「トップガン マーヴェリック」

一条真也です。
大ヒット中の映画「トップガン マーヴェリック」をシネプレックス小倉で観ました。いろんな人から「最高に感動した」という声を聞いていましたが、前作を観ていないので、スルーしていました。しかし、「映画を愛する美女」こと映画ブロガーのアキさんから「前作観ていなくても楽しめます」「絶対、一条さん好きですよ!」とのLINEが届いたので鑑賞を決意しました。観た感想は、「これは映画史に残る大傑作だ!」です。


ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
トム・クルーズをスターダムにのし上げた出世作トップガン』の続編。アメリカ軍のエースパイロットの主人公マーヴェリックを再びトムが演じる。『セッション』などのマイルズ・テラーをはじめ、『めぐりあう時間たち』などのエド・ハリス、『ビューティフル・マインド』などのジェニファー・コネリー、前作にも出演したヴァル・キルマーらが共演。監督は『トロン:レガシー』などのジョセフ・コシンスキー

 

ヤフー映画の「あらすじ」は、「マーヴェリック(トム・クルーズ)は、かつて自身も厳しい訓練に挑んだアメリカ海軍パイロットのエリート養成学校、通称『トップガン』に教官として戻ってくる。父親と親友を空で失った過去を持つ彼の型破りな指導に、訓練生たちは反発する。彼らの中には、かつてマーヴェリックの相棒だったグースの息子ルースター(マイルズ・テラー)もいた」です。


トップガン マーヴェリック」を観る日の前の夜、前作である「トップガン」(1986年)U-NEXTで観ました。今から36年も前の作品であり、今年7月3日で60歳になるトム・クルーズが24歳の若さで主演しています。物語の舞台は、カリフォルニア州ミラマー海軍航空基地。そこにF-14トムキャットを操る世界最高のパイロットたちを養成する訓練学校、通称“トップガン”がありました。若きパイロットのマーヴェリック(トム・クルーズ)もパートナーのグース(アンソニーエドワース)とともにこのトップガン入りを果たし、自信と野望を膨らませます。日々繰り返される厳しい訓練も、マーヴェリックはグースとの絶妙なコンビネーションで次々と課題をクリアしていきます。しかしライバルのアイスマン(ヴァル・キーマー)は、彼の型破りな操縦を無謀と指摘。その一方で、マーヴェリックは新任の女性教官チャーリー(ケリー・マクギリス)に心奪われていくのでした。

 

わたしは、シリーズ最新作だけを観るというのが大嫌い。というのも、ストーリーの流れを把握しておかないと理解できない部分が多く、当然ながら映画を楽しめず、せっかくの映画鑑賞が台無しになるからです。じつは、同じトム・クルーズ主演の「ミッション・インポッシブル」のように、「トップガン」も数本のシリーズ前作があると思い込んでいました。それで最新作「トップガン マーヴェリック」の鑑賞をためらっていたのですが、前作が「トップガン」1作のみと知って、あわてて前夜に観た次第です。トム・クルーズは「トップガン」という作品を深く愛していて、安易な続編が作られないように続編の製作権を自ら買い取ったといいます。続編を「作る」ためにではなく、「作らせない」ために権利を買ったのです。彼がどれだけ「トップガン」を愛していたのかがわかります。


結論から言うと、「トップガン マーヴェリック」は前作「トップガン」を観ていた方がより楽しめると思いましたが、アキさんのように「前作観ていなくても楽しめます」という人が多いのは、シリーズではなく単独作品としてパワーを持っているのでしょう。あと、「トップガン マーヴェリック」は明らかに“男の映画”だと思うのですが、アキさんをはじめ、多くの女性たちを感動させているという事実を興味深く思いました。「トップガン」のヒロインであるチャーリーはケリー・マクギリスが演じていますが、一見、セックス・シンボルのようでいて、しっかりと自分の仕事にプライドを持った女性教官でした。「トップガン」には、グースの妻としてメグ・ライアンも出演していましたが、今回はケリーもメグも出ていません。代わりにヒロインとして、マーヴェリックの元カノのペニー役でジェニファー・コネリーが出演しています。


ジェニファー・コネリーといえば、「フェノミナ」(1985年)や「ラビリンス/魔王の迷宮」のイメージが強く、可憐な美少女といった印象でしたが、現在は51歳の美魔女(ちょっとケバイけど)になっています。「マーヴェリック」の制作時はジェニファーが49歳、トム・クルーズは57歳ですが、2人はラブシーンを演じています。それもキスシーンだけでなく、ベッドシーンまでやっているのですから、トムより1歳下のわたしは「俺も頑張らないと!」と思いました。(笑)「マーヴェリック」では海軍大将のアイスマンを前作と同じヴァル・キーマーが演じていますが、ほとんど声が出ないガン患者の役でした。実際のヴァル・キーマーもガンに冒されていたそうで、その声はAIで再生したといいます。前作をリスペクトするトムはどうしても彼に出演してほしかったのですね。


