天狗が・・・


幽霊と天狗の間で・・・

哲理門(妖怪門)


さて、この哲学堂公園を作った井上円了といえば、「妖怪博士」として有名です。公園内には「妖怪門」の異名を持つ哲理門があり、右には「幽霊」、左には「天狗」が隠れていました。こういう遊び心はたまりませんね。この哲学堂公園で、わたしは大いに魂を遊ばせました。


*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2016年12月9日 一条真也