『グリーフケアの時代』の書評論文

一条真也です。
東京に来ています。11年目の「3・11」となる今日、わたしは上智大学を訪れました。上智大学グリーフケア研究所所長の島薗進先生、同研究所特任教授の鎌田東二先生の最終講義を拝聴するためですが、そこで研究所の紀要である『グリーフケア』第10号を受け取りました。島薗先生の「巻頭言」、鎌田先生の論文「スピリチュアルケアと芸術――グリーフケア研究所人材養成講座での授業を振り返りつつ――」などが掲載されています。

f:id:shins2m:20220311123809j:plainグリーフケア』第10号

f:id:shins2m:20220311142208j:plain秋丸知貴氏による書評論文

 

その他にも興味深い論文が並ぶ『グリーフケア』第10号の最後には、「島薗進鎌田東二佐久間庸和共著『グリーフケアの時代』を巡る考察」という書評論文が掲載されていました。執筆者は上智大学グリーフケア研究所の特別研究員である「京都の美学者」こと秋丸知貴氏です。秋丸氏は、島薗先生と鎌田先生と小生の共著である『グリーフケアの時代』(弘文堂)の書評論文を書かれたわけですが、冒頭には「要旨: 上智大学グリーフケア研究所に在籍する島薗進鎌田東二佐久間庸和が2019年に共著で出版した『グリーフケアの時代――「喪失の悲しみ」に寄り添う』の内容を詳細に読解する。併せて、本書に至るまでの彼等の研究の歩みをそれぞれの単著を基に分析すると共に、現在グリーフケアが広く社会に要望されている時代背景を多角的に考察する」「キーワード: 死生学、グリーフケア、宗教、儀礼、死生観」と書かれています。

f:id:shins2m:20191207160850j:plain
週刊読書人』2019年11月29日号

 

ブログ「『週刊読書人』の『グリーフケアの時代』書評」で紹介したように、秋丸氏は『週刊読書人』2019年11月29日号に同書の書評を書いて下さいました。今回の書評論文はそのアップグレード版で、全部で17ページにわたって詳しく考察して下さっています。基本的に同書に書かれた3人の文章の内容、3人それぞれの単著、さらには3人の業績の紹介が主な内容ですが、「4.佐久間庸和一条真也)について」には、「1963年生まれの佐久間庸和は、冠婚葬祭業大手の株式会社 サンレー代表取締役社長であり、 一条真也ペンネームで100冊以上の思想的著作を持つ作家である」と書かれています。

f:id:shins2m:20190817095759j:plainグリーフケアの時代』(弘文堂)

 

また、秋丸氏は「一条は、2018年に 上智大学グリーフケア研究所客員教授に就任している。担当科目は、東京四谷キャンパスの『スピリチュアルケア原論』(コーディネーターは島薗進)である。鎌田と一条は、『ムーンサルトレター』と題して満月の度ごとにインターネット上で公開文通している。これは、2021年11月19日に200信を数え、これまで既に『満月交感(上・下)』(2011年) 、『満月交遊(上・下)』(2015年) 、『満月交心』(2020年) という5冊の本になっている。一条の著作も、極めて数多い。社長業をこなしながら、エイジ・ブックス(自分の年齢と同じ数の著作の出版)を達成し、毎日長文のブログ記事を執筆している。驚くべきことに、その一冊一冊、一記事一記事が極めて高密度の内容であり、実際に2012年には第2回孔子文化賞を受賞している。さらに、『ハートフル』という概念を広く一般に定着させたプロのプランナーでもある。鎌田を『学者詩人』とすれば、一条は『詩人哲学者』であり『哲学的実業家』と形容できる」とも書かれています。過分なお言葉、まことに恐縮です!

f:id:shins2m:20220311220124j:plainムーンサルトレター書籍化5冊

 

続いて、秋丸氏は「そうした一条の研究を理解するキーワードは、『幸福』である。つまり、その活動の根底には、常にどうすれば人間を幸福にでき、社会をより良いものにできるかという強い志がある。一条は、青年時代から『幸福』と名の付くものはできる限り全て目を通してきたという。その中で理解したことは、人間の幸福は『死』の問題を抜きにしては考えられないということであった。なぜならば、人間は必ず死ぬので、もし死が不幸であれば人間は決して幸福になれないことになるからである。この死をどう幸福なものへ転換するかが、今日に至るまで一条のライフワークである」と書かれています。

f:id:shins2m:20220311221212j:plainハートフルに遊ぶ』と『遊びの神話

 