すべての映画にはグリーフケアの要素があるというのがわが持論ですが、「トップガン マーヴェリック」はまさにグリーフケア映画でした。前作では、父と親友を大空で亡くしたマーヴェリックの悲嘆からの回復が描かれましたが、今作では未だに親友グースの死をマーヴェリックが引きずっていることがわかります。もう1人、グースの死の悲嘆を抱えたまま生きている人物がいました。グースの息子ルースター(マイルズ・テラー)です。彼はマーヴェリックのことを「父を死なせた張本人」であり、「自分の未来を邪魔した悪人」と誤解しますが、共に困難なミッションに挑んだこともあってマーヴェリックへの誤解を解き、2人は固く抱き合います。そのとき、マーヴェリックの長年のグリーフはついにケアされたのでした。親友だったグースの代わりに、マーヴェリックはルースターの父親のような心境でした。もともとアメリカ映画には「父性」というメインテーマが一貫して流れているとされていますが、その意味で「トップガン マーヴェリック」はアメリカ映画の王道を行く作品であると思います。


マーヴェリックとグースの間には絆があったように、マーヴェリックとルースターの間にも絆が生まれました。「隣人愛の実践者」こと認定NPO法人抱樸の奥田知志理事長が語られていましたが、「絆」という字の中には「傷」という字が入っています。長年のホームレス支援の現場で、奥田さんが確認し続けたことは、「絆」には「傷」が含まれているという事実だったといいます。本当の絆は、傷を共有した者、すなわち辛苦を共にした者しか持ち得ないのです。その意味で、生死を共にした戦友という関係には最高の「絆」があります。だからこそ、海軍大将であるアイスマンと一介の大佐にすぎないマーヴェリックの間にも「絆」があり、ミッションの訓練時には対立していたルースターとハングマン(グレン・パウエル)の間にも単なる重要を超えた「絆」が生まれたように思います。


マーヴェリックをはじめとしたトップガンの精鋭たちは、自らの生命の危険も顧みず、まさに「ミッション・インポッシブル」ともいうべき任務に向かいます。出撃する直前に、マーヴェリックが世話になった黒人の同僚に「今のうちに『ありがとう』と言っておくよ」と言った場面は感動的でしたが、わたしは神風特攻隊のことを連想しました。この「トップガン マーヴェリック」という映画は明らかにアメリカの軍事力を礼賛している内容ですが、その米軍が心底怖れたのが日本の神風特攻隊の“カミカゼ・アタック”でした。若い特攻隊員たちの恐怖、未練、葛藤は言葉に尽くせないものだったでしょう。しかし、「自分の一撃が故郷を救い、家族を救う」と考え、自らを奮い立たせたのでしょう。彼らの間には、強い強い「絆」があったと思います。 ブログ「知覧特攻平和会館」にも書いたように、2013年6月13日、久々に知覧特攻平和会館を訪れ、わたしは涙を流しました。そして、英霊たちに心からの鎮魂の祈りを捧げました。「この方々に恥じないような人生を送りたい」「少しでも世のため人のために尽くしたい」という想いが心の底から強く湧いてきました。


さて、「トップガン マーヴェリック」の冒頭で、主人公のピート・“マーヴェリック”・ミッチェル海軍大佐は米海軍の過去40年間において空中戦で3機の敵機撃墜記録を持つ唯一のパイロットであることが明かされます。正直、わたしは「たったの3機かい!」と思いました。なぜなら、わたしがかつて愛読した『大空のサムライ』の著者である日本の海軍軍人・坂井三郎の公認撃墜数は28機だからです。もちろん、時代も戦闘機の性能も違うことは理解しています。太平洋戦争におけるエースパイロットだった坂井ですが、1942年8月7日、ガダルカナル島上空で空母エンタープライズから発艦したF4Fワイルドキャット群との空中戦になりました。坂井はワイルドキャット機と見誤ってドーントレス機の後方に接近したため、後部旋回連装機銃の集中砲火を浴びました。集中砲火の1発が坂井の頭部に命中、失神して海面に急降下途中でなんとか意識を戻し水平飛行に立て直し、出血状態で意識喪失を繰り返しながら、ラバウルまでたどり着いて生還を果たしたといいます。このエピソードが「トップガン マーヴェリック」の〝第3の奇跡“に重なりました。坂井三郎にしろ、マーヴェリックにしろ、エースパイロットというのは必ず生還する能力を持っているのです。


