妖怪アマビエ

一条真也です。
新型コロナウイルスに関して、興味深いムーブメントが起きています。「アマビエ」という妖怪です。江戸時代に熊本(当時は肥後の国)の海に現れたという半魚人のような妖怪なのですが、「疫病が流行したら自分の姿を絵に描いて広めなさい」といい残して海の中に消えたといいます。

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江戸時代に描かれたアマビエ

 

今、なぜ注目が集まっているかというと、うろこのある体に長い髪の毛とくちばしの姿を描いて見せることで妖怪「アマビエ」が疫病から人間を守ってくれるという言い伝えがあるのです。SNSでは、「アマビエチャレンジ」や「アマビエ祭り」というキーワードで、タレントの原田龍二氏をはじめとして、多くの人々が自作のアマビエを披露しています。描くだけでは物足らず、彫刻したり、アマビエのラテアート。布でアクセサリーを作ったり、小さいミニチュアに挑戦する人や、自らアマビエのコスプレをするという人も登場しています。

 

妖怪談義 (講談社学術文庫)

妖怪談義 (講談社学術文庫)

  • 作者:柳田 國男
  • 発売日: 1977/04/07
  • メディア: 文庫
 

 

つくづく、日本人は妖怪好きな民族なのだなと思います。妖怪アマビエは、困ったときには「尋常ならざる畏きモノ」にすがる日本人の心性と、それらとの距離感を示した好例だと思います。日本民俗学創始者である柳田国男は、著書『妖怪談義』において、「我々の畏怖というものの、最も原始的な形はどんなものだったろうか。何がいかなる経路を通って、複雑なる人間の誤りや戯れと、結合することになったでしょうか」といった問題意識から、さまざまな「妖怪」の正体を明らかにしていきます。そして、柳田は「妖怪とは神の零落した姿」と主張します。この新型コロナウイルスによる病禍がうまく収まれば、アマビエは信仰を得て、「妖怪」から「神」へと変わるかもしれません。そうした日本人の信仰の点からも、興味深い話だと思います。



2020年3月18日 一条真也