東京ガスCM中止に思う

一条真也です。
4日の夜は軽く仮眠を取ってから、ひたすら書き物をしました。現在執筆中の『決定版 終活入門』(仮題、実業之日本社)の原稿です。「終活」は「家族」というテーマと切っても切り離せません。原稿を書きながら、わたしは「家族」の在り方について考えていました。一息ついた明け方にネットを開いたところ、「<テレビCM>リアルな就活 批判受け東京ガス放映打ち切り」という「毎日新聞」が配信した記事を見つけました。


その記事には、以下のように書かれていました。
「就職活動中の女子学生の厳しい日々を題材にした東京ガスのテレビCM『家族の絆・母からのエール』篇が、今年2月1日の放送開始から1カ月足らずで打ち切りになったことが話題となっている。当時、就活生やその母親とみられる人から『リアルにできていて心が痛む』などのクレームが寄せられ、そうした声などに配慮したためという。最近になってツイッターなどでこの打ち切られたCMが話題となり、『感動的。見て泣いてしまった』など、打ち切りに疑問を呈する声も上がっている。
CMは、就活中の女子学生が主人公。
志望企業から何十通もの『お祈りメール』(不採用通知、末尾に他社への就職活動の成功を祈念する文が付くことからこう呼ばれる)をもらった末に、ようやく最終面接までこぎ着けた企業からも『お祈りメール』が届く。近所の公園のブランコにぼんやり座っていて、母親に背を押されて号泣。母の作った鍋焼きうどんを食べ、翌朝、スマホに『まだまだ』と打ち込んで再び就活に飛び込んでいくシーンで終わる。
同社によると、CMの放送期間中、『心が痛む』など批判の電話が数件寄せられたという。このCMの前に流していた『家族の絆・ばあちゃんの料理』篇が広告賞の最優秀賞に内定したこともあり、総合的な判断から『母からのエール』編を2月22日で打ち切り、『ばあちゃんの料理』篇に切り替えたという。クレームの件数は多くはなかったものの、2月は就職活動が本格化している時期でもあり、就活生の心情に配慮したとみられる。
このCMをめぐっては、『最後の凜(りん)とした女性の表情、すごくいいなと思う』『(自分が就活をしていた)1年前に見たら嫌な思いしただろうなぁ』などと賛否両論の意見があった。東京ガスには『素晴らしいCMで感動した。なぜ放送を中止したのか』などと尋ねる電話もあったという」



この記事を読んで、わたしは考えさせられました。くだんのCMもYouTubeで観ましたが、わたしは名作だと思いました。このCMを最も観るべき人種は、企業の経営者ではないでしょうか。1人の学生さんの就職活動には、これだけの汗と涙の物語があるという真実を経営者は知る必要があります。もちろん、経営者だけでなく、人事担当者もですが・・・・・・。



でも、「内定」をめぐっては経営者や人事担当者も傷つくことがあるという事実も知ってほしいですね。わたしも「御社が第一希望です!」と言った期待の学生から、最後の最後で辞退されて落ち込んだことが何度もあります。そのような経緯の後で、入社式を迎えるわけですが、かけがえのない人生をわが社に賭けてくれた新入社員の1人1人が愛しく思え、心から感謝の想いが湧いてきます。そして、わたしは「絶対に、彼らの人生を幸せな人生にしてあげなければ!」と思いながら、社長としての責任を痛感するのです。



「家族の絆・母からのエール」篇のCMですが、、就活中の学生さんにはキツイ内容なのは確かでしょう。また、就活中の学生さんの親御さんたちにとっても「心が痛む」かもしれませんね。わたしも同じ年頃の娘がいますので、他人事ではありません。それでも、「現実は甘くない」「それでも、家族がついている」というメッセージを含んだ「家族の絆・母からのエール」篇は素晴らしいCMであり、中止する必要はなかったと思います。



「家族の絆」という言葉がよく使われる場面をわたしは知っています。
それは、結婚式と葬儀の場面です。そう、わたしの本業である冠婚葬祭はまさに「家族の絆」と深く関わっているジャンルなのです。でも、冠婚葬祭とは非日常であり、日常的な「家族の絆」というものがあります。そして、その最も代表的な場面が家庭での食事でしょう。「家族の絆・母からのエール」篇には、その食事で娘の傷ついた心を癒す母親の姿が感動的に描かれています。それにしても、「終活」だけでなく「就活」も「家族」と切っても切り離せないものなのですね。考えてみれば、失恋や失業と同様に、受験や就職の失敗も喪失体験であり、グリーフケアが必要なのかもしれません。



わたしは広告業界の出身ということもあり、良質なCMというものに深い関心があります。東京ガスの「家族の絆」シリーズは最もハートフルなCMとして、これまで注目してきました。もちろん現在住んでいる北九州では地元の西部ガスのCMが流れており、東京ガスのCMを目にする機会は少ないのですが、東京滞在中のホテルで観ることはありますし、YouTubeでも時々チェックしていました。いつも「泣かせるなあ」と思います。



「母からのエール」篇に代わって流された「ばあちゃんの料理」篇も素晴らしい内容ですが、「お弁当メール」篇も大好きです。でも一番泣かされたのは「おてつだい券」編ですね。このCMは、娘を持つ父親にはたまらないでしょう。「母からのエール」が母と娘との心の交流なら、「おてつだい券」は父と娘との心の交流を1つの短編映画のように見事に描いています。
ここに登場する父親の姿は、結婚披露宴で「花嫁からの手紙」に涙する新婦の父親の姿に重なってきます。「家族の絆サポート業」という業種があるとすれば、ガス会社も冠婚葬祭会社も同業ですね・・・・・・。




最後にもう一度、わたしは「母からのエール」篇を名作だと思います。
東京ガスの宣伝部の方々、またこのCMに関わられた広告関係者の方々はぜひ「自分たちは社会に良い影響を与えるCMを作っている」という自覚と自信を持っていただきたいです。



「ごはんの数だけ家族になる」「家族をつなぐ料理のそばに」「家族を温める炎でありたい」といった一連の名コピーから、みなさんの想いがひしひしと伝わってきます。みなさんは、社会に灯をともし、世の人々の心を温めていると思います。どうか、これからも「家族の絆」をテーマとした素晴らしいCMの数々を送り出して下さることを心より期待しています。



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2014年7月5日 一条真也