死を乗り越える永井荷風の言葉

 

日本人は三十の声を聞くと
青春の時期が過ぎてしまったように
云うけれども、情熱さえあれば人間は
一生涯青春で居られる。(永井荷風

 

一条真也です。
言葉は、人生をも変えうる力を持っています。今回の名言は、永井荷風(1879年~1959年)の言葉です。東京出身の小説家ですが、西洋化されていく日本文明を批判し、かつての江戸文化を深く愛した粋人でした。耽美派の旗手として「あめりか物語」「すみた川」などを発表し、穏やかな詩情や鋭い芸術鑑賞によって文化勲章を授章。

 

 

荷風は、その晩年において奇行が目立ちます。独居生活をおくり、浅草で踊り子たちと過ごしていたという話など、愛される老人だったようです。ただ、彼のこの言葉を知ったとき、奇行に見える彼の行動は、「青春」という意識の中での自由さからだったのかと思えば、理解できます。

 

 

永井には教育者としての顔もありました。森鴎外などの推薦で慶応大学の教壇に立ちます。ハイカラーにボヘミアンネクタイという洒脱な服装で講義に臨んだといいます。内容は仏語、仏文学評論が主なもので、時間にはきわめて厳格で、「講義は面白かった。しかし雑談はそれ以上に面白かった」と、教え子の1人だった作家の佐藤春夫の言葉が遺っています。



1959年、自宅で荷風の遺体が見つかります。今でいえば孤独死ということになります。傍らに置かれたボストンバッグには、常に持ち歩いた土地の権利証、預金通帳、文化勲章など全財産があったといいます。情熱をもって人生を走り抜けることに全力を尽くした、その結果なのでしょうか。いかにも荷風らしい最期だと思います。なお、この永井荷風の言葉は『死を乗り越える名言ガイド』(現代書林)に掲載されています。

 

 

2022年5月25日 一条真也