ものすごくいい話

一条真也です。大分に来ています。
全互連の西日本ブロック会議の懇親会に参加すれども、風邪で体調が優れず、二次会はキャンセルして大分センチュリーホテルの客室で休んでいました。TVをつけてNHKニュースを見ていたら、ものすごくいい話を知りました。

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感動しました!(NHKニュースより)

 

沖縄タイムス」の記事を元にしたニュースですが、「『もうなくしません』 飛行機代を借りた高校生、恩人の医師と再会 6万円返す」の見出しで、こう書かれていました。
「沖縄工業高校 2年の崎元颯馬さん(17)が、帰省直前に財布をなくした際に飛行機代6万円を貸してくれた埼玉県の医師・猪野屋博さん(68)と21日、同校で再会した。猪野屋さんは、颯馬さんを見るなり「久しぶりだな」と自ら手を差し出して握手し、うれしそうに顔をほころばせた。
『あの時は本当にありがとうございました。おかげで伯父の葬儀に出られました』と頭を下げた颯馬さん。猪野屋さんの笑顔を見るとほっとした様子で、感謝の言葉を伝え、封筒に入れたお金を無事返金した。颯馬さんは4月24日、伯父の葬儀のため実家の与那国島へ帰ろうとしていたが、モノレールで那覇空港駅に着いた際、財布がないことに気付いた。途方に暮れていたところ、猪野屋さんが声を掛け、飛行機代を貸してくれた。猪野屋さんは『言葉少なで困った様子の彼を見て、詐欺師ではないだろうと思った』と振り返る。でも『貸したお金は返ってこないと思っていた。埼玉に戻った後、友人たちには「だまされたんだよ」と言われた』と苦笑いする。
今月10日、ウェブニュースで颯馬さんの記事を見た時は、涙が出るほど感動したという。『人に裏切られることも多い時代に、お互いを大切に思ったからこそ再び会うことができた。これからも、相手を思う気持ちを大切にしてほしい』と話した。『自分も困っている人の話に耳を傾けられる大人になりたい』と颯馬さん。『感謝の気持ちが伝われば』と授業で習った技術を生かし、猪野屋さんと颯馬さんの名前に『感謝』の文字を刻んだ自作の文鎮もプレゼントした。猪野屋さんの来県に合わせて与那国島から駆け付けた父の恒男さん(48)は、与那国花織の名刺入れや、実家が経営する崎元酒造の古酒を贈った。すると、猪野屋さんからもサプライズで颯馬さんに贈り物が渡された。包みを開けると、中には二つ折りの財布。颯馬さんは『もうなくしません』と集まった報道陣を前に宣言し、猪野屋さんを笑わせた」

 

わたしは、このニュースを見て、風邪で熱がある上に紹興酒で酔っ払っていたこともありますが、もうボロボロになるまで泣きました。いまどき、こんないい話があるでしょうか。しかも、高校生が伯父さんの葬儀に参列しようとしたことが事の発端なのです。わたしは、「この世も捨てたもんじゃない!」と心から思いました。
いやあ、颯馬さんに6万円を渡した猪野屋博さんは本当に素晴らしい! わたしは56歳になったばかりですが、68歳だという猪野屋さんのような素敵な大人になりたいと心から思います。猪野屋さんは笑顔も最高だし、最後に颯馬さんに財布をプレゼントしたのも粋のきわみですね! 

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猪野屋博さん(NHKニュースより)

 

私事ですが、本当に困っている方にまとまったお金を渡したことは何度もあります。でも、それが返ってきたことなどありませんし、逆に嫌な思いをしたこともしばしばです。悲しいことに、本当に困っている人が善人とは限らないのですね。つい最近もそんな嫌な出来事がありました。もちろん、わたしも経営者ですので、お金にはシビアでなければなりません。多くの社員やお客様のことを考えても、わたしが騙されることは許されません。それでも、わたしは「人間を信じたい」と思います。そして、わたしが生きているうちに猪野屋さんのような経験ができれば最高ですね。

f:id:shins2m:20190521222339j:plainブックレット『沖縄力』(2010年6月刊行)

 

そして、わたしはこの感動的なニュースをNHKで知ったことにさらに感動しました。NHKといえばかつて「無縁社会」キャンペーンを展開したことで知られますが、このニュースはまったく真逆を行く内容だったからです。ブログ『沖縄力』で紹介したブックレットは「沖縄タイムス」に連載したわたしのコラムを収めたものですが、その第4回目は「無縁社会と沖縄」と題して、以下のように書きました。

 

NHKスペシャル「無縁社会〜無縁死3万2千人の衝撃」の反響がすさまじいようです。日本の自殺率は先進国中でワースト2位ですが、ここ最近、身元不明の自殺とみられる死者や行き倒れ死などが急増しているそうです。引き取り手のない遺体が増えていく背景には、日本社会があらゆる絆を失っていき、無縁社会と化したことに大きな原因があるようです。かつて日本社会には「血縁」という家族や親族との絆があり、「地縁」という地域との絆がありました。日本人は、それらを急速に失っています。
では、わたしたちが幸せに生きるためには、どうすべきか。何よりも、先祖と隣人を大切にすることが求められると思います。まず死者を忘れないということが大切です。わたしたちは死者とともに生きているのであり、死者を忘れて生者の幸福など絶対にありえません。最も身近な死者とは多くの人にとって先祖でしよう。先祖をいつも意識して暮らすということが必要です。もちろん、わたしたちは生きているわけですから、死者だけと暮らすわけにはいきません。
ならば、誰とともに暮らすのか。まずは、家族であり、それから隣人ですね。考えてみれば、祖父母や両親とは生ける「先祖」であり、配偶者や子どもは最大の「隣人」です。現代人はさまざまなストレスで不安な心を抱えて生きています。ちょうど、空中に漂う凧のようなものです。そして、凧が安定して空に浮かぶためには縦糸と横糸の両方が必要ではないでしょうか。縦糸とは時間軸で自分を支えてくれるもの、すなわち「先祖」です。横糸とは空間軸から支えてくれる「隣人」です。この二つの糸があれば、安定して宙に漂っていられる、すなわち心安らかに生きていられる。これこそ、「幸福」の正体ではないかと思います。
沖縄の人々は日本中のどこよりも先祖と隣人を大切にします。それだけではない。「いちゃりばちょーでい」という言葉は「一度会ったら兄弟」という意味です。沖縄では、あらゆる縁が生かされるのですね。まさに「袖すり合うも多生の縁」は沖縄にあり!「守礼之邦」は大いなる「有縁社会」でもあるのです。すべての日本人が幸せに暮らすためのヒントが沖縄にはたくさんあります。沖縄には「無縁社会」は無縁であると信じています。

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世の中捨てたもんじゃない(NHKニュースより) 

 

2019年5月22日 一条真也