続いて、秋丸氏は「一条のデヴュー作は、20代半ばで大手広告代理店東急エージェンシーの入社1か月後に出版した『ハートフルに遊ぶ』(1988年) である。この本は、バブル時代を反映して最新の若者文化を幅広く紹介するデータベース的性格を持ちベストセラーになる。当時のマスコミの取り上げ方も、『なんとなくクリスタル』で時代の寵児になった田中康夫の後継者的扱いであり、新時代のトレンドセッターの役割を期待されていた。ところが、既に第2作の『遊びの神話』(1989年) で、一条は『ハート化社会とは彼岸の世界への関心が高まる時代でもあるのだ』(2頁)と書き、『ハートフルという言葉は「遊び」「幸福」「宗教」などと同義語である』(3頁)と述べている。このことから、一条は当時から物質的幸福だけではなく精神的幸福も重視していたことが分かる」と書かれています。

f:id:shins2m:20220311220442j:plain結魂論』と『老福論

 

その後、『ハートビジネス宣言』(1992年)の上梓をもって10年間の休筆期間に入ったことが紹介され、「一条は約10年の思索の深まりを経て出版活動を再開し、2003年に『結魂論』と『老福論』を同時出版している。主に、前者は人生における結婚の意義と結婚式の重要性を考察するものであり、後者は高齢化社会における精神的幸福の在り方と長寿祝いの重要性を論察するものであった。そして、そうした儀式の中でも一条が特に重視したのはやはり葬式である。なぜなら、元々一条は死を幸福なものに転化することに強い関心があったが、それに加えてそもそも葬式をしないと遺族の悲嘆が癒されず様々な健康上の弊害が発生することを実感したからである。つまり、『葬儀というものを人類が発明しなかったら、おそらく人類は発狂して、とうの昔に絶滅していただろう 』。しかし、時代の潮流は、次第に葬式を簡略化する『家族葬』や、葬式を否定する『直葬』を支持する方へ向かっていた。そうした状況を受けて、島田裕巳が『葬式は、要らない』(2010年) を発表し、少なからぬ話題を呼ぶことになる」と書きます。

唯葬論』と『儀式論

 

さらに秋丸氏は、「これに対し、一条はすかさずその約3か月後に『葬式は必要!』(2010年) を緊急出版している。そして、この本の中で葬式がいかに人間の心の健康と平安にとって必要であるかを論証している。共に新書であったことに加え、その後論壇で繰り広げられた一条と島田の論争は大勢の耳目を集め、正に日本中の人心を二分するほどの大きな影響力を持つことになった。現在、『葬式必要論』の最大のオピニオン・リーダーが一条であることは衆目の一致するところである。こうした経緯から、一条が改めて葬式を中心とする儀式の重要性を歴史的・文化的・思想的に読解したのが、『唯葬論』(2015年) や『儀式論』(2016年) 等である。そして、そうした問題意識を改めて様々に社会提言したのが、『ハートフル・ソサエティ』(2005年) やその改訂版の『心ゆたかな社会』(2020年) 等である」と書かれています。

f:id:shins2m:20220311220516j:plainハートフル・ソサエティ』と『心ゆたかな社会

 

そして、「一条の研究の歩みは、実業と学問の相互作用として冠婚葬祭を中軸とする儀式の重要性を広く社会に訴えるものであったといえる。そうした問題意識が、従来儀礼はどのように人々の心を癒してきたかを論じる『グリーフケアの時代』の考察に繋がっている」とし、「おわりに」では「以上のように、『グリーフケアの時代』は、コンパクトながら現代日本社会のニーズに広く応答する時宜を得た一冊であり、 上智大学グリーフケア研究所に在籍する三人の論客の長年の考察内容の精髄(エッセンス)である。そして、2012年に髙木慶子初代所長を中心に上智大学グリーフケア研究所が取り組んだ『グリーフケア入門』 に続く、研究所第二期を代表する研究成果の社会発信といえる」と結ばれるのでした。過分なお言葉に恐縮しつつも、この論文を書いて下さった秋丸知貴氏に感謝いたします。

f:id:shins2m:20220314210156j:plainこの日の『グリーフケアの時代』共著者3人

 

2022年3月11日 一条真也