ドラマも素晴らしいし、アクションシーンも最高の「トップガン マーヴェリック」ですが、唯一のツッコミどころは、敵の存在です。とあるならず者国家NATO条約に違反するウラン濃縮プラントを建設し稼働させようとしていたため、それを破壊すべく特殊作戦が計画されました。マーヴェリックは、同作戦に参加させるためにトップガン卒業生から選りすぐられた若き精鋭パイロット達に対し、特殊対地攻撃作戦の訓練を施す教官として抜擢されました。この任務は、基地周辺の強力な防空網を避けるために険しい渓谷を超低空・超高速で飛行しなければならず、電磁波妨害も行われているため、GPSを用いる最新鋭機のF-35は役に立たないという極めて困難な任務であった・・・・・・というわけですが、その「ならず者国家」とは一体どこなのか? 映画では敵の顔は一切見えません。一説ではイランではないかとも言われていますが、多くの観客は時節柄、ロシアか中国を連想したのではないでしょうか? ちょっとこのへんにリアリティがないというか、「敵が不明でもアメリカの強さを誇示するのは凄いな!」と思ってしまいました。


最後に、パイロットという職業に対するマーヴェリックの愛情とプライドに感じるものが多かったです。無人機が主流となる戦闘機の世界で、今やパイロットという淑行が絶滅しつつあると、サイクロン海軍中将(ジョン・ハム)は冷徹にマーヴェリックに告げます。しかし、マーヴェリック「まだ、今は存在している」と言って、任務に就くのでした。わたしは、ブログ「ニューシネマ・パラダイス」で紹介した1989年のイタリア映画に登場する映写技師のアルフレードのことを思い浮かべました。一般に名作とされている「ニューシネマ・パラダイス」という映画をわたしはまったく認めていないのですが、その理由の1つは、「ぼくは映写技師になりたい」というトトに向かって、アルフレード老人は「やめたほうがいい。こんな孤独な仕事はない。たった一人ぼっちで一日を過ごす。同じ映画を100回も観る。仕方ないから、ついついグレタ・ガルボタイロン・パワーに話しかけてしまう。夏は焼けるように暑いし、冬は凍えるほど寒い。こんな仕事に就くものじゃない」と言って、自身の仕事を卑下するからです。


じつは、わたしに「トップガン マーヴェリック」を薦めてくれた人の1人に「ニューシネマ・パラダイス」の信奉者もいました。その人は、「ニューシネマ・パラダイス」を認めないわたしのブログ記事を読んで激怒しました。いま、わたしはその人に「自分の仕事への愛とプライドが、マーヴェリックとアルフレードとでは天と地ほども違いますね」と言いたいです。パイロットだけでなく、社会のIT化で消える職業というのはたくさんあると思います。また、今回のコロナ禍で消えつつある職業も多いでしょう。しかしながら、大衆食堂の店主から高級クラブのホステス嬢まで・・・・・・自分の仕事に誇りを持って、その仕事を残そうと懸命に奮闘している人たちもたくさんいます。自分の仕事を心から愛し、誇りを持っているすべての人のために、この「トップガン マーヴェリック」という奇跡のような名作は作られたような気がしてなりません。


何より、「トップガン マーヴェリック」という映画そのものが、トム・クルーズの映画俳優という仕事への愛情とプライドを示しています。この作品のキャッチコピーは「誇りをかけて、飛ぶ」ですが、トムはにとっては「誇りをかけて、演じる」だったのです。この作品は2019年に製作されました。直後に新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、何度も公開が延期されています。ついにはネット配信に入れるという案も何度も出たそうですが、トムは「この映画は、どうしても劇場で観てほしい」と譲らなかったそうです。結果は、映画館での映画鑑賞という営みがこの上なく素晴らしいものだということを世界中で証明しました。トムは配信系オリジナル作品に1度も出演してない最後のスクリーン俳優です。「トム・クルーズがいる限り “映画体験” は絶滅しない」といった声も多く、「トップガン マーヴェリック」は「ニューシネマ・パラダイス」などよりも遥かに映画というものの価値を高めたと思います。最後に、わたしの1歳年長であるトムの見事な肉体美には唸りました。俺も、明日からは、朝の腕立て伏せの回数を200回に増やそうかな?

 

2022年6月19日 一条真也