一条真也です。
たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。今回の「こころの一字」は、「読」です。

f:id:shins2m:20210205103732j:plain一条真也の読書館

 

わたしは、とにかく毎日、読んでいます。
何を読むか。まず、本を読みます。会社にいるときは、読書は一切しません。もちろん自宅の書斎では読みますが、主に読むのは年間の約3分の1を占める出張の移動時間とホテルの部屋にいる時間です。とにかく読めるときは読みます。昔はテーマパークのアトラクションとかラーメン店などの行列に並んでいるときも本を読んでいるので、人からあきれられました。

 

 

別に速読法などを学んだわけではありませんが、読むのは早い方で、多い時で年間に700冊ぐらい読んでいました。それも定規と赤のボールペンで傍線を引きながら読むのです。最近は読んだ後に書評ブログを書くようになったため、読める冊数が減りました。年間300冊ぐらいしか読めていません。わたしが最も本を読んだ時期の読書法は、『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)に詳しく紹介されています。また、書評は『死を乗り越える読書ガイド』(現代書林)、『心ゆたかな読書』(現代書林)の2冊に掲載されています。

 

 

わたしはとにかく読書によって、人生のさまざまな岐路をくぐり抜けて来たように思います。社長に就任してすぐ読んだのは、ドラッカーの『ネクスト・ソサエティ』でした。非常に感銘を受け、『ハートフル・ソサエティ』というアンサー・ブックまで書いたほどですが、その後、ドラッカーの著書はすべて読破しました。40歳になる直前、『論語』を読み、これまた感ずるところ大で、一気に40回も読み返しました。

 

 

あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)の出版を機に、わたしの読書法に興味を持っていただく方も増え、2010年にはテレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」内の「スミスの本棚」で、松岡正剛氏、平野啓一郎氏と並んで「読書の達人」としてご紹介いただきました


スミスの本棚」で「読書の達人」として紹介されました

スミスの本棚」で大いに語りました

 

世界のクロサワの名画に「七人の侍」と「用心棒」という作品がありますが、かつてのわたしには「七人の用心棒」がいました。すなわち、ピーター・ドラッカー、フィリップ・コトラーマイケル・ポーター安岡正篤中村天風松下幸之助稲盛和夫氏の7人です。孔子孟子王陽明といった超大物は別格として、何か経営上で困った問題が発生したら、この7人の本を読めば、たいていの問題は解決するといった時期が長く続きました。



わたしは本を読むときに、その著者が自分ひとりに向かって直接語りかけてくれているように感じながら読むことにしています。高い才能を持った人間が、大変な努力をして勉強をし、ようやく到達した認識を、2人きりで自分に丁寧に話してくれるのです。何という贅沢でしょうか! ですから、わたしは、昔の日本の師弟関係のように、先生の話を正座して1人で聞かせていただくのです。「七人の用心棒」は、「七人の心の師」なのです。


わが書斎の書棚

 

もちろん、「七人の用心棒」以外の本も読みました。もともと哲学や文学には目がありませんし、歴史書や伝記なども努めて読むようにしています。『論語』に心酔してからは、中国の書物を漢文で読むことが多くなりました。幕末維新までのわが国の教育に大きな力となったものは、漢籍素読儒学の教養でした。なかんずく中国の歴史とそれに登場する人物とが、日本人の人間研究に大きく役立ったのです。『史記』『十八史略』『三国志』『資治通鑑』『戦国策』などは当然読むべき教養書でした。



あの福沢諭吉ですら『左伝』15巻を11回も読み通して、その内容はすべて暗誦していたといいます。これが福沢の人間を見る目をつくったのでした。漢籍でまず鍛えられた頭脳で、蘭学や英語をやったから眼光紙背に徹する勢いで、たちまち西洋事情を見抜いてしまったのです。中国は広大な大陸に広がる天下国家で、異民族による抗争の舞台であり、その興亡盛衰における権力闘争は、それ自体が政治のテキストであり、これに登場する人物は、大型、中型、小型、聖人もあれば悪党もあり、そのヴァラエティさは万華鏡の如くです。まさに人間探求、人物研究の好材料を提供してくれるわけで、日本人は中国というお手本によって人間理解の幅を大きく広げ、深めてきたと言えます。


プロイセンの鉄血宰相ビスマルクに「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という有名な言葉がありますが、西欧の人々は主にローマ帝国の衰亡史などを参考に人間理解をしてきました。生物のなかで人間のみが、読書によって時間を超越して情報を伝達できるのです。人間は経験のみでは、1つの方法論を体得するのにも数十年かかりますが、読書なら他人の経験を借りて、1日でできます。つまり、読書はタイム・ワープの方法なのです。


社内報の「社長のおススメ本」

 

人生を商売にたとえてみると、すべて仕入れと出荷から成り立っています。そこで問題となるのは仕入れであり、その有力な仕入先が読書です。わたしは、「良い本だな」と思えば、社員にもどんどんその本を紹介します。毎月の社内報でも「仕事に役立つ、社長のおススメ本」というコーナーがありますし、冠婚葬祭互助会の会員情報誌「ハートライフ」でも本の紹介をしています。

 

何を読むか。社内メールをはじめ、各種メールを読みます。日々の実績速報、金融機関の預金状況、社内通達の内容、毎朝届けられる膨大な情報を一気に読みます。そして、会議では業績報告書や財務諸表を読みます。真剣に読めば、会社の未来が読めてきます。友人や知人からの私的なメールは心のオアシスとなります。最近はLINEも読みます。わが社の社員の中には、信じられないほど長文のLINEを送ってくれる人もいます。わたしが発信した情報やメッセージに対する反応が主ですが、その内容は驚くほど濃いです。

 

何を読むか。「お客様アンケート」を読みます。冠婚部門、葬祭部門に分かれて全国から数え切れないほど多くのアンケート・ハガキが社長であるわたしのもとに届きます。すべてのハガキはお客様からわが社へのラブレターととらえ、一枚ずつ一字一句をじっくり読ませていただきます。内容がクレームの場合、お客様に不愉快な思いをさせた申し訳なさと、大事なことを教えていただいた有難さで、ハガキに向かって手を合わせます。逆にお褒めの言葉をいただくこともあります。「サンレーさんにお願いして、本当に良かった」というような言葉に触れると、嬉しくて涙が出ます。

 

グッドコメントにせよバッドコメントにせよ、お客様からのメッセージを読むたびにわが社の使命が思い起こされ、心の底から「もっとお客様のお役に立ちたい」という強い想いが生まれてきます。わたしは、ハガキを通して、お客様の心を読ませていただいていると思っています。なお、「読」については、『孔子とドラッカー 新装版』(三五館)に詳しく書きました。

 

 

2022年7月29日 一条